プリズン編第六章 封じられた穴
■ 深夜 ― サイレン
――ウゥゥゥゥゥゥン。
耳を裂くようなサイレンが、
収容区画全体を叩き起こした。
「何だ……!?」
フォックスが跳ね起きる。
赤色灯が壁を染め、
重い足音が廊下を揺らす。
「伏せろ!動くな!」
黒装束の影。
盾、銃、ヘルメット。
――特殊部隊。
鉄格子の前で止まり、
銃口がこちらを向く。
心臓が、嫌な音を立てていた。
■ 事情
俺はゆっくりと両手を上げ、
できるだけ落ち着いた声で聞いた。
「……何があったんですか?」
一瞬、間があった。
近くの特殊部隊員が、低く答える。
「ボロボロの通気口から脱獄を試みた輩がいた」
その言葉に、
俺の背中を冷たい汗が流れる。
「そいつのせいで、
セクターDの囚人の半数以上が暴動を起こした」
フォックスが息を呑む。
「収拾のため、
俺たちが派遣された」
通気口。
――衣類作業部屋の、あれだ。
誰かが、
俺たちより先に動いた。
そして――失敗した。
■ 夜の終わり
特殊部隊は、
暴動鎮圧のため先へ進んでいった。
鉄格子の向こうで、
怒号、金属音、悲鳴。
ファルコンが震える声で囁く。
「……一歩間違えてたら、俺たちも」
「黙って寝ろ」
俺は短く言った。
「今は、何も知らない囚人だ」
その夜、
俺は一睡もできなかった。
■ 翌日 ― 消えた希望
朝。
衣類管理室に向かう通路で、
俺は嫌な予感を覚えた。
――通気口。
昨日までの、
あのボロボロの金属はない。
代わりに、
新品同然の強化パネル。
太いボルト。
溶接跡。
「……完全に修復されてる」
シャドウが、悔しそうに呟く。
「使えなくなったな」
希望の穴は、
たった一晩で塞がれた。
■ 騒ぎ ― 消えたドリル
その日の午後。
「おい!誰か、工具を見てねぇか!」
作業場で、
看守の声が響いた。
「超小型電動ドリルがなくなってる!」
――まずい。
看守たちがざわつく。
「盗難だ」「また脱獄か」「誰だ」
視線が、
土木作業の俺に集まりかける。
その瞬間、
俺は一歩前に出た。
「違います」
全員がこちらを見る。
「それ、昨日の暴動の囚人が盗んでました」
看守が眉をひそめる。
「証拠は?」
「見ました」
俺は即答した。
「夜、連行される前に。
下水管のほうに投げ捨ててました」
一瞬の沈黙。
ファルコンが、
わずかに息を止めるのが分かった。
看守は舌打ちした。
「……下水か。
探す価値もねぇな」
別の看守が吐き捨てる。
「どうせSHU送りだろ」
――助かった。
疑いは、
“すでに消えた囚人”へ向けられた。
■ 共有 ― 失ったもの、得たもの
夜。
収容房で、俺たちは声を潜めた。
「通気口は使えない」
「ドリルも失った」
フォックスが歯を食いしばる。
「最悪だな」
「いや」
俺は首を振る。
「重要なことが分かった」
三人が俺を見る。
「この刑務所は、穴を見逃さない」
ファルコンが頷いた。
「そして、
先に動いた奴は――消される」
シャドウが低く言う。
「SHUか……」
俺は天井を見つめた。
「だからこそ、
完璧にやる必要がある」
失敗した囚人は、
俺たちに警告を残した。
焦るな。
音を立てるな。
目立つな。
脱獄は、戦争じゃない。
――静かな、侵食だ。




