第19話
森の上を一気に飛び越えた。エタは、枯れ木が倒れていく瞬間を何度も目の当たりにした。生き物の朽ち行く臭いも、度々鼻をついた。鷹は翼を鳴らしながら、空気の隙間をぬって飛んでいくようだった。
「見えてきた」
鷹がつぶやいた。エタは、鷹の頭の前方にあるものに目を凝らした。立派な石造りの城が見えた。鷹は、ぐんぐんとその城に近づいていく。
「女王様が危ない」
急に、鷹は飛ぶ角度を変えた。急降下を始めた。エタは、息を吸うのが困難なほどだった。鷹はおかまいなしに城へと降りていく。城が大きくなってくる。
「ぶつかるわ!」
エタが叫んだ。鷹は城の門を目指した。門が迫る。エタは、ぶつかると思って目をぎゅっとつむった。鷹は、ひゅんと音をたて、門をくぐった。
「大丈夫。 女王のもとへ連れて行ってやる」
門を通り越すと、大きな扉があった。扉はがっちりと閉まっている。鷹はそのままのスピードで突っ込んでいった。扉が、ガタンと音をたてて開いた。鷹のくちばしが折れているのが、エタに見えた。それでも鷹はひるまず進んだ。
「まるで勇者ね」
エタがぼそりと言うと、鷹は高らかに笑って言った。
「勇者? この汚らしい鷹を、勇者と呼んでくれるのか?」
「ええ、そうよ」
「それはありがとうよ、譲ちゃん」
鷹は、ますます勢いをあげた。赤い絨毯の道が広がった。もうすぐだと、エタは思った。確か、この先には、大きな扉があって、ティナが手を差し込むと開いたはずだった。ところが、その扉は閉まっていなかった。ばかんと開き、向こう側までを見渡すことが出来た。
「どうして扉が開いているのかしら」
「女王の力が弱まっているから、この城も壊れだしているんだ」
鷹は、絨毯の表面を、這うようにして飛んだ。とうとう、大きな女王のベッドが現れた。カーテンはしっかりしまっている。
エタは、鷹に下ろすように頼み、背中から飛び降りた。急いでベッドに駆け寄ると、ベッドの横に、白い服の少女がうつぶせになっていた。ティナだった。
「ティナ? 私、薬を持ってきたわ。 ねぇ、ティナ」
ティナは返事をしなかった。エタは何度も名前を呼んだ。
「いやよ」
エタは叫ぶように泣き崩れた。ベッドの周りのカーテンに触れてみた。今日は、この前のように黄金のライオンが飛び掛ってこない。