第14話 分けた代償の行き先
全員で削れる。
その一文は、思った以上に重かった。
「……公平だな」
カイの軽い一言が、妙に耳に残る。
公平。
確かにそうだ。
だが。
「公平ってのは、だいたい誰も得しない時に使う言葉だ」
俺は言った。
ミハイルが苦笑する。
「否定できませんね……」
リゼは小さく肩をすくめた。
「でも、一人で壊れるよりはマシでしょ」
それも事実だ。
問題は。
「……どのくらい削れるか、だな」
俺は台帳を閉じた。
“観測不能領域”。
自分で把握できない代償。
それが全員に広がる。
「試すしかないね」
リゼが言う。
「試す?」
ミハイルが聞く。
「うん。小さいので」
小さい改訂。
負荷が軽いもの。
それで、どれくらい削れるかを見る。
「……合理的だな」
カイが言う。
「医者っぽいだろ?」
リゼが笑う。
「自分で言うか」
「言うよ」
軽い空気。
だが、やることは軽くない。
「……やるぞ」
俺は台帳を開いた。
残り一件。
それとは別に。
“軽い対象”を探す。
「……これだな」
軽微なズレ。
放置しても致命的ではない。
だが、改訂は可能。
「それ、やるんですか」
ミハイルが言う。
「テストだ」
「なるほど」
納得した顔だ。
「分担する」
俺は言った。
「俺が基準を作る」
ペンを取る。
軽く触れる。
小さなズレ。
それを整える。
抵抗は弱い。
負荷も軽い。
「……よし」
すぐに終わる。
「次、ミハイル」
「えっ、俺ですか!?」
「繋がってる」
「いや、でも……」
「できる」
短く言う。
ミハイルは少しだけ迷ってから、ペンを取った。
「……やります」
対象を見る。
手が震える。
「……大丈夫だ」
俺が言う。
「さっき見ただろ」
「……はい」
深呼吸。
ペンを動かす。
触れる。
「……っ」
顔が歪む。
「来たか」
カイが言う。
「重いです……!」
「最初はそんなもんだ」
俺が言う。
「押せ」
「……っ!」
ミハイルは歯を食いしばる。
そして。
ペンを離した。
「……できました」
息が荒い。
「成功」
リゼが言う。
「ちゃんと整ってる」
「……はあ……」
ミハイルがその場に座り込む。
「……きついですね、これ」
「だろうな」
俺は頷く。
「次、カイ」
「了解」
カイは迷わない。
ペンを取る。
触れる。
「……確かに重いな」
だが、動きは安定している。
「……でも、制御はできる」
押し込む。
整える。
終わる。
「……こんなもんか」
軽く言う。
余裕がある。
「慣れが早いな」
俺が言う。
「観察してたからな」
納得だ。
「……リゼは」
ミハイルが聞く。
「やらない」
即答だった。
「なんでですか」
「私は“見る側”だから」
役割が違う。
「……なるほど」
納得したような、してないような顔だ。
「……で」
俺は台帳を見る。
文字が更新されている。
――軽微改訂:三件成功。
その下。
――負荷分散:安定。
さらに。
――代償分布:均等。
「……均等か」
つまり。
全員、同じだけ削れている。
「……で、どうなんですか」
ミハイルが聞く。
「何が削れたか」
「……わからない」
正直に言う。
それが一番問題だ。
「……俺も」
カイが言う。
「特に変わった感じはない」
リゼは少しだけ目を細めた。
「……あるよ」
「何が」
俺が聞く。
リゼは、ミハイルを見る。
「さっきより、反応が遅い」
「え?」
ミハイルが顔を上げる。
「そうですか?」
「うん」
リゼは頷く。
「ほんの少しだけ」
ミハイルは少しだけ考える。
「……言われてみれば」
自覚は薄い。
だが、確かに。
「……処理速度か」
俺が言う。
「たぶん」
リゼが答える。
「思考とか、反応とか」
「……なるほど」
それなら納得できる。
“削れる”対象として。
「……やばいですね」
ミハイルが苦笑する。
「地味に」
「地味だから厄介だ」
カイが言う。
「気づかないうちに進む」
その通りだ。
「……俺は?」
俺が聞く。
リゼは少しだけ見てから言った。
「……同じ」
「そうか」
納得するしかない。
「……で」
カイが言う。
「これで本番やるのか」
台帳を見る。
残り一件。
最後の対象。
「……やる」
俺は言った。
「準備はできた」
「……ほんとに?」
ミハイルが聞く。
「できてない」
俺は答える。
「だが、やる」
それしかない。
台帳を開く。
最後の対象。
その情報を読む。
そして。
「……おい」
思わず声が出た。
「どうしました」
ミハイルが聞く。
「……これ」
言葉が詰まる。
リゼが覗き込む。
そして。
「……あ」
小さく声を上げた。
「何ですか?」
カイが聞く。
俺はゆっくりと言った。
「……これ、人じゃない」
静寂。
「……は?」
ミハイルが固まる。
台帳には、はっきりと書かれている。
対象。
“構造”。
「……建物?」
カイが言う。
「いや……」
違う。
「……もっとデカい」
嫌な予感がする。
これは。
個人じゃない。
「……範囲、広がりすぎだろ」
思わず呟く。
リゼが静かに言う。
「だから言ったでしょ」
その声は。
少しだけ、重かった。
読んでいただきありがとうございます。
代償の正体が少しずつ見えてきましたが、今度は対象のスケールが変わりました。
“人”ではないものの改訂。
ここから一気に難易度が上がります。
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