プリズン編第十三章 沈黙の対価
■ 呼び出し ― 管理者室
それは、
あまりにも静かな呼び出しだった。
「ハウンド。
ファルコン。
フォックス。
シャドウ。」
セクターA専用の通路。
装飾すらある廊下。
ここが刑務所だという感覚が、
薄れていく。
扉の前で、
看守が一言だけ告げた。
「管理者がお待ちだ」
――やはり、来た。
■ 管理者 ― 仮面の正体
部屋は広い。
窓があり、
本物の木製デスク。
椅子に座っていたのは、
白髪混じりの男だった。
穏やかな笑顔。
柔らかい声。
「初めまして、
いや……」
男は、
俺の目を見た。
「君のことは、よく知っている。ハウンド」
背中に、
冷たいものが走る。
「君たちは――」
男は、
指を組んだ。
「無実だ」
ファルコンが息を呑む。
フォックスの肩が、わずかに動く。
シャドウは、目を細めた。
「そして」
管理者は、
続けた。
「SHUの実態も、
監視拠点の場所も、
すでに把握している」
――全て、バレている。
■ 暴かれる真実
「通気口からの侵入」
「キーカード」
「監視映像の確認」
「そして――」
管理者は、
軽く笑った。
「エリオット。
君の弟だね」
俺の拳が、
無意識に握られる。
「安心していい」
男は言った。
「彼は、
まだ何も掴んでいない」
「なぜなら」
「君が、まだ話していないからだ」
■ 取引 ― 甘い地獄
管理者は、
引き出しを開けた。
書類。
封筒。
そして――
「提案だ」
男の声は、
驚くほど穏やかだった。
「エリオットに、
SHUの実態と監視拠点の場所を教えない」
「その代わりに――」
封筒が、
机の上に置かれる。
「即時釈放」
「前科は消える」
「新しい身分」
「そして、
一生困らない程度の資金」
フォックスが、
低く唸った。
「……冗談だろ」
管理者は首を振る。
「本気だ」
「君たちは、
“優秀すぎた”」
「だから、
表に出すと困る」
■ 本音 ― 管理者の論理
「SHUは必要悪だ」
管理者は、
当然のように言った。
「秩序のために、
何人かが壊れる」
「それだけの話だ」
ファルコンが、
震える声で言う。
「……人を、
道具みたいに言うな」
管理者は、
表情を変えなかった。
「君たちは、
選べる立場にいる」
「沈黙か、
正義か」
「だが正義を選べば――」
一拍。
「SHU行きだ」
「最悪、
“事故”もあり得る」
■ 沈黙 ― 四人の時間
管理者は、
立ち上がった。
「返事は急がなくていい」
「明日の面会までに、
決めるといい」
「エリオットに、
何を話すか」
扉が閉まる。
■ 選択 ― 壊れないために
部屋に戻る。
誰も、
すぐに喋らなかった。
「……すげぇな」
フォックスが、
乾いた笑いを出した。
「自由と金か」
「沈黙の代償としては、
破格だ」
ファルコンは、
俯いたままだ。
「でも……」
「SHUの人たちは?」
シャドウが、
静かに言った。
「俺たちが黙れば、
あそこは続く」
俺は、
ゆっくりと息を吐いた。
頭に浮かぶのは――
床に横たわる囚人。
消えかけた声。
血の跡。
そして、
エリオットの目。
「……管理者は、
俺たちを“逃がす”つもりだ」
「代わりに」
「全部を、
なかったことにする」
俺は、
三人を見た。
「選択肢は二つだ」
「自由を取って、
地獄を見捨てるか」
「全てを敵に回して、
真実を外に出すか」
沈黙。
セクターAの静けさが、
やけに重かった。
――これは、
脱獄よりも重い選択だ。




