第15話
エタの頭の中に、お母さんの顔と、その顔の下で赤毛を編んでもらう自分の姿が浮かんだ。お母さんは言う。
「あなたの赤毛、誰に似たのかしらね」
エタは、くるくると編まれていく髪の毛の感触に夢中になっていた。
「うちには赤毛の人はあなた以外に一人もいないのにね」
お母さんは一通り編み終わると、立ち上がって何かを探し始めた。エタは、編まれた三つ編みをいじりながら、お母さんの動きを観察していた。お母さんは、にこにこしながら、黄色いリボンを持ってきた。
「あなたの髪の色によく似合うわ、この黄色」
エタは、その黄色を眺めた。ちょうど、その日のお母さんのワンピースも、淡い黄色をしていた。お母さんは、リボンをエタの三つ編みの先に縛った。黄色と、夕焼けのような赤毛がゆらゆら揺れた。お母さんはそれを眺めて言った。
「エタはもう10歳ね。 あなたの10歳の誕生日には、可愛らしい髪飾りを買ってあげるわ」
エタは、お母さんが大好きだった。何が、どうして大好きなのかなんて、わからなかった。理屈は何もなかった。ただ、大好きだった。
「生きたいの」
エタは、かすれる声でようやく言った。魔女は、それを聞くと、また大声で笑い出した。その振動で、部屋の片隅の瓶は片っ端から床に落ち、パリンと音をたてていっせいに弾けた。
「生きたいかい! そうかい!」
魔女は嬉しそうに叫んだ。すると、さっきエタが切りつけた傷から、真っ赤なものがあふれ出した。魔女は、それをすばやくスプーンにすくうと、懐からさっきの小瓶を取り出し、その中に垂れさせた。小瓶の中の液体が、みるみるうちに真っ赤に染まる。
「持ってお行き」
エタは、目の前に差し出された小瓶を手にした。自分の血の温かみが残っている気がした。
「どうしたぃ?」
固まるエタをのぞき込み、魔女がささやいた。エタは、泣いた。大声で泣いた。魔女は、優しくエタを撫でた。エタは、少し、魔女がお母さんの匂いと似ていると思った。
「恐かったろう。 もう大丈夫。 早く、女王にそれを持って行っておあげ」
エタは何とかうなずくと、少しだけ笑った。お母さんがいなくなってから、初めて笑った。
遅くなって申し訳ないんですが、この小説、短編にのせるつもりで書いたものでした。
ところが思いのほか長くなってしまい、連載にすることにしました。
話の切れ方が雑なのはそのせいかも…
「え?こんなとこで切るの?!!」ってとこで切ってます。おそらく。
ガーッと連続で読んだ方が、読みやすいのかもしれません。