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スキル【魔王ガチャ】で最強の相棒を宿す少女 〜強欲な女魔王と奴隷少女の建国成り上がり譚〜【短編版】

作者: 朱桜真
掲載日:2026/05/22

 

 ガタゴトと体に響く不快な揺れ。鉄格子の隙間から覗く月光。両腕を縛る縄の擦れる痛み。


 そして、膝の上に転がる二つの重み。幼い双子の弟のアルトとリトは、この長い馬車旅で酔い疲れて寝てしまっていた。私の悪魔に取り憑かれたような漆黒の髪とは大違いの、綺麗な栗色の頭を撫でる。


 ボロボロの荷馬車の壁から冷たい風が吹きぬけるが、弟達に掛けてあげる布もない。私達は今、奴隷商に運ばれている奴隷というモノだからだ。


 私たちはごく普通の田舎の村の子として産まれた。お父さんはいなかったけど、家族四人で村の人たちに助けられながら仲良く過ごしていた。


 しかし、ある日を堺に村のみんなからの目が変わった。昨日まで優しかった隣のおじさんやおばさんも、まるで穢れたものを見るような目でこちらを見るようになった。

 お父さんがいない私達の家は、村の狩りに参加していないのにお肉を分けてもらっていたので村の助けなしでは到底生きていくことは出来ず、益々と生活は苦しくなっていった。


 そんなある日、お母さんが久し振りにどこか上機嫌で帰ってきた。そのお母さんに言われるがままに私たちは村の外れに連れて行かれた。

 そこには、檻のついた見たことない馬車が並んでいた。お母さんは言った「シルフィ、このおじさん達が遠くの安全なところに連れていってくれるからね、大人しく着いていくのよ」と。

 そう頼むお母さんの顔は、酷く歪んで見えた。疲れ果てて、自分をどう守るかで必死な、そんな顔だった。

 

 あぁ、私たち売られるんだ。


 まだ八歳の弟達には分からなかったかも知れないが私には分かった。

 理由は分からないけど、多分私たち家族がこの村に嫌悪されてるのは私たちのせいなのだと思う。お母さんがそんなことを言ったことはなかったけど、生活が苦しくなっていくほど、お母さんの私たちを見る目も冷たく、鋭くなっていっていたから。


 私は受け入れた。売られることを。別にお母さんのために、なんてことは考えていない。

 ただ、その歪みきった利己的で感傷的な恨み辛みの籠った顔をもう見たくないと思ったんだ。


 弟達は私に着いてきた。弟達には申し訳ないと思ったが、その時同時に私はこの子達を守ると心に決めた。


 膝が濡れる。右の膝を枕にしていた長男のリトの頭がなくなっていた。

 

 「お姉ちゃん。大丈夫、?」


 リトは目を覚まして私の隣に座り直していた。

 大丈夫とは何のことかと思うと、リトの顔に水滴がついていることに気がついた。手でそっと自分の頬に触れると、涙が流れていた。

 どうやら、リトは私の涙が顔に当たって起きたようだ。


 「起こしちゃってごめんね、リト」


 「ううん、大丈夫だよ。お姉ちゃんは大丈夫?」


 心配そうに私の顔を覗き込むリト。私より不安で辛いはずの四つも下の弟に心配させてどうするんだ。

 私がしっかりしなくちゃ。


 「私は大丈夫。ちょっと悪い夢見ちゃって」


 「そっか、良かった!お姉ちゃんを泣かせる奴がいたら俺がとっちめてやるから任せて!」


 リトは安心したような顔をしたあと、細い腕を力コブをつくるように上げてそう言った。


 「うん。ありがと、リト。」


 そう言いながら、リトを抱きしめようとした時、馬の大きな鳴き声と共に馬車が大きく揺れた。直後、外で剣戟の音が響き始めた。


 「盗賊の襲撃だ!!」

 「キャーー」

 「早く降りろ!」


 すぐに辺りは悲鳴と怒号に包まれた。相手は盗賊らしく、冒険者の護衛がいた筈だがかなり苦戦を強いられてるようだ。


 ガチャと鉄格子の鍵が開いた。鍵を開けたのは最初に会った奴隷商の男だった。


 「お前ら!外に出て戦え!」


 この馬車には、私達の他にフードを被った細身の大男と、獣人の夫婦が乗っていた。その三人は奴隷商に言われると、すぐに馬車を降りていった。


 「何をしてる!お前らも戦うんだよ!」

 

