第4話
女の子がゆっくり降りてくると、ライオンは、猫のような声をたてて、女の子にじゃれついた。女の子の白い小さな手は、ライオンのたてがみを優しく撫でた。
「あなたをここに連れてきたのは私よ」
女の子はライオンから目を離して言った。エタは、あっけにとられて、口をあんぐり開けたままだった。
「あなたに手伝ってほしいことがあるの」
そう言うと、女の子はエタの前に歩み寄り、エタの手を握った。女の子の手は固く、冷たかった。
「私の名前はティナ。あなたは、エタ。そうでしょう?」
「そうよ。どうして知っているの?」
「私は何でも知っているわ」
ティナはそう言って微笑むと、エタの手を引いて、赤い絨毯の上を歩き出した。ライオンもその後にしたがった。絨毯の上をしばらく歩くと、大きな赤い扉があり、真ん中に大きな鍵穴があった。ティナはその鍵穴に自分の手を差し込み、ぐるりとねじった。手がちぎれないかと思うくらいにねじったとき、鍵穴はガチャンと、鉄の重たい音をたてた。それと同時に扉も開いた。エタは、鍵穴から抜き取ったティナの手を眺めた。手は真っ赤に腫れ上がっていた。
「ここを真っ直ぐ行くと、女王様の寝室になるわ」
ティナがそう言ったとき、廊下の向こうに、大きな箱のようなものが現れた。よく見ると、周りには鮮やかな装飾の施されたカーテンが張り巡らされていて、柱の部分には黄金の彫り物がしてあった。エタは、こんな豪華なものは見たことがなかった。
エタが、カーテンに手を触れようとすると、ライオンがものすごい速さで駆け寄ってきて、ひどい唸り声をあげた。
「気安く手を触れるな!!」
エタは驚いて手を引っ込めた。ティナが傍にやって来て、ささやくように言った。
「女王様はこの世界の住人には、あまりに高貴すぎるお方なの。 だから触れちゃだめ」
そう言うと、ティナはまた、エタの手を引いて、もと来た絨毯の道を戻りだした。ティナは、怒りに震えるライオンの方を向いて言った。
「もういいわ。 戻りなさい」
それを聞くと、ライオンはまた猫のように縮こまり、ぺこんと頭を下げた。エタには、その様子がとても可愛らしく見えて、思わずふふっと笑ってしまった。
絨毯の道を歩きながら、ティナは言った。
「この世界は不思議でしょう」
エタは無言のままうなずいた。
「すべて女王様が統治していらっしゃるの」
絨毯の道が途切れ、薄暗い石畳の道になった。壁も殺風景な岩の壁になり、所々に薄暗いろうそくが頼りない光を灯しているだけだった。エタは、身震いをした。どこからか冷たい風が吹いてくる。老婆のすすり泣きのように聞こえて、エタは思わずティナの冷たく固い手をぎゅっと握った。
「今、女王様はご病気で寝込んでいらっしゃるのよ。 そのご病気を治すお薬が、この世界のずっと東の果てにあるの。 でも、この世界の住人で、そんな冒険をするような勇敢な者はいないわ。 皆、女王様がお作りになった世界で、気楽にのうのうと暮らしているの」
石畳が、カツンと音を立てた。ひび割れがひどかった。エタは、ときどきそのひび割れの隙間につまずいた。ティナは何も気にしないように、ずんずんとエタの手を引いて歩いていく。エタは必死にそれに従った。
「だからあなたをこの世界に引き込んだの」
急に、ティナが立ち止まり、エタの方を見つめた。ティナの顔は、青白く、目は灰色に濁っていた。病人のように、頬はこけていた。
「お願い。 どうか、女王様のお薬を探してきてほしいの。 この世界の住人にはできない。 あなたなら、きっとできるわ」
エタはわけが分からなくなった。震える声でティナに言った。
「どうして…私なの?」
「たまたま、あなたがあの草原にやって来たからよ」
ティナはまた歩き出しながら言った。エタは、黄色い花の咲き乱れる鮮やかなあの原っぱを思い出した。




