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名前も存在もない俺だけが、世界を書き換えられる件 ―観測されない男は、すべての記録を上書きする  作者: 空城ライド


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第16話 観測者との衝突

 ――観測者との衝突 予測。


 その一文は、冗談にしては具体的すぎた。


「……来るな」


 俺が言った瞬間、空気が変わった。


 診療所の静けさが、わずかに歪む。


「何か来るんですか」

 ミハイルが声を潜める。


「来る」

 俺は短く答えた。


「しかも、たぶん速い」


 リゼが口元を歪める。

「“予測”じゃなくて、“確定”に近いね」


「そういう言い方はやめろ」

「事実だよ」


 軽口だが、目は鋭い。


 カイが周囲を見渡す。

「……場所はここか?」


「わからない」

 俺は言った。

「だが、逃げても意味はない」


 観測されるなら、どこにいても同じだ。


「……じゃあ、迎え撃つ?」

 リゼが楽しそうに言う。


「戦うのか」

 カイが眉をひそめる。


「戦いになるかは知らない」

 俺は言った。

「だが、向こうは“観測”してくる」


 それが一番厄介だ。


「……つまり?」

 ミハイルが聞く。


「俺たちの状態を、固定しに来る」


 静寂。


 それがどういう意味か、全員理解した。


「……最悪じゃないですか」

「そうだな」


 改訂の逆。


 “動かせなくなる”。


 それは、終わりに近い。


「……どうする」

 カイが言う。


 俺は少しだけ考えた。


 そして。


「動く」


「どこに」

「ここじゃない場所」


 固定される前に、ズラす。


「……逃げる?」

「違う」


 俺は台帳を見る。


 新しく浮かんだ文字。


 ――観測強度:上昇中。


「“観測される位置”をずらす」


 リゼが笑った。

「いいね、それ」


「どうやるんですか」

 ミハイルが聞く。


「簡単だ」


 俺はペンを取る。


「“今の状態”を、少しだけ改訂する」


「……自分たちを?」

 カイが言う。


「そうだ」


 初めての試みだ。


 対象が、自分たち。


「……危なくないか」

「危ない」


 即答だった。


「だが、他に手はない」


 リゼが頷く。

「同意」


 ミハイルは少しだけ迷ってから、息を吐いた。

「……やるしかないですね」


 カイも肩をすくめる。

「乗った」


 決まった。


「……行くぞ」


 ペンを構える。


 対象は。


 俺たちの“位置”。


 存在の座標。


 それを、ほんの少しだけズラす。


「……っ」


 触れた瞬間、強い抵抗。


 さっきまでとは比べ物にならない。


「……重いな」


「当然だ」

 リゼが言う。

「自分だもん」


 その通りだ。


 だが。


「……押す」


 ペンを動かす。


 意味を変える。


 位置をズラす。


 ほんの少し。


 完全じゃなくていい。


「……今だ」


 全員が、同時に繋がる。


 ミハイル、カイ。


 負荷が分散される。


「……いける!」


 押し込む。


 その瞬間。


 外から、音がした。


 足音。


 重く、正確な。


「……来たな」

 カイが言う。


「遅い」

 リゼが笑う。


「こっちが先」


 最後に押し込む。


 ペンを離す。


 世界が、わずかにズレる。


「……っ」


 一瞬、視界が歪む。


 そして。


 元に戻る。


 だが。


 何かが違う。


「……終わったか」

 ミハイルが言う。


「いや」


 俺は首を振る。


「“ズレた”だけだ」


 そのとき。


 診療所の扉が、ゆっくりと開いた。


 黒い外套。


 あの男だ。


「……遅かったな」

 リゼが言う。


 男は何も答えない。


 ただ、まっすぐこちらを見る。


 だが。


 その視線が、わずかに迷う。


「……」


 一歩、踏み出す。


 そして、止まる。


「……見えないか?」


 カイが小さく言う。


「いや」


 男が初めて口を開いた。


「いる」


 だが。


「……不安定だ」


 その言葉に、俺は少しだけ笑った。


「お互い様だな」


 男は目を細める。


 観測しようとしている。


 だが。


「……固定できない」


 小さく呟く。


 成功だ。


 完全ではないが。


 “捉えきれていない”。


「……なるほど」


 男が言う。


「自分をズラしたか」


「そういうことだ」

 俺は答える。


 初めて。


 対等に話している気がした。


「……面白い」


 男は少しだけ口元を緩めた。


「だが」


 一歩、前に出る。


 空気が、重くなる。


「それで逃げ切れると思うな」


 その一言で、空気が凍る。


「……逃げるつもりはない」

 俺は言った。


「ただ」


 ペンを持つ手に、力を込める。


「まだ、終わってないだけだ」


 男の視線が、わずかに強くなる。


 観測。


 改訂。


 その衝突。


「……いいだろう」


 男が言う。


「確認しよう」


 その言葉は。


 宣戦布告に近かった。

読んでいただきありがとうございます。


 ついに“観測者”との直接衝突が始まりました。

 ここからは、改訂と観測のぶつかり合いです。


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