 躊躇していた私とリト、さっきの揺れで目が覚めたばかりのアルトも引きづり出された。私とアルト、リトは地面に叩きつけられた。


 「おい奴隷商、縄を解いてくれ。」


 「何言ってんだ!そんなこと出来るか!お前らは俺が逃げる間の囮になってくれればそれで良いんだよ!」


 ローブの男が頼みを断ると、堂々と私たちを囮だと言い放って馬を切り離してそのまま走り去っていった。そして、ローブの男と獣人は獣人の爪でなんとか自分たちの縄を互いにちぎると、私たちの縄も切ってそこから離れていった。


 私たちもそこから離れようと、まだ倒れていたアルトを起こそうとしていた時。

 私たちの目の前に、盗賊らしき男が現れた。


 「お前ら奴隷だな、大人しく捕まれば悪いようにはしねえから…」

 

 その男の目線は地面に伏したままのアルトを見てピタリと止まった。


 「そこのガキ、お前だ!」


 「ぼ、僕ですか…?」


 リトと違い元から内気で病弱なアルトは、震えた声で返事をした。


 「一緒に来い。お前だけだ」


 私はアルトの前に飛び出した。


 「私の弟なんです、弟の代わりに私じゃだめですか!お願いします!」


 「お姉ちゃん…」


 「だめだ。俺にも時間がない、さっさと来い。」


 男は軽く私を押し飛ばして、アルトの腕を掴んだ。

 どうして。どうして何も出来ないんだろう。私が女だから?子供だから?

 守るって決めたばっかりなのに…


 「やめろ!アルトを離せ!」


 リトはそう叫びながら立ち上がって、アルトを掴む男の腕に噛み付いた。


 「くっ、このガキ!《身体強化》発動!」


 「うわぁ!!」


 男は体を一瞬光らせたかと思うと、リトを思いっきり蹴飛ばした。


 「ちっ、噛み付くとか犬かよまじで。無駄な手間かけさせやがって、行くぞガキ」


 「お姉ちゃん…!嫌だ!嫌だよ!お姉ちゃん助けて!!」


 私はそう叫ぶアルトの連れて行かれる姿をただ見ていることしかできなかった。

 ただ無力感に打ちひしがれた。


 私はそこで意識を失った。




 次に目覚めたのは洞窟の中だった。周りを見渡すと、さっき同じ馬車に乗っていたフードの男や獣人の夫婦、それにざっと二十人以上の亜人やダークエルフの子供がいた。子供といっても私よりはだいぶ上だろう。恐らく格好からして全員奴隷だ。しかし、リトとアルトだけが見当たらなかった。

 立ち上がり、フードの男に近づいた。

 なぜか周囲からの視線が痛い、動いちゃいけなかったのかな。


 「あの、私と一緒にいた小さい男の子知りませんか?」


 「……一人は見た。馬車の中でよく喋ってた方だ。もう一人はここに連れられてくる時からいなかった筈だ」


 よく喋ってた方というのは、恐らくリトのことだろう。

 アルトはここには連れてこられていないらしい。わざわざあんな風に連れて行かれたのだから、違うところに連れて行かれてしまったのかもしれない。


 「あの、どこにいるか分かりますか?あと、ここって…」


 「ここはあの盗賊達のアジトだ。かなり広い洞窟で、迷路のように入り組んでたくさん部屋がある。ここの部屋には奴隷が全員詰め込まれてる」


 「全員って…じゃあリトはどこに、」


 「それは……」


 フードの男が言葉を詰まらせていると、隣にいた獣人の夫婦の男が会話に入って来た。


 「嬢ちゃん。あの子は、君を守る為に盗賊に反抗して連れて行かれたんだよ」


 「え…?」


 私を守る為、?


