プリズン編第十五章 闇の中で響く足音
⋯影の中
暗い。
眩しいほど暗い。
ここには、
昼も夜もない。
俺は、
コンクリートの床に横たわっていた。
毛布はない。
ベッドもない。
あるのは、
冷たさと――
沈黙。
「……やっぱ、来たか」
自分の声が、
やけに遠く聞こえる。
あの時。
面会室で立ち上がった瞬間。
俺は、
結末を分かっていた。
それでも――
口は、止まらなかった。
ハウンド。
ファルコン。
フォックス。
あいつらの背中が、
一瞬だけ見えた。
驚き。
怒り。
そして――
理解。
「……これでいい」
俺は、
天井を見上げる。
いや、
見上げている“つもり”だった。
明かりが、
目を焼く。
時間は、
意味を失う。
食事は、
無言で差し込まれる。
殴られることは、
意外と少ない。
代わりに――
放置。
誰とも話せない。
何もできない。
「……静かすぎるな」
俺は、
独り言を言った。
この刑務所は、
“声を消す”ことに慣れている。
だから――
気づかない。
三日目か、
五日目か。
看守の足音が、
変わった。
慌ただしい。
無線が多い。
「……?」
壁越しに、
かすかな声。
「――確認完了」
「――外部から照会?」
「――そんなはずは……」
俺は、
口元を歪めた。
「来たか……?」
次の配給。
皿を入れる小窓が、
一瞬だけ開いた。
そこから、
紙が落ちた。
――わざとだ。
俺は、
素早く拾う。
そこに書かれていたのは、
たった一文。
「作戦準備完了。
お前は、もう独りじゃない。」
文字の癖。
間違いない。
「……エリオット」
あの弟。
いや――
あの時点で、
普通の警官じゃなかった男。
今なら、
分かる。
エリオットの目。
感情を抑えた、
あの“現場の目”。
兄を想う弟の顔の裏に、
指揮官の計算があった。
「……最初からか」
俺は、
小さく笑った。
刑務所を潰す準備。
それは、
俺たちが捕まる前から――
いや、
SHUの噂が出た時点で
始まっていたんだ。
もう、ここで確信した。
エリオットは、
ただの警察官じゃない。
特殊部隊隊長。
対テロ。
対暴動。
施設制圧。
この刑務所を
“内側から壊す”ために、
ずっと待っていた。
「……派手にやる気だな」
俺は、
拳を握る。
その夜。
空気が、
震えた。
遠くで、
低い音。
――ヘリ。
床を伝う、
規則的な振動。
「……来た」
無線の怒鳴り声。
走る足音。
看守の声が、
恐怖を帯びる。
「特殊部隊だ!」
「包囲されてる!」
俺は、
壁に背を預けた。
暗闇の中で、
はっきりと笑った。
「遅ぇよ」
俺は、
助けを待ってない。
ここまで来たなら、
やることは一つ。
生きて、
外に出る。
そして――
あいつらに、
合流する。
ハウンド。
ファルコン。
フォックス。
「……借りは、
高くつくぞ」
鉄扉の向こうで、
何かが壊れる音がした。
これは、
救出じゃない。
制圧だ。
刑務所という名の檻が、
今――
壊れ始めている。




