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底辺からの異世界転生、その幼女無自覚に世界の理を覆す  作者: かのん


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7話

 屋敷の周辺には騎士の見張りもいるだろうから、できるだけ目立たないように進んでいかなければならない。


 窓の鍵を開けて外に出ると、心地の良い春風が吹き抜けていった。


 この世界に生まれてから私はこんな風に外に出るのは初めてだ。


 少しの緊張と少しの期待。


「大丈夫かちら?」


「まぁ、どうとでもなる。死ななけりゃーな!」


 リヤンなりの冗談なのだろうか。


 リヤンは私を抱きかかえたまま走り出した。


 緑の木々の匂いがした。


 庭を抜けてリヤンはいとも簡単に塀を飛び越えると外へと出た


 外に出るとリヤンは 迷うことなく道を進んでいく。 道順を知っているのだろうか。


「町を歩いたことはありゅの?」


「さぁな。覚えてない。だが、こっちだ」


 確信めいた様子でリヤンは街を進んでいく。


 しばらく歩くと商店街が見えてきた。


 リヤンは足を止めると小さく息を飲んだ。


 そこは小さな飲食店のようだった。 リヤンは迷うことなく中へ入っていく。


 ただ 中に入るとリヤンは少しがっかりとしたようにため息をついた。


「どうちたの?」


「分からない。 ただここは俺の知っている店ではもうないみたいだ」


 私はリヤンがいつの時代を生きていたかは分からない。


 彼はきっと自分の記憶をたどっていたのだと思う。


「さあ。 料理を 頼もう。 匂いは結構いいぜ。 料理がうまいといいな」


「リヤンはなにたべたい?」


「え? 俺?」


「うん。 霊力をかなり 渡してあるから 味も楽しめると思うよ」


「嘘だろ……お前、死人を復活させてるようなもんじゃねぇか」


 その言葉に私は首を横に降った。


 全く別物である。


「生き物とは違うよ」


「ふーん。まぁ別に、生きてても死んでても変わらねぇしな。だが、食事は楽しみだ」


「うん! あたちも!」


 リヤンはメニューを開くと、私に見えるようにしてくれた。


「メニュー見えるか?」


「あい」


 さまざまなメニューがあるなか、リヤンは肉料理を頼み、私は野菜が沢山はいったスープを頼んだ。


「おい……もっといいものにしろよ」


「たぶん、今の体じゃ、たべれない。お肉食べれるのうらやまちい」


 リヤンは残念なものを見るような視線でうなずく。


 それからほどなくして料理が運ばれてきた。


 とってもいい香りがして、私は思い切りその香りを吸い込んだ。


 ふわぁぁぁ。幸せ。この香りにずっと包まれていたい。


 涙が浮かんできて、私はそれを洋服の袖で拭った。


 料理を運んできたお姉さんは、私を見て優しく微笑んで言った。


「とても可愛い子ね。貴方の子?」


 リヤンはまだ青年だ。その発言に私吹き出しそうになったが、リヤンは焦るようすもなくうなずいた。


「あぁ。でもまだ全然食べれねぇんだ。なぁ、なにかこのチビでも食べれるデザートはねぇか?」


 え!? 否定しないの? この世界では、リヤンくらいの人に子どもがいても普通なの!? そうか……普通なのかもしれない。


 私が思い悩んでいる間に、二人の会話は続いていく。


「あるわよ。私のおすすめでいい?」


「あぁ」


「あらよかった。じゃあお料理食べていてね! デザートを持ってくるわ」 


「頼む」


 お姉さんは私にウィンクをすると、一度厨房へと下がった。


 リヤンは自分の目の前に運ばれてきた肉を小さく切り刻んでいく。


 何をしているのだろうかと思っていると、それをスプーンに乗せて私の口元まで持ってきた。


「ほら、飲み込まなくてもいいから、味だけでも味わえよ」


 この子、優しすぎる。


 え? 昨日、私のこと喰おうとしたくせに。


 え? 優しすぎない?