 「ここに運ばれてすぐのことだ。盗賊の一人が嬢ちゃんを慰めものにしようとしたんだ。その時あの子が、その盗賊に殴りかかって、逆に盗賊にボコボコに見せしめにされて、そのまま独房に連れて行かれたんだ」


 「みんな、ここにいる人みんなそれを見てたんですか?なんで、なんで助けてくれなかったの!?」


 「……」


 分かってる。この人たちのせいじゃない。それに、アルトが連れて行かれるのを見ていることしかできなかった私にはこんなこと言う権利もない。

 分かってるけど、この感情をどうしたら良いのかわからない。


 ―ダンッ!と大きな音を立てて部屋の中央にナニカが投げられた。


 「おー起きてんじゃんお前。コレなにか分かる?」


 黒く焦げついたそのナニカはいくつもの匂いが混ざり合った吐き気のする異臭がした。


 え。リ、リト…?


 「こいつずっとこれしか言わねえんだよ。命乞いとかしてくるかと思って痛めつけたのに、おもんねえやつ。

 あっ、何したか教えてやろうか?えーっと、まずな、殴ってボコボコにした後に、スキル《火炎操作 Ⅰ》で身体を焼いてだな…」


 やめて…もうやめて。


 必死に耳を塞いだ。それでもその男はどうリトを痛めつけたのかを愉しそうに延々と私に説明した。


 耳を塞ぐシルフィの手を、男はニヤニヤしながら無理やり引き剥がして、「おい、ちゃんと聞けよ。お前の大好きな弟の最期の言葉だぞ? 『ね、ねえちゃんは……レが、まもる……』だってよ! ギャハハ、ウケるだろ! 守るどころか炭の塊になっちまいやがって!」


 その男はひとしきり愉しんで満足したのか、リトだったモノを担いで出ていった。


 私は、一日に二人の弟を失った。


 それからの数日間の記憶はほとんどない。ただ暗い部屋の隅で膝を抱え、涙も枯れ果てて、ただ死を待つだけの人形のように過ごしていた。

 生きる意味なんて、もうどこにもなかった。

 そんな私に、唯一声をかけ、濁った水やカピカピに乾いたパンを無理やり口に押し込んでくれたのが、同じ部屋にいた人族の少女、エレナだった。

 

 それから一週間が経った。気がつけば、私はエレナと仲良くなっていた。というか、彼女という光にしがみついていなければ、私の精神はとっくに崩壊していたのだと思う。

 エレナはリトが死んだ初日から、ずっと私の隣にいてくれている。

 絶望して生きる意味を失っていた私に、喋りかけてくれた。一緒に生きようと、弟君は君が死ぬ為に死んだんじゃないよと、必死に励ましてくれた。そのお陰でなんとか私は今平常を保っていられてる。


 この一週間私たち奴隷は毎日多少の雑用をしていて、その時と自分たちの食事の時だけはこの部屋から出ることが出来る。

 その隙に脱出ルートを探したり、盗賊の会話を盗み聞きしたりして計画を練っている。


 エレナはすごい。他の誰もが諦めているこんな状況でも、常に光を探している。一度寝る前にどうしてそんなに生きて帰りたいのと、聞いた。

 そしたら、びっくりしたような顔をしながら、「生きたい事に理由がいるの?自由になりたい事に理由がいるの?私はいらないと思う。だって、自由に生きたい!そうでしょ?」と答えた。

 こうなりたいと、心の底から思えたし、初めての友達といえる存在に出会えたのかもしれないとそう思った。


 さらに数日が経った。

 今日までで、分かっていることは盗賊達は誰かに頼まれて今回の奴隷商襲撃をしていて、その依頼人がここに来るまではここで待機らしい。盗賊達はいつになったら来るんだと怒っていたので、もういつ来てもおかしくない状況なのだろう。そして、そいつが来たら私達は殺されるらしい。

 エレナと私はそのことを知った為、一日でも早くここを抜け出す為に今日賭けに出る。


 雑用でこの洞窟内を動き回るタイミングで脱出するんだ。ルートは決めてある。でも、私たちの雑用が別々だったので合流地点を決めて、そこから二人で脱出する事にした。

 

