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プリズン編第八章 善と疑の狭間

■ 休み時間 ― 再び影へ


セクターCの休み時間。

中庭の喧騒は以前よりも穏やかになっている。


俺はベンチに腰掛け、

靴紐を結ぶふりをしながら、耳を澄ませた。


近くの通路。

看守が二人、立ち止まっている。


距離は近い。

声も、抑えきれていない。


■ 看守たちの疑念


「……あの四人、静かすぎないか?」


来た。


俺は動かず、

視線も上げない。


「B-317だろ?」


「そう。

問題一つ起こしてない」


別の看守が、低く続ける。


「普通、どこかでボロが出る。

なのに――」


短い沈黙。


「逆に怪しい」


心臓が、

一拍だけ速く打つ。


■ 善意の声


だが、次に出た言葉は、

意外なものだった。


「……俺は、いいことだと思うけどな」


声の主は、少し疲れた調子だった。


「規律守って、

作業もちゃんとやってる」


「確かに」


「セクターCで十分やってる。

Bに上げてもいいんじゃないか?」


――セクターB。


警備がかなり薄くなる場所。

生活環境も一段上。


「まだ早いって」


疑念を持つ看守が言う。


「従順すぎる。

上がどう見るか……」


「上はともかく」


善意の看守は続けた。


「ここで腐らせるより、

Bで様子見した方がいい」


「問題起こせば、

すぐ落とせるしな」


■ 二つの視点


俺は、

ゆっくりと息を吐いた。


――分かれ始めている。


疑う看守


評価する看守


どちらも、

俺たちを見ている。


「ハウンドってやつ」


疑念の看守が呟く。


「目が静かすぎる」


「頭使ってそうだな」


善意の看守が笑う。


「頭使えるなら、

尚更いいだろ」


「……そうだな」


足音が遠ざかる。


■ 共有 ― 新たな分岐点


休み時間の終わり。

俺は三人に伝えた。


「看守の間で、意見が割れてる」


ファルコンが小さく息を吸う。


「疑われてる?」


「ああ」


「でも――」


フォックスが続ける。


「Bに上げようって話も出てるんだな」


「そうだ」


シャドウが腕を組む。


「……進めば進むほど、

選択肢が増えるな」


俺は頷いた。


「セクターBは、

チャンスでもあり、罠でもある」


「生活が楽になる分、

監視は“質”が上がる」


ファルコンが言う。


「露骨な脱獄は無理になる」


「だが」


俺は静かに言った。


「Bは、Aへの踏み台でもある」


沈黙。


「管理者の目をかわしながら、

看守の善意を使う」


フォックスが歯を見せて笑う。


「難易度、高ぇな」


「元からだ」


俺は立ち上がった。


問題を起こさないことは、

美徳にも、罪にもなる。


この刑務所では――

善意すら、武器か罠になる。


俺たちは、

その境界線を歩き続ける。

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