9話
侍女を一度追い払っても、お父様が私を呼んでいるっていうことはなにかがあるのだろう。
家族に会うのは、はっきりいって、面倒くさい。
放置していてくれないかな。
「はぁ、リヤン。あたち、がんばりゅ」
リヤンが私の頭をぐしぐしと撫でた。
「頑張れよ」
「ありあとぅ」
優しいなぁ。
最初はリヤンがどんな人なのかわからずにいたけれど、今では世話好きの優しいお兄さんと言う感じである。
いや、どちらかというとオカンか。
うむ。オカン認定!
リヤンは人間ではないけれど、こんなに側にいてくれる人は始めてで、ちょっと嬉しかった。
まるで家族みたい……。
そう思ったところで、私は頭を振った。
リヤンは私に縛られているというのに、なんというわがままか。
「さて、ここからどうする。どうせまた来て連れ出されるだろう……なんなら逃げるか?」
「え?」
「別に、ここに居なくてもいいだろ」
確かにその通りだ。
なんで今まで気が付かなかったのだろう。
リヤンが傍にいてくれるならば、二人で旅をするのもいいかもしれない。
そう思った時、扉がまた勢いよく開き、私が驚いていると、そこにはこちらを睨みつけるお父様が立っていた。
「……はぁ。いるではないか」
「あ……」
逃げる間もなく、私はお父様の指示によって騎士に捕まえられ、担がれた。
「おい……トト。どうする? 俺が……こいつら喰ってやろうか」
リヤンの口元が弧を描き牙がその口から垣間見える。そしてその瞳は赤く怪しく輝いた。
私はリヤンに向かって首を横に振った。
だめ。
そんな私の様子を見ると、リヤンは残念だと言うように肩をすくめて姿を消したまま私を運ぶ騎士の後ろについてくる。
「はぁぁ。全員喰って逃げたら楽なんじゃね?」
「らめ」
私が小さな声で返事を返すと、リヤンはふてくされたように天を仰いだのだった。
連れていかれた場所は、本館の一室であり、そこには煌びやかな衣装と侍女が待機していた。
どれもこれも美しい装飾のドレスばかり。
私がびくびくとしていると、お父様が言った。
「……我がヴィクトリア王国第二王子であらせられるエトワール・ドゥ・ヴィクトリア殿下の婚約者選定のため、十歳以下の娘は全員茶会へ参加せよとのことであった。王子の年は七つ。良いか。お前は黙って茶会の隅に座っていればいい。余計なことは言わず、黙っているのだ。いいな」
「……あい」
「……まともに返事も出来んのか。はぁ。茶会迄の数日間は教育を施す。この部屋で教師から最低限のマナーを学ぶように」
返事をしようと思ったけれど、上手く発音できる気がしなくて黙ってうなずいた。
お父様はそう言うと出ていき、侍女が一人前へと進み出て私に告げた。
「本日より三日間、眠る時間はないと思ってください。王家の皆様の前へでるのです。最低限しっかりと学ばねばなりません。家庭教師の方がまもなくいらっしゃる ので まずは 身支度の方を済ませていきましょう。 お返事は?」
「……あい」
「はい」
「……ぁい」
「はぁぁ」
侍女はため息をつくと、他の侍女へと指示を出し、私はあれよあれよという間に風呂に入れられ綺麗にみがかれ、綺麗な洋服を着せられた。
そこからの3日間は本当に地獄のようだった。
「姿勢がなっておりません。やり直し」
「挨拶がなっておりません。やり直し」
「マナーがなっておりません。やり直し」
やり直し、やり直し、やり直し!
ただリヤンは私が 失敗するたびに腹を抱えて笑い転げていた。
かなり性格の悪いやつである。
「うぅぅ。ちゅらい」
「がんばれがんばれ。いいぞ。レディっぽい」
泣き言を呟いても、がんばれと笑いながら言ってくるから酷い奴である。
レディについてリヤンが教えてくれるんじゃなかったのか。口約束は口約束なのか。
いや、むしろもう、覚えていないのか。薄情な奴だ。
最後の1日の夕方から明け方まではさすがに顔色が悪いといけないので 睡眠時間をもらえた。 睡眠時間を削りに削られていた私は 泥のように眠った。
「うぅぅぅ。たくさん寝たのに、まだ眠いぃ」
私がそう呟くと、リヤンが言った。
「トト。お前のいびきすごかったぞ。地鳴りみたいだった」
「レディにしちゅれいよ」
「レディ……?」
一つ一つ、むかつく。
そして迎えたお茶会の当日、私は今まで来たことのないような美しいドレスを着せられて馬車へと放り込まれた。
侍女も伴わずに馬車に乗せられたのは、私的にはほっと息をつけるのでありがたかった。
ミーナもお茶会に参加するはずだが、あの性格の悪い妹とは出来ることならば顔を合わせたくない。
「妹がいるんだろ?」
「あい。でも……性格ぶしゅ」
「お前……そんな言うなよ」
「会ったら分かりゅ」
私だって出来ることならば血のつながった妹を愛でたかった。
けれど、ミーナが私に愛でられて喜ぶとは思えない。
「はぁぁぁ。もう早く帰りたい」
どうせ私が王子の婚約者に選ばれることはないだろう。
「まぁ、そう言うなよ。せっかくだから楽しめ」
「えぇぇ」
楽しめと言うが、楽しめるだろうか。
「狙いは隅っこだ」
「たしかに」
私は隅っこで、ひっそりと雰囲気だけでも楽しみたいと思った。
「ひらひらのスカート履いて お姫様みたいだ」
私の横に座るリヤンは そう言うと 窓の外を眺めながら楽しそうに呟いた。
「綺麗だな」
「リヤンは楽しちょうね。あたちはこんなに疲労困憊だというのに」
「ははは。いいだろ。まあなんか嫌なことがあったら言えよ。助けてやる可能性もある」
「可能性……」
本当かな。 なんか嫌な予感がするからリヤンに頼らない。
馬車が王城にたどり着くと、 私は使用人に案内されて一人お茶会の会場へと向かった。
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