 「もしそこまでに見つかったらどうするの?」


 「もし見つかったらお互い恨みっこなしで、盗賊には一人で脱出しようとしてたって言おう」


 それは、もし見つかれば置いて行けという事だった。


 「そんな事出来ないよ!もし集合場所に来なかったら私は戻るよ!」


 「ううん、もう私たちには猶予はない。もう、いつあいつらの言うあの方が来るか分からないんだ。だから、引き返さない。約束して?」


 「で、でも…」


 「私たちこんなところから脱出出来ちゃったら、一生の親友になれると思うんだ。だから、一生に一度の親友のお願い、聞いて欲しいの。」


 親友。生まれて物心ついた頃から、ずっと弟の世話ばかりしてろくに友達と遊んだ事のない私にとって、その言葉は何よりも重く響いた。


 「分かった。そうしよう、エレナ。」


 そしてついに決行の時間になった。私はエレナと決めた時間ぴったりに集合場所に行った。まだそこにエレナの姿はなかった。

 エレナは五分で見切りをつけろと言っていた。

 

 大丈夫かな…

 もしかしたら見つかったのかな、頼まれた作業が運悪くここから遠かったのかもしれないし…


 そして約束の五分になろうというその時、コツコツと曲がり角の奥から歩く音がした。


 「エレナ!」


 しかし、返事はない。

 なのに足音は近づいてくる。それもその足音は一人のものではなかった。


 …え?


 曲がり角を曲がる足音。足音の正体は盗賊の頭とその部下達だった。

 どうしてこんなところに…いつもはここには誰もこないのに!


 「ハハッ!本当に来やがったぜ、危うく逃がしてお偉いさん方に怒られるところだったぜ」


 「ごめんね、シルフィ…」


 そう言いながら、盗賊達の陰から少女が姿を現した。


 「ど…どうして…?なんで…?ねえなんでなの!エレナ!

 ここから出て自由になろうってっ、恨みっこなしだよって……私たち一生の親友で一生の約束だって言ってたじゃん。」


 もう、私の感情はぐちゃぐちゃだった。


 「……仕方ないじゃない! 私、どうしても自由になりたかったの! 死にたくなかったの! 仲間がいるなら、そいつを売れば見逃してやるって…だからあんたの脱出計画、全部バラしてあげたの。あんたが私の代わりにここで死んでね。」


 必死に言い訳を並べるエレナは、平常を保とうとしているのか、ぎこちなく笑っていた。


 ―ああ、またこの顔だ。


 その直後、私の身体は盗賊の頭に吹き飛ばされた。その衝撃で洞窟の岩肌にぶつかりながら、地面に腰を落とした。


 「全く手間かけさせやがって!捕まえた奴らはあいつが確認しに来るまでは殺しちゃいけないんだが、まあ一人くらいバレねえよな」


 ニヤニヤと愉しげに嗤う盗賊達。


 「頭!この女俺に使わせてくだせーよ」


 初日にリトを殺した男が間に割って現れた。


 「なんでおめえにやらなきゃならねえんだよ」


 「実はこいつの弟が俺に絡んできたから、初日に締めてやったんですよ。その時やり損ねたんで」


 「おめえ!あんだけ奴隷は殺すなって言っただろうが!」


 「す、すみません頭!」


 「ったく、しゃーねえからおめえにやらせてやるよ。さっさと片付けろよ」


 「ありがとうございます!」


 話がついたようで、その男は私に向き直って下卑た顔を私に向ける。

 私の体を上から下までじっくりと品定めするように見る視線に、全身を虫が這い回るような不快感に苛まれた。


 私は反射的に少しでも遠くに逃げようと、体を捻り走ろうとした…


 「ウ、アエッ」


 ―ドッという渋い音を鳴らしながら、男の足が私の腹を抉る。


 「逃げれる訳ねえだろ〜?」


 不快な笑みを湛えながら、膝をつく私の髪を掴み上げた。


 「お前の弟よりは楽しませてくれ、よな!」


 男は掌の上に火を浮かべ、その手で私の身体を撫で始めた。


 焼けるように痛む肌。

 血が沸騰するような熱さ。


 「いや、いやっ!いや…や、めて…めてください、おねがいします…」


 身体を捩り両手で髪を掴まれた手を解こうとするが、齢十二の少女の力で振り解ける訳もなく、ただ身を焦がされ続けた。

 私が叫ぶ度、男は火を強めた。


 …生きたい。


 まだ死にたくない。

 私の全てだった弟二人を失くした。

 その傷を埋めてくれた初めての友情は偽物だった。


 この世界に生きる意味なんてない。

 そう思う。


 でも、生きたい。生きたい!


