表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名前も存在もない俺だけが、世界を書き換えられる件 ―観測されない男は、すべての記録を上書きする  作者: 空城ライド


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/15

第13話 分散の代償

 これは、止まらない。


 そう理解した瞬間から、選択肢は減った。


「……次、どうする」


 診療所の中で、俺は台帳を閉じながら言った。


 ベッドの上の患者は、安定している。

 さっきまでのズレは消えた。


 つまり――成功だ。


 だが。


「まだ二件、残ってる」

 ミハイルが小さく言う。


「そうだな」


 数は少ない。

 だが、問題は数じゃない。


 回数だ。


 やればやるほど、削れる。


 それがわかっている。


「……続けるの?」

 リゼが聞く。


 軽い口調だが、目は笑っていない。


「やるしかない」

 俺は答えた。


「止める方法がない」


「あるよ」

 リゼは言う。


 即答だった。


「全部、無視する」

「無理だな」


 これも即答だった。


 放置すれば進む。

 制御できない形で。


 それはもう確認している。


「……だよね」


 リゼは肩をすくめる。


 納得はしている。


「じゃあ、続けるしかない」


「そういうことだ」


 ミハイルが少しだけ顔をしかめた。


「でも……さっき、かなりキツそうでしたよね」

「事実だ」


 否定しない。


「分散してるからまだ持ってる」

「……してなかったら?」

「たぶん、倒れてた」


 軽く言う。


 軽く言っていい内容ではないが。


「……怖いこと言いますね」

「事実だ」


 それ以上でも、それ以下でもない。


 リゼが一歩近づく。


「じゃあ、増やす?」

「何を」

「分散先」


 その発想は、自然だった。


「……増やせるのか」

「条件があるけどね」


 リゼはミハイルを見る。


「“繋がり”が必要」


「……名前か」

 俺が言う。


「そう」


 リゼは頷く。


「覚えさせる。観測させる。繋げる」


「簡単に言うな」

「簡単じゃないよ」


 その顔は、少しだけ真面目だった。


「負担、分かれるけど」

「けど?」


「その分、削れる人数も増える」


 ミハイルが息を呑む。


「……それって」

「リスクは分散される」


 リゼは言った。


「でも、ゼロにはならない」


 当然だ。


「……やるかどうか、だな」


 俺は少しだけ考えた。


 分散すれば楽になる。

 だが、その分巻き込む。


「……ミハイル」

「はい」


「もう一人、巻き込めるか」


 ミハイルは少し考えた。


「……人は、います」

「誰だ」

「さっきの医者」


 白衣の男。


 確かに、“見える側”だった。


「……あいつか」


 リゼも頷く。


「ありだね」

「信頼できるか?」

「わかんない」


 即答だった。


 だが。


「でも、適性はある」

 リゼが言う。


「観測できるし、冷静」


「……確かに」


 感情で動くタイプではない。


「……行くか」

 俺は言った。


「今から?」

 ミハイルが驚く。


「今だ」


 時間は待ってくれない。


 診療所の奥へ向かう。


 白衣の男は、カルテを見ていた。


「……来たか」

 顔も上げずに言う。


「話が早いな」

「予想してた」


 淡々とした声。


「で?」


 視線がこちらに向く。


「次の改訂?」

「その前に」


 俺は言った。


「手伝え」


 男は少しだけ目を細めた。


「……手伝う?」


「そうだ」


 ミハイルが横で固まっている。


「負担を分散する」

「なるほど」


 理解が早い。


「リスクは?」

「ある」

「どのくらい」

「わからない」


 正直に言う。


 男は少しだけ考えた。


 数秒。


 そして。


「いいよ」


 あっさりだった。


「軽いな」

「興味がある」


 それだけ、と言う。


「普通の患者より面白い」


 不謹慎だが、嘘ではない。


「……名前」

 俺は言った。


「教えろ」


 男は少しだけ笑った。


「カイ」


「それだけか」

「それだけでいい」


 短い名前だ。


 扱いやすい。


「……カイ」


 口に出す。


 その瞬間。


 空気が少しだけ揺れる。


「……来るぞ」

 リゼが言う。


 ミハイルが顔をしかめる。


「またですか……」


 カイが少しだけ眉をひそめた。


「……頭に、くるな」


 観測の接続。


 成立した。


「……繋がったな」

 俺が言う。


「たぶんな」


 カイは軽く息を吐いた。


「で、どうする」


「分ける」


 台帳を開く。


 残り二件。


 その一つを。


 カイへ。


「……これか」


 カイが覗き込む。


 見えている。


「いけるか」

「やってみる」


 迷いがない。


 いい。


「やり方は?」

「感覚だ」


 説明になっていない。


 だが、これが一番近い。


「……雑だな」

「そういうもんだ」


 カイは少しだけ笑った。


 そして。


 ペンを取る。


「……なるほど」


 対象を見る。


 ズレている存在。


「位置を合わせる、か」


 理解が早い。


「……行くぞ」


 カイがペンを動かす。


 その瞬間。


「……っ」


 顔が歪む。


 だが、止めない。


「……重いな」


「最初はそんなもんだ」

 俺が言う。


「……でも、いける」


 カイは押し込む。


 意味を。


 位置を。


 そして。


 ペンを離した。


 静寂。


「……どうだ」

 俺が聞く。


 カイは息を吐いた。


「……できたな」


 リゼが頷く。


「成功」


 ミハイルがほっと息をつく。


「……すごいな」


「いや」


 カイは首を振る。


「これ、慣れるな」


 その一言が、少しだけ嫌だった。


「……そうだな」


 俺も同意する。


 慣れている。


 確実に。


 台帳を見る。


 文字が増えている。


 ――分散処理:成功。


 そして。


 その下。


 ――負荷分散率:向上。


「……なるほど」


 確かに、軽い。


 さっきよりも。


「……これなら」

 ミハイルが言う。

「続けられるかも」


「そうだな」


 だが。


 次の文字が浮かぶ。


 ――代償共有:開始。


「……おい」


 思わず声が出る。


「どうしました」

 ミハイルが聞く。


「……全員で削れるらしい」


 静寂。


 カイが苦笑する。


「……公平だな」


 リゼが小さく言う。


「最悪だね」


 その通りだった。


 負担は減る。


 だが。


 代償は全員に来る。


「……戻れなくなるな」


 俺は小さく呟いた。


 これは。


 もう。


 巻き戻せない。

読んでいただきありがとうございます。


 ついに“分散”が本格的に始まりましたが、その代償は全員へ。

 楽になるほど、引き返せなくなる構造です。


 ここから一気にチーム戦とリスクが加速していきます。

 続きが気になったら、ぜひブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