第14話
数分ほど歩くと、ぼろぼろの小屋があった。ふくろうが言っていた、あの小屋だろうか。
「入りな」
魔女は扉を押して、エタを中に招き入れた。扉は小さく、エタも魔女も、頭を下げなければ入れないくらいだった。小屋の中は、すっぱいような、甘いようなおかしな香りがしていた。部屋の片隅で、ぼこぼこと何かが煮えている。背比べをするように並んでいるいくつものガラス瓶は、紫や桃色の液体で満たされている。床は地面そのままで、壁も天井も、今にも崩れ落ちそうな状態だった。エタは、魔女に言われて、部屋の真ん中に並んでいる小さなイスに座った。
「母親が憎らしいかい?」
いやみったらしく、魔女が尋ねた。エタは、お母さんの顔を思い浮かべた。
「お父さんは、お母さんがいなくなってから、私にかまってくれなくなったわ。 お母さんは、髪飾りを買う約束を忘れていなくなってしまったわ。 私の髪を編んでくれる人はいないの。 私は一人よ。 たまに生きているかどうかもわからなくなるの。 だから腕を切るの。 そうすると、やっとわかるの。 私は確かに生きているって」
魔女は、大きな目をぎょろりとさせてエタを見た。エタはびくっとして、動けなくなった。
「子どもの考えることさ。 バカらしい」
吐き捨てるように、魔女は言った。
「そうして自分を殺していくのさ。 もう誰にも救いの手はのべられないねえ」
「生きているわ。 ほら」
エタは、ナイフを取り出して手を切った。しかし、もう赤いものはあふれてこなかった。エタは、息苦しさを感じた。目眩がした。
「ほら、もう死にかけている」
魔女は笑って言った。エタは、身体が震えだして止まらなくなった。
「生きたいかい?」
エタは震えるばかりで、返事ができなかった。
「生きたいのなら、自分の意思で何か言ってごらんな」
魔女はエタの周りをぐるぐる回りだした。
「母親が好きであんたを一人にするわけがなかろう。 父親がどうして死に物狂いで働くか、考えたことがあるかい、小娘? 髪飾りが何だい。 あんたは母親に何を求めたんだい? 毎朝髪を結ってもらうことかい? その赤毛を褒めてもらうことかい?」
エタの目の前で立ち止まると、魔女は大きな目をいっそう大きくして言った。
「生きたいのか、死にたいのか。 自分で決めな」
エタは、何か喉の奥から搾り出そうとした。しかし、うまく声にならない。魔女はますます目を大きくした。その瞳に吸い込まれそうな気がした。