 死にたくない、こんなところで死にたくない。

 せっかく手に入れた私の人生。

 こんなクソ野郎に奪われてたまるか。


 私は髪を掴む腕に思いっきり噛み付いた。


 「いってっ!この、クソガキ!」


 案の定手は離れたけど、すぐにお返しの蹴りが飛んできた。また地面に叩きつけられる。


 「ギャハハ!いい顔するじゃねえか、必死に自分を守ろうとする。生きようとする奴の顔だ。俺はその顔が段々虚になっていくのを見るのが大好物なんだ」


 生きようとする奴の顔、か。

 もしかしたら今私も、お母さんや逃げた奴隷商の男、それにさっきのエレナみたいな顔をしてるのかな。


 自分が生き残る為に必死な顔を、してるのかな。

 もしどれだけ醜くても、私は生きたい。

 まだもがきたい、私はまだ生きてるんだから!


 …欲しい!自由が、欲しい!


 ―突如、ピタッと時が止まった。


 『種子の発芽を確認しました。リユーススキル《魔王ガチャ》の発現、及び発動を認めます。』


 その機械的な音声と共に、私の頭の中に強烈なイメージが映像のように流れ始めた。


 混沌とした闇の中から聞こえる、コロコロと転がる音。

 転がったモノは、私の体の中へと入っていく。


 ドクン、ドクンと脈打つ身体。


 『…い、おい小娘。聞こえるか?』


 頭の奥からガンガンと鳴り響くように、女性の声が聞こえた。


 『えっ、どこから声が』


 『お主の中だ、魂に直接声をかけている』


 魂に直接、?

 ついに頭も壊れてしまったのかもしれない。


 『壊れておらん。妾はお主の使った《魔王ガチャ》で呼び出されたんじゃ』


 『え、心の声聞こえちゃうんですか?それに魔王って…』


 『当たり前じゃ、心の声で会話しとるのじゃからな。スキルのことを説明してやる義理はないから、単刀直入に言おう。

 小娘、お主は生きたいか?』


 『生きたい、行きたいに決まってる!』


 『母親に売られ、大切な弟を失い、やっと得たと思った友情もまがいものじゃった、その上でお主は何を求めて生きるんじゃ?』

 

 『弟達のこともエレナのことも、お母さんのことも関係ない!私はこれからの人生を私の人生を生きたい!まだ、生きているか分からないんアルトのことも探すし、私たちが村人達に嫌われた理由も知りたいし、本当の友達だって作りたいんだ。

 別に誰の為でもなく、私がそうしたい!

