プリズン編第七章 沈黙の房
■ 夜 ― 再び盗み聞き
消灯後。
セクターCの夜は、相変わらず静かだ。
だが――
静かすぎる夜ほど、油断が混じる。
俺はベッドから静かに起き上がり、
通路側の影に耳を寄せた。
足音。
二人分。
看守の声だ。
「……なあ、SHUの件、聞いたか?」
俺は、呼吸を止めた。
■ SHUの現実
「聞いたも何も……」
別の看守が低く答える。
「あれはやりすぎだ」
俺の背中に、冷たいものが走る。
「水も減らされてるらしい。
三日まともに寝かせてない」
「床に寝かせたままか?」
「ベッドは最初からない。
しかも――」
一瞬、言葉が詰まる。
「……殴られてる」
拳が、無意識に握られた。
「“反省を促すため”だとよ」
吐き捨てるような声。
「ふざけんな。
あれは懲罰じゃない、虐待だ」
■ 看守たちの本音
しばらく、沈黙。
そして、もう一人が言った。
「正直、俺は関わりたくねぇ」
「俺もだ」
「半分以上の連中が、そう思ってる」
――半数以上。
「じゃあ、なんで止めない?」
その問いに、
返ってきた答えは、重かった。
「上の指示だ」
「管理者レベルの連中だよ」
俺は歯を食いしばる。
「SHUは“見せしめ”だ。
逆らえば、ああなるってな」
「だから暴動も減る」
「……人間じゃねぇ」
■ 管理者の影
「名前、出すなよ」
「分かってる。
だが、あの管理者……」
声がさらに小さくなる。
「脱獄より怖ぇのは、
“大人しくしすぎる囚人”だって言ってた」
俺の心臓が、嫌な音を立てた。
――俺たちだ。
「考える囚人は危険だ」
「だから、
芽は早めに摘む」
足音が、遠ざかっていく。
■ 真実の共有
翌朝。
自由時間の隙。
俺は三人を集め、短く、だが正確に伝えた。
「SHUは、独房じゃない」
ファルコンが顔を曇らせる。
「……まさか」
「虐待が行われている」
フォックスが、低く唸る。
「クソが……」
「だが重要なのは、ここだ」
俺は続ける。
「看守の半数以上は、よく思っていない」
シャドウが目を細める。
「じゃあ、誰が?」
「管理者レベルだ」
沈黙。
「SHUは、
見せしめと恐怖の装置だ」
ファルコンが震える声で言う。
「じゃあ……
俺たちがセクターA候補って話も……」
「そうだ」
俺は頷いた。
「従順すぎる囚人は、危険視される」
フォックスが拳を握りしめる。
「つまり、
模範囚になりすぎても終わりか」
「バランスが必要だ」
俺は静かに言った。
「疑われない程度に問題を起こし、
だが目立たない」
シャドウが小さく笑った。
「……綱渡りだな」
「そうだ」
俺は天井を見上げた。
この刑務所は、
逃げる者だけでなく、
考える者をも排除する。
だが――
「だからこそ、
管理者の目の届かない“影”を使う」
SHU。
管理者。
虐待。
すべてが、
脱獄の“理由”に変わった。
ここは、正義の場所じゃない。
俺たちは、
生きて出るしかない。




