42話
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今回の一件、ココレットが眠っている間に状況整理がなされた。
その上で、あの御神体はなぜああなったのか。
竜の卵だと何故ココレットは気づいたのか。
ココレットが行った儀式は何だったのか。
突然魔物が現れたのは、どうしてだったのか。
竜はなぜ、怒りを鎮めたのか。
それら全ての鍵をココレットが握っていた。
繋ぎ合わせるにはココレットが知る情報が必要だった。
ロード神父は、ココレットの能力について口を開かなかった。
王家の皆もまた、ココレット本人から聞いた方がいいだろうとそう思っていたからこそ、無理にその口を割らなかった。
王国のことを考えるならば、今回の一件、しっかりとココレットに聞き取りをしなければならない。
けれど皆が、ココレットが話したくないと言うことを無理やりには聞きたくはない。
そういう思いもあった。
国王も王妃も、ココレットが傷だらけで治療されている様子を、昨晩医師の診断を聞きながら見ていた。
三歳の小さな体には無数の傷跡があった。
それらは鋭利な何かで切られたような跡。だが現場にはそのような傷を付けられる人間はいなかったはず。
何故傷がついたのかも、エトワールは分からないと言っていた。
きっと痛かったはずだ。
それなのに、部屋に入って来たココレットはいつものように明るく笑い、可愛らしい姿のまま。
だが……。
詳しく教えてくれと頼んだ後の、ココレットの表情に、皆が息を呑んだ。
いつもは、好奇心に溢れキラキラとしていた瞳。
それが……仄暗い暗闇に染まったかのように色を失っていた。
どこを見つめているのかも、わからない。
背筋をぞっとするような何かが走り抜けていく。
システィリーナは、即座に立ちあがると、ココレットの元へと向かい、その小さな体を抱き上げた。
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「ココレット様」
「ふぇ?」
ぎゅっとシスティリーナはココレットを抱き締めて、そして言った。
「ごめんなさい。もう、もう聞かないから、そんな顔をしないで」
「……え? あ、あたち」
「いいのよ。言いたくないなら。貴方はまだ三歳ですもの。いいの。いいの。大丈夫よ。私がなんとかしてさしあげますから」
「……で、でも……」
ぎゅっとシスティリーナ様が私を抱き締めてくれる。
私は、私はいいのだろうかと混乱する。
嘘をつこうと思った。
けれど、嘘をつきたいわけではない。
ただ本当のことを言ったら、嫌われる。
そう思って……。
「ふぇ……ふぇぇぇ」
「大丈夫よ。貴方はまだ子ども。たくさん甘えて。大人がどうにかするんだから大丈夫!」
その言葉で、私の涙腺は完全に崩壊してしまった。
「ふわぁぁぁぁぁぁっん。ご、ごめんなちゃい。あたち、あたち……言えない。本当のこと言ったら、きらわれりゅ、嫌われ……嫌われたく、にゃくて……ふわぁぁぁっぁあ」
システィリーナ様が私の背中を優しく撫でてくれる。
大丈夫、大丈夫と、言われているようで、私は、大きな声で泣いてしまった。
「……ごめん、なちゃい……ごめんなちゃい……」
ぐずぐずと私が泣いていると、国王陛下が言った。
「……すまなかったな。そんなに、思わせてしまったのか」
国王陛下が私の所まで来ると、大きなごつごつとした手で、私の頭を優しく撫でた。
「国王として、私は国を守る役目がある。故に、聞いたのだ。だが……言えないならば、大丈夫。今回の一件、私がしっかりと後始末はする故、安心しなさい」
「国王……陛下……」
「ただ、安全上確認しておきたいが、竜や魔物はもう現れないだろうか」
「……あい。もう空へ飛んでいきまちた。魔物はもう卵がなくなったので、あらわれまちぇん」
「ありがとう。教えてくれて」
国王陛下は微笑むと、王妃殿下から私のだっこを変わると、私を膝の上に乗せて、椅子に座った。
「では、ココレット嬢の件は置いて置き、状況の確認等を行っていく。ルディウス。説明を」
「はい。民間では建物が壊れる被害はありましたが、負傷は軽症者のみで、重傷者は出ておりません。騎士達においても、魔物による負傷者は多数あれど死者は出ておりません。負傷者もすでに治療は終わっております」
「うむ。エトワール。教会はどうだ」
「教会側には負傷者は出ておりません。ただ、ベーレン司教様は現在高熱を出し寝込んでしまっているとのことです」
「ふむ。分かった。今回の一件は、竜の突然の来襲であったが騎士団が無事に竜を追い払ったとして民には伝える。ココレット嬢については緘口令を敷く。いいな」
「「「「はい」」」」
国王陛下がロード神父様へと視線を移すと言った。
「ロード神父。そなたは今後、どうする」
その問いかけに、ロード神父様は恭しくに頭を下げると言った。
「私は一度教会に帰り教会の内部を探って参ります」
「ほう」
国王陛下は鋭い視線のまま、ロード神父様を見つめる。
私は驚きロード神父様を見つめると、きらきらとした瞳が帰ってくる。
眩しい。
「私はココレット様の為に今後動く所存です」
意味が分からずに私は口を開く。
「ロード神父様は先生が夢でしょう? なら、教会に変える必要は、ないでちょう?」
ロード神父様が首を横に振って言った。
「今の私の夢は、ココレット様の手足となることです」
重い。
なんだか、重いぞ。
手足ってなんだ。私は教会に手足なんて不必要なのだけれど……。
けれど国王陛下的んいは満足な答えだったようで、豪快に笑い声を立てた。
「はっはっは。そうか。ココレット嬢。教会に対してどうするか悩んでいたので心強いな。ロード神父よ。たのむぞ」
「はい。かしこまりました」
あれれー。なんだかおかしな方向に進み始めたぞ。
私はちらりと国王陛下を見ると、ウィンクされた。さすがはエトワール殿下のお父様。その威厳ある風格と共に、ご尊顔は年を取ってなお美しい。
それ以降は難しい話になってしまってよく分からなかった。
ただ、私は、嘘をつくことも、本当のことを言って嫌われることもなくて、ほっとした。
よかった……嫌われなくて。
まだ……笑顔を向けてくれる。
まだ……拒絶しないでいてくれる。
まだ……それは、いつまでなのだろう。
いつまで……私は、優しい人達の傍にいれるのだろう。
嫌われたくない。私はそう、うつむき思っていると、視線を感じて顔をあげた。
皆が優しい表情でこちらを見てくれている。
「大丈夫だ」
大きな国王陛下の手が私の頭を何度も撫でる。
「あい」
優しくて大きくてあったかくて。
”大丈夫”って魔法の言葉みたいだな。そう私は思った。




