プリズン編第三章 昇格という名の罠
■ 夜 ― 盗聴
消灯後の刑務所は、昼よりもよく“喋る”。
足音。
鍵の擦れる音。
そして、気の緩んだ看守の声。
俺はベッドから静かに身を起こし、鉄格子の影に身を寄せた。
この時間帯、通路の音は反響する。
だからこそ、耳を澄ませば――聞こえる。
「……なあ、あの四人、最近おかしくないか?」
「B-317か。問題起こさねぇし、作業も進んでやる」
足音が止まった。
「特にハウンド。あいつ、頭も体も切れる」
俺は呼吸を殺す。
■ セクターの真実
「しかしよ……セクターDに置いとく必要あるか?」
その言葉に、俺の心臓が一瞬跳ねた。
セクターD。
この刑務所で最悪の場所。
脱獄はほぼ不可能。
壁は厚く、巡回は常時、監視は三重。
入ったが最後、心が壊れる。
「Cでもいいんじゃねぇか?」
「セクターCか……」
別の看守が言葉を継ぐ。
「警戒は多少薄いが、油断はできねぇ。
だが、あそこなら収容房の人数も調整できる」
――なるほど。
さらに声が続く。
「Bはさすがに早いな。
警備がかなり薄いし、生活も普通すぎる」
「ベッドにテレビ、机付きの部屋だろ?
下手なボロアパートよりマシだ」
俺は知らず、歯を噛みしめた。
「Aは論外だ。
模範囚のセクターだぞ」
「無期でも釈放の可能性がある場所だ。
警備も一番手薄」
そこで、看守の一人が言った。
「……あの四人、将来的にはA行きか?」
「あり得るな。今の調子なら」
――確信した。
■ 真実の理解
俺たちは、
セクターA候補として見られている。
だが今は、
セクターDに閉じ込められたまま。
「とりあえずだ」
看守の声が低くなる。
「まずはDからCに上げるかどうか、上に話してみる」
「様子見だな」
足音が再び動き出す。
俺は、闇の中で静かに息を吐いた。
■ 翌朝 ― 共有
朝のざわめきの中、
俺は三人に短く、だが正確に伝えた。
「聞いた話がある」
ファルコンが真剣な顔になる。
「……セクターか?」
「そうだ」
俺は説明した。
セクターD:最重警備。脱獄ほぼ不可能
セクターC:警戒は比較的薄いが油断不可。収容房人数を選べる
セクターB:かなり警備が薄く、生活環境が大幅改善
セクターA:模範囚専用。警備最薄、釈放の可能性あり
フォックスが目を輝かせる。
「最高じゃねぇか」
「まだだ」
俺は即座に止める。
「重要なのはこれだ」
ファルコンが続けた。
「俺たち、セクターA候補なんだな」
シャドウが静かに言う。
「……つまり、今は餌を与えられてる段階か」
「そうだ」
俺は頷いた。
「鎖を短くして、安心させる。
その隙に、様子を見る」
フォックスが拳を握る。
「じゃあ、Cに上がるのは――」
「悪くない」
俺は衣類管理室の通気口を思い出す。
「Cは、自由度が上がる。
だが、油断すれば終わりだ」
ファルコンが小さく笑った。
「信用を積む作戦、当たりだな」
「だが忘れるな」
俺は三人を見渡した。
「昇格はご褒美じゃない。試験だ」
そして、その試験に合格した先にあるのは、
檻か、自由か。
俺たちは、その両方を見据えて動く。
――セクターCへの扉は、
すでに、静かに軋み始めていた。




