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エタ  作者: ling-mei
13/21

第13話

エタとふくろうが、ふわふわと海の上空を浮かんでいる一方で、水平線の奥では、夜が明けつつあった。

「魔女」

 エタがそうつぶやくと、吸い寄せはますます強くなり、あっという間に島にたどりついてしまった。島は、木々の緑も花の色もなかった。モノクロの世界だった。

 2人は乱暴に地面に叩きつけられた。エタは一瞬息が止まった。ふくろうは動かない。エタはその身体に手を伸ばした。冷たい。

「いやよ」

 エタは首を振った。信じたくなかった。今まで空を一緒に来たのに。

「よく来たね」

 後ろから声がした。エタはゆっくり振り返った。

「魔女」

「薬を取りにきたんだろう」

 エタはうなずいた。魔女は、おとぎばなしに出てくるような魔女ではなかった。真っ黒な服ではなく、真っ白な服を着ていた。ちょうど、ティナと同じような、真っ白な服だった。

「あんたにゃやれないよ」

 魔女は冷たく言い放った。

「どうして?」

「生きることを捨てたあんたにゃ、生きるための薬は渡せない」

「生きること?」

 魔女は、横たわるふくろうの身体に触れた。ふくろうは、みるみるうちに羽根の柔らかさを取り戻し、その目をぱちりと開いた。そして、一声鳴くと、飛び上がって海の向こうへ消えていった。エタは、夢見心地でその一部始終を見ていた。

「あいつにゃ生きる意志がある。 でもあんたにゃそれがない」

 魔女はエタの腕の傷に触れた。傷から、みるみるうちに真っ赤なものがあふれてくる。エタは、身体中の痛みを感じた。

「生きているわ」

 エタがつぶやいたとき、魔女は大笑いした。

「生きているって? バカはおやめ。 そんな大量の体液を流して、よく能天気なことが言えるよ。 やはりあんたにゃ薬は渡せないね」

 波が島に打ち寄せた。しぶきがエタにも魔女にも振りかかった。

「自分を傷つけて、笑顔すら失って、何が『生きている』だい。 生きる意志がないから、あたしの力でもあんたの傷を治せなかった。 ふくろうのオヤジは、生きる意志があったから、死んでもまた生き返ってふくろうに戻ったんだ」

 魔女は、とても高い鼻をしていた。目はひどくくぼんでいた。真っ黒な爪で、エタの赤毛をくるくるといじった。

「自分で髪を切り落としたかい。 それであたしの気が済むと思ったら大間違いだよ」

「どういうこと?」

 エタは尋ねた。魔女はまた大笑いをした。びりびりと、その声の振動がエタにも伝わった。

「相手をいたわる気持ちはあるみたいだね。 でもそれじゃダメだ」

 魔女は、懐から小さな瓶を取り出した。

「これが女王の病気の薬だよ。 …欲しいかい?」

 エタは勢いよくうなずいてみせた。しかし、魔女はまたにやりと笑った。とても冷たい笑みだった。エタは寒気を覚えた。

「自分をいたわる気持ちがないのなら、やれないね」

「自分を?」

 魔女は薬の瓶を、また懐にしまった。真っ黒な爪で、自分の鼻先をいじりながら言った。

「この薬に、あと一つ加えなけりゃならんものがある」

「何?」

「人間の血さ」

 エタは息を呑んだ。人間の血?

「それも、生きる希望に満ちた人間の、ね。 あんたは自分をいたわれないから、生きていく気持ちもない。 きっとこの場で死んでも、あんたにゃ後悔はないだろうねえ」

「自分をいたわるって?」

 魔女は眉間にしわを寄せた。

「そんなこともわからないのかい。 この小娘が」

 エタは小さくうなずいた。魔女は、エタの腕を無理やり引っ張ると、着いてくるようにあごで促した。エタは黙って、引っ張られるがままに歩いていった。


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