表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エタ  作者: ling-mei
9/21

第9話

 東へ続く道は、ますます険しくなってきた。もはや、道ではなかった。動物でさえ、こんな道は通らないだろうと思われた。しかし、ムーはひるまず進んでいく。エタは、その強さに感心しながらついていった。

 いきなり、ムーは立ち止まった。

「どうしたの?」

 エタはムーの顔をのぞき込んだ。ムーは、急に咳き込んだかと思うと、ぶどう酒のような真っ赤なものを吐き出した。ごぼごぼと音をたて、ムーは真っ赤に鈍く光る液体を何度も吐いた。エタは、驚愕の目でそれを見た。その液体は、自分がいつも作る傷口からあふれるものと、瓜二つだった。

「ムー?」

 エタが次に名前を呼んだときには、ムーはすでに倒れていた。息がなかった。身体中の毛が、かちこちに固まっていた。爪も牙も、はがれて地面に情けなく落ちていた。いやな臭いが立ち込めた。生き物が死ぬ臭いだった。エタは鼻を押さえた。急に、自分が生きているのか、不安になった。ポケットにしのばせていたナイフを取り出した。尖った刃を突きつけた。手首を、ムーが吐き出したのと同じ色をした液体が滴り落ちた。

「生きているのね」

 エタはうなずいた。少しだけ安心した。けれど、もう東へ連れて行ってくれる案内役はいなくなった。ムーは、すでに半分以上の毛が抜け落ち、肉が乾いて剥がれ落ち、真っ白な粉になりつつあった。エタは、目の前にある事実が理解できなかった。どうしてムーは粉々になっていくのだろう。そのとき、ティナが言った言葉が頭をかすめた。

――急がないと、この世界は崩れ落ちてしまうの。 女王様だけじゃない。 私も、さっきのライオンも。 あの草原も、山も海も空も。 すべて消えてしまうの

 エタは、少しばかり息が苦しくなるのを感じた。もう一度、ナイフを腕に突きつけた。また、赤いものがあふれ出す。身体中に熱い痛みが走る。

「まだ生きているわ」

 ムーが向かおうとしたのは、ここを真っ直ぐのはずだった。エタは、唇をかみ締めると、その道を進んだ。弱音を吐いてはいられなかった。息がまた苦しくなった。そのたびに、エタはナイフで切りつけた。そうでなければ、自分が自分でいられなかった。自分が命を守れているのかも、この心臓が動いているのかも、何一つわからなかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