第12話
夜の中を、森を通り越し、岩山の上を飛んだ。灰色だった空にも、小さな星屑が散りばめられた。その淡い光の中で目を凝らすと、ごつごつの岩肌に、やぎの姿があった。生きているものもあったし、死んで腐り行くものもあった。それを見るたび、エタの鼻をいやな臭いが突き抜けた。ふくろうは、つぶやいた。
「もう終わりじゃ」
エタは、そんなことないわと言いたかった。しかし、そんな保証はどこにもない。そのまま、エタは何も言わずに、ふくろうの背中にしがみついていた。
風がざあっと吹き寄せた。ふくろうの身体も揺れた。そのとき、遠くに白く光る海が見えた。
「あの海の真ん中に、小さな島がある」
エタは水平線に目をこらした。ふくろうの息が荒くなっている。エタは不安になった。このまま、この海へ落ちたらどうしよう。そうしたら、ふくろうも、自分も、死んでしまうと思った。
海の中から真っ白な潮があがった。くじらのような生き物がいた。頭に大きな角が三本もあった。ふくろうはそのくじらのような生き物の噴き上げた潮を見つめてささやいた。
「あいつももう死んでしまう。 最後の潮噴きじゃな」
エタは、ぎゅっとふくろうの背中を握った。ふくろうのあきらめの言葉が、いやだった。自分にも、もう希望はないのだと言われている気がしてならなかった。
また、ざあっと強い風が吹き寄せた。エタは目をつむって背中にしがみついた。すると、前の方から、ごぼごぼと音がする。エタは前を見た。ふくろうが、あのムーが吐いたのと同じ液体を吐き出している。エタは叫んだ。
「だめ! 死んだらだめよ!」
ふくろうは、身体をがくんと傾け、海へ落ちていった。エタは、叫びながらふくろうの身体にしがみついた。
「お願い! 死なないで!」
もう一度そう叫んだとき、2人の身体は何かに引き付けられたかのように、ふわっと浮かび上がり、どこかへ流され始めた。ふくろうは、吐くのをやめた。エタは、ふくろうの背中の羽根が硬くなるのを感じた。それでも2人は、ふわふわとどこかへ吸い寄せられている。エタはその先を見つめた。小さな島が見えた。