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底辺からの異世界転生、その幼女無自覚に世界の理を覆す  作者: かのん


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5話

 背筋は凍るように寒いのに、体がそれによって楽になっているように感じる。


 だが、このままでは全部の霊力を喰いつくされてしまうぞと、体の中の警笛が鳴る。


 私は気合を入れると歯を食いしばり、震える手で印を結ぶ。


 リヤンは悪霊ではない。


 だが、今まで対峙してきたどんなものよりも、強大な力を感じた。


 今のこの小さな体ではリヤンを祓うことは不可能だ。


 そんな相手に出会うのは初めてだったが、めきめきと自分の中で対抗心が湧いてくる。


「あたちを、舐めないで……祓えなくても……方法は、ありゅ」


 私はガリっと自らの親指を噛むとその血を混ぜて印を結び、リヤンの口にその親指を突っ込んだ。


「むがっ……」

「我、霊力を引き換えに、そなたを眷属としゅ!」


 リヤンの目が見開かれた。


 眩しい程にその場が輝き、リヤンの額に赤い文様が浮かび上がり、私と繋がる。


 私の額にも同様の文様が現れ、そして、スッと体になじむように引いていく。

リヤンが、呆然とした顔で私を見つめている。


 私はその顔を見てニッと笑い、そして投げキッスをしながら言った。


「きゃ……間接きっちゅ! ふへへ」

「てめぇ! ふざけんじゃねぇぞ! って……いてててててて! なんだ!? 頭が、締め付けられる!?」


 締め付けた瞬間、赤い文様が再び浮き出る。


「眷属になっちゃったから、あたちに危害はくわえられまてーん」

「……くそ。なんなんだお前。お前みたいな人間会ったことがねぇぞ」


 眉間にしわを寄せるリヤンに私は答えた。


「ふふふん。人のことを食べようとするからよ」

「そのおかげで、お前、死ぬところまのがれたんだろうが」

「えへへ。それはそう。だから、それは感謝ちてる。ありがとう」


 素直に頭を下げると、リヤンが諦めたようにため息をついた。


「……眷属って、なんだよ」


 眷属にしたのは、応急処置だ。はっきりと言えば、先ほどの簡易の術式で、完全に彼を眷属に出来たとは思えない。


 彼が本気を出して暴れれば……解ける可能性は多いにある。


 だからこそ、眷属である、メリットを提示することは、リヤンとの関係を良好にするためには必要だと私は思った。


 そっと、私はリヤンの頬に手を伸ばし、自分の小さな手でパチパチと叩いた。


「え」


 その瞬間、リヤンは目を見開いた。


「なんだ……これ。なんで、お前に触れるんだよ」

「眷属らから。私の許可と悪意や敵意を向けなければ、普通の人と同じように物や人にふれることができりゅよ」


 これが眷属になる最大のメリットだろう。


「は?」

「ふわぁ……」


 私は全身の力を抜きその場でごろごろと転がった。


「らめら。もう……力が出ない」

「あ、おい! トト!」

「ちがう! ……うぅぅ。もう、らめら。おやちゅみ……ふへへぇ」

「うぉい! こら! 眠るんじゃねぇよ! おい! ……だめだ。眠ってやがる」


 リヤンが大きな声で叫んでいるけれど、全身の霊力もなければ三歳児の体力も限界である。


 疲れてしまった。


 今は、孤独も寂しさもクソ親のことも、全部忘れてただ眠ろう。


 私の意識は夢の中へと落ちて言ったのであった。


◆◇◆◇


「……なんれ……あたちは……普通になれないの」

「知らねぇよ」


 眠りに落ちたココレットを、リヤンはじっと見つめながら、そのぷにぷにとしたほっぺたを指で突いた。


―――――ぷにんっぷにん。よい弾力だ。


 それは柔らかく、温かだった。


 人の体温を感じるのは、いつぶりだろうか。


「……どういう仕組みなのか。理を超えてやがる……」


 こんなことになるとは思ってもみなかった。


 自らの手をぐーぱーと何度か開き、今度はココレットの髪に触れた。


 柔らかなそれを指で梳きつつ、リヤンは唇を噛む。


「……はぁ。しょうがねぇな」


 床に寝転がるココレットを抱き上げると、リヤンは彼女をベッドへと運ぶ。


「眷属ねぇ……はぁ。眷属ってなんだよ」


 ぶつぶつとそう呟くものの、まぁいいかとリヤンは肩をすくめた。


 ベッドに寝かせたココレットの涙を指ですくい、リヤンはその眠る姿を眺めた。


「……呪い子が……どんな存在か、こいつはたどり着くだろうか」


 自分自身がどのような宿命の上に立っているのか、想像すらしていないだろう。


 そんなココレットに、リヤンは楽しそうな笑みを向けた。


「まぁ……暇つぶしだな。面白くなくなったら……喰えばいい」


 リヤンの考えなど知らないココレットは大きくいびきをかき始めた。


「ぐぉぉぉ……ふぇ……クソやろぉ……」


 口が悪い。


 リヤンは本当に令嬢なのだろうかと、耳を疑ったのだった。



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