 だから、私は生きたい!』


 『ククッ。そうか、お主のその欲望しかと受け取った。では契約を結ぼう。』


 その刹那、体の境が分からなくなるような感覚に陥った。

 混ざり合うような、融け合うような不思議な感覚。


 ―カチッと、世界の時が動き出したと同時に、左眼と右腕の内側から目に見えない力が溢れ出した。


 「な、なんだこの魔力は!?」


 私を痛ぶっていた男は後ずさる。周りの盗賊達も驚いているみたい。


 『さあ、始めよう。お主の新しい人生の第一歩だ。こいつらを片付けるぞ。《地殻操作》でぺちゃんこにしてやれ!』


 「スキル《地殻操作》!」


 「なに!!こんなガキがそんなスキルを!?」


 ………何も起きない。


 『ま、魔王さん!何も起きないよ!』


 『……あ、あれ? おかしいのう。……すまん、二千年も眠っている間に、大半のスキルが消滅ロストしておったわ。テヘッ』


 『テヘッ、じゃないよ!死んじゃう!』


 「おいおいビビらせやがって、こんなハッタリかましやがって、覚悟しろよ」


 男は左の掌に灯す炎をさらに大きく揺らした。


 『安心せえ、妾本来の力は失われておらん。左眼であやつのことをよく見てみろ』


 『左眼?』


 よく分からないが、取り敢えず言われた通り左眼を凝らして、男を見つめる。すると男の周りに文字が浮かび上がった。


―――スキル―――

《火炎操作 I》《毒耐性 I》《ナイフ術 I》

―――――――――


 『これは、あの人のスキル、?これは鑑定眼ってこと?』


 『うむ、それは《強欲(アヴァリス)の左眼》。本当は能力はそれだけではないのだが、今のお主では鑑定するのが精一杯のようじゃな。

 次はその右腕をあいつの胸元に突き立てろ。』


 『分かった。』


 もう何がなんなのか分からないけど、やるしかない。生き残る為にはやってみるしかない。


 「おいぼーっとしてんじゃねえぞ!」


 そう言って男が炎を纏った拳を振り上げた瞬間、私は右手を男の胸元に突き出した。

 すると、右腕が禍々しい輝きを放った。その瞬間、体の中に流れ込む力を感じた。


 「うわぁーー!」


 男は振り上げた拳を下ろすことなく、そのままばたりと地面に伏した。

 直後、私の身体を焼いていた火傷が、嘘のように消えていく。それどころか、さっきまで男が使っていた《火炎操作》の感覚が、まるで最初から自分の手足だったかのように右腕に馴染んでいくのが分かった。


 「なっっ!おい、どうした!くそっ、この女何しやがった!」


 頭と呼ばれていた盗賊が焦ったように喚く。

 私は感じたことがないほどの全能感に包まれていた。湧き上がる力と魔力に、今なら出来ないことは無いのではないのかと思わされるほど。


 『魔王さん、なんなのこれ?なんだか、すごく気分が良いの』


 『今のは《強奪(ミダス)の右腕》というスキルじゃ。お主はあやつの力を奪ったのじゃ』


 力を、奪った…


 『と言ってもあやつも死んだわけではない。ただ、並の人間はスキルを一つでも奪われれば、数日意識が戻らない。

 どうした?今更自分の力が怖くなったのか?』


 『ううん、むしろ逆。今、最高の気分なの。私、もっと奪いたい…!』


 『クックッ、そうかそうか。なら存分に暴れるがよい。己の為にな。』



 私はそれからのことはあまり覚えていない。確かなことは、その場にいた盗賊を借り尽くしてやるという気持ちがあったということだけ。


 ただひたすらに奪い続けた。私が今までされてきたように、全員の命と力を奪った。


 そしてそこには、私とエレナだけが残った。


 私は血みどろになった身体で、エレナに近づいた。エレナは近づく私に気づき、呆然とさせていた身体をガクガクと震わせた。


 「化け物…」


 そう呟くと、ハッとしたように焦って言い訳を始めた。


 「待って、お願い、私は、違うの。ただ…」


 「ただ、自分が助かるため?仕方ないよね、生き残る為だもんね」


 「そう!そうなの、だから私は殺さないで!私たち親友でしょ?」


 …親友。まだそれを口に出来るなんて、どんな神経をしているんだろう。

 

 しかし、不思議ともう怒りは湧かなかい。ただ、声を震わせながら、自分が裏切った私に命乞いをするその姿は酷く惨めだった。


 彼女の頬に手を触れる。


 「いいよ、逃げて。ばいばい」


 「あ、ありがとう!シルフィ!」


 そう言うと、背中を向けて走り去っていった。


 『甘いのう、小娘。裏切り者は早く始末せねば、後々後悔するぞ?』


 『ううん、いいの。エレナは確かに私を裏切ったけど、エレナがいなければ私はリトが殺された後、自分で死んでしまってたかもしれないから』


 『なるほど、命を守ってもらった恩を返したのか。もしその恩が、盗賊に見つかった時に売る仲間を作る為のものだったとしてもか?』


 『うん。そんなことは関係ないよ』


 『ふっ、とことん甘いやつじゃ』


 「おい、これはどういうことだ、?」


 声の聞こえた方に振り返ると、そこには捕まっていた奴隷達がいた。声をかけてきたのは、例のフードの男だった。


 「まさか、君が一人で倒したのか?一体どうやって」


 「いや、その、」


 どうしよう、なんで言えば良いんだろう。頭の中に魔王が出てきて力をくれました?

 でも絶対そんなこと言ったら、ヤバいやつだと思われるよね。


 「まさか。この気配は、魔王様、なのですか?」


 「へ、?」


 えーなんでバレたの!?


 「魔王様なのですね、体の内側から溢れるそのオーラ。どれだけ隠そうとなさっても私には感じられます!私はギールです!」


 そう言って、涙ぐんでいた。

 あの人あんな感じだったっけ?