「いいの?」


「ひもじいのは、辛いだろ」


 リヤンも経験したことがあるのだろうか。


 私はリヤンからお肉を一口食べさせてもらい、その、口の中に広がる味を楽しんだ。


 美味しい。お肉だぁぁぁ。


 幸せすぎる。


 もぐもぐと租借し、そして、私はうっとりとしながら飲み込んだ。


「ぐぅ、げほげほげほ……」


 ただ飲み込んだ途端に咳き込んだ。なんだか、喉やお腹がびっくりしているようなそんな感覚がした。


「ほら、ゆっくり。水飲んで」


「ありあとう」


 ごくごくと水をのみ、私は息つく。


「リヤンおいちかった。ありあとう」


「いや。まだ食べられるか?」


 私は首を横に振った。


「もう、多分むり」


「そうか。ちょっとずつだなぁ……」


 それからリヤンは肉をがぶりと勢いよく食べ始めた。


 美味しいのだろう。口元がゆるんでいる。


 美味しい物を、自分より先に私に食べさせてくれた。


 きっと自分も久しぶりの食事をすぐに楽しみたかっただろうに。


 優しいんだなと思いながら、私もスープに手を伸ばした。


 一口飲んだ瞬間に幸せが広がった。


「こっちも、おいちい」


「よかったな」


「あい。ううう。温かいごはん、はじめて」


「あ?」


 この世界に生まれ変わって初めてだ。涙が溢れながら、私は言った。


「おいちいねぇ」


 リヤンは、ひどく衝撃を受けたような表情であった。


 何か気に障ることを言ってしまっただろうか。


 その時、先程のお姉さんが美味しそうなプリンとりんごのジュースを持ってきてくれた。


「うわぁぁぁ! うれちい! うれちい!」


「よかった。美味しく食べてね」


 お姉さんがそう言って立ち去ろうとした時、私はお姉さんの後ろをちょこちょことついて回っていた男の子が歩み寄ってきた。


「あのさ、頼みがあるんだけど」


「なぁに?」


「あいつに、約束守れなくてごめんって伝えてくれない? あと、約束のものは庭の木のしたに埋めてあるって」


「それだけでいいの?」


「あぁ。頼むよ」


「お姉さんに優しくしてもらったからいいよ。貴方もそろそろ上に行きなよ?」


「あぁ。見届けたら行く。約束だぞ。頼んだからな」


「あーい」


 男の子は満足げに微笑むと消えた。


「なんだあれ。お前、いつもあんな安請け合いしてるのか?」


「んー? うん。だって大切な人がいるのってすごく、素敵なことだもの」


 大切な人に最後の言葉を伝えられないのはきっと酷く辛いことだろうから。


 私はプリンを食べる。


「ぷるんぷるんだぁ! 最高らー!」


「お前のほっぺたほどじゃないけどな」


「ふぇ? なんて?」


「なんでもねぇ」


 たまに、こちらに聞こえないように呟くのやめてほしい。


 私はぺろりとプリンを食べおわり、 ジュースを一気に飲み干した。


「さて、行きますか」


 私は伝言を伝える際、気を付けていることがある。


 それはあくまでも淡々と伝えることと、無理に信じさせようとはしないこと。


 “死”というものは繊細で、人によって感じ方も乗り越え方も違う。


 だからこそ、無理に願いを押し付けることもしない。


「お姉さん、ちょっといい?」


「どうしたの? 可愛いお客様」


 私の視線に合わせてお姉さんがしゃがむ。


 お姉さんの耳元で、私は内緒話をするように伝えた。


「伝言を伝えるよ。“約束を守れなくてごめん。約束のものは木の下に埋めてある”」


 お姉さんは、目を見開き、私をじっと見つめた。


 私はにっこりと微笑んで見せた。


「男の子からの伝言だよ」


「え? それはなんの冗談?」


 信じなくてもいい。


 私は伝えてと言われたものを伝えただけだ。


 男の子が、お姉さんのことを後ろからぎゅっと抱きしめている。


「あーあ。生きて傍に、いたかったな」


 お姉さんには見えないけれど、彼はずっとお姉さんを見守っていたのだと思う。


 こちらを見て、笑うと男の子は言った。


「ありがと。心残り晴れたわ。じゃあ行く」


 次の瞬間、男の子は名残惜しそうにお姉さんの頬にキスをして、キラキラとした光に包まれていった。


 お姉さんの瞳から涙が零れ落ち、そして頬にお姉さんが手を伸ばす。


「え? ……え?」


 ここからはお姉さんの判断に任せる。


「お姉たん。またね。 ごちそうさまでした」


「あ……ありがとう、ございました」


 お姉さんは小さくそう呟いた。


 私は手を振ってお姉さんにバイバイしてリヤンの元へと戻る。


「大丈夫そうか?」


「うーん。多分」


 お姉さんは少し動揺したようだったけれどエプロンを外すと店主さんに一声をかけてからお店を出て走っていった。


「伝えられて良かった」


 リヤンは私をまた抱き上げた。


「お人好しっているんだな」


 お人好し。前世でもよくいわれた言葉だ。


 でも、それで救える人がいるなら私はお人好しでいいと思うのだ。


「さぁ、帰るか。次は風呂だ」


「ふぇ?」


「お前。臭い」


「ふぇぇぇぇ!?」


 はっきりと告げられて衝撃を受けた。


 私は臭いのか。


 信じたくない。


 けれど 思い返してみれば 私の入浴は 1週間に1度程度の ものだった。


 臭いかもしれない。 


「徹底的に洗ってやる」


 その言葉に私は体をくねらせて見せた。


「いやん。えっちぃ」


 ドン引きしたようにリヤンが頬を引きつらせる。


「三歳児が変なこと言ってんじゃねぇ。喰っちまうぞ」


 怖い。


 怖いけれどだんだんと、リヤンはオカン属性があるのではないかと、私はひそかに思ったのだった。

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