 「今魔王って…」「そんなわけないだろ、あんな女の子が」

 

 後ろの人たちもみんな男の言葉を聞いてざわめいていた。


 『ギールという名前は知らんが、おそらくあやつ、魔族じゃの。しかも今時珍しい純血の魔族じゃ。力は封印されているようだがな。それでこんな盗賊どもに、良いように捕まっていたのだろう』


 『封印?それは解いてあげられないの?』


 『うむ、《強奪の右腕》を使えば簡単に引き剥がせるぞ』


 「ちょっと動かないでね。」


 「は、はい、分かりました。」


 キョトンとした顔で言われた通りに、止まる男。

 

 《強奪の右腕》発動。

 さっきまでとは違う、淡い光を放つ。


 「これは、さすが魔王様です。我が身にかけられた呪いをこうも容易く取り除いてしまわれるとは」


 「あのー本当に魔王様なのですか?」


 と、獣人の奴隷の一人が聞いてきた。

 どう答えようか迷っていると。


 「間違いないと言っているだろう!私は『魔王様のご復活を願う会』通称魔王ファンクラブの会員番号一桁だぞ!」


 魔王ファンクラブ、?そんなのあるの?


 『うむうむ、なんとも感心じゃな。ここまで妾の凄さがしっかりと後世に語り継がれていようとは。』


 語り継がれてはいるけど、ファンクラブって、なんか軽くない?


 「俺はそんな会は聞いたこともないけど、俺らも亜人族の端くれだ。このオーラに、少女あるまじき力、魔王様の復活だって言われた方が信用できる。

 でも、あんたの口から聞きたい。もし、本当に魔王様なら、2000年前の時のように、俺らを、俺たちの仲間を助けて、導いて欲しい。」

 

 そう言って私をまっすぐに見つめる獣人の男。

 どうしよう。確かに私の頭の中にいるのは魔王だけど、私は魔王じゃない。力を借りてるだけなんだから。


 『良いではないか、我らは契約したのだ。片方が死ねばもう片方も死ぬ。所謂、運命共同体じゃ。』


 『え!そんなの初めて聞いたんだけど?』


 『そりゃ、言ってないからのう。とにかく、そんな状態なのだから堂々と私が魔王だと言えば良い。何を躊躇う必要がある、この魔王本人が言えと言っているのに。』


 『だって、もし私が魔王になったらさっきこの人が言ってたみたいに、皆を導いて行かないといけなくなるんでしょ?そんなの、出来る自信ないよ。』


 『なんだそんなことか、さっきも言ったじゃろ、我々は運命を共にするんだ。別に妾がお主を助けてやる。だからさっさと覚悟を決めろ。』


 『あー、もう分かったよ!言えば良いんでしょ。』


 「ええ、そうよ。私があの二千年前の魔王の生まれ変わりよ。」


 奴隷たちは沸き上がった。新たな魔王誕生だと、こんな少女が言ったことを信じてしまうほど、今この身体から溢れ出るオーラは凄まじいものなのだろう。


 「おお!やはりそうなのですね!新たな魔王様、貴方のお名前をお教え頂けますか」


 「…シルフィ。」


 「シルフィ様。なんとお美しい響き。では改めまして挨拶させて頂きます。我が名はギール。魔王様の復活を待ち望みし者の、階位八番目にございます。」


 ギールは、膝をつき頭を垂れた。


 「「「魔王様復活おめでとうございます。何卒、我々を新たな魔王様の配下に加えて下さいませ。」」」


 ギールに続くように、奴隷二十人が一斉にひざまづいた。

 魔王という存在が亜人達にとってどれだけ大きな存在で、希望なのかということがその景色には表れていた。



 これは、一人の少女が世界を揺るがす大魔王になり、唯一残された弟を探す物語。



ご一読いただきありがとうございました!


本作は短編(読み切り)としての投稿ですが、もし「続きが読みたい!」「シルフィの勘違い建国や、生き別れの弟の行方が気になる!」と思って、楽しんでいただけましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価(下部にある☆☆☆☆☆)】での応援をお願いします!




皆様の応援が多ければ、近いうちに『連載版』として本格的にスタートさせたいと思っています!

そうでなくとも、ご意見ご感想お待ちしております。

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