41話
「だいふっかぁぁぁぁぁちゅ!」
元気いっぱいに叫んだ私の横で、リヤンがため息をついた。
「うるさい」
「ひどい! あたち、昨日ちぬかと思ったのに!」
「はいはい。腹減ってるだろ。食べ物頼んでくる」
「あい!」
目が覚めたら、リヤンが傍にいてくれた。
手を、ずっと繋いでいてくれたのだと思う。
リヤンはなんだかんだ優しい。
私はそれが心から嬉しくて、リヤンを真っすぐに見つめて言った。
「リヤン。ありあとう」
「昨日聞いた」
ぶっきらぼうにリヤンはそう言うと部屋を出ていった。
窓から太陽の光が差し込んでいく。
埃が舞っていない。キラキラ埃が舞う我が家とは大違いである。
そう思っていると、リヤンがスープとパンとオムレツとおいしそうなプリンを持って部屋へと帰って来た。
「わぁ! ごちそうら! おむれちゅだいしゅき……あれ、昨日おむれちゅに追いかけられてそれで実はそれがおむれちゅの皮を被ったピーマンマンだった夢を見たような……」
「想像力豊か過ぎるだろ……ゆっくり食べろよ?」
「あい!」
私はリヤンに見守られながら美味しく朝食を食べた。
ただ、問題はそこから。
朝食を食べ終えた後から、大忙しだった。
医者の診断を受け、入浴を済ませて、可愛らしいフリフリのドレスに着替える。
沢山考える時間はあった。
あったはずなのに、鏡の前に立った私は大きく大きくため息をつく。
「どうちよう。なんて言い訳ちよう」
顔も足も手も、私は現在傷だらけだ。
物理的な攻撃をしかけてくる魔物達からは護っても、悪霊達の悪あがきによってたくさん怪我をしてしまった。
まぁ、このくらいならば、まだいい方だ。
最後に、その場にいた悪霊達は全員滅してあげたから、今頃光の向こうである。
「リヤン。言い訳考えて」
「ふっ。口笛でも吹いておけ」
「それで乗り切れると!? りやぁぁぁぁん」
「ほら、行くぞ」
そう言うと、ひょいと当たり前のように私のことをリヤンが抱き上げた。
「ふぇ? だっこ?」
「……あんまり体力戻ってないんだろ」
「わぁ。リヤン。さすが。わかるの?」
「はいはい。いいから大人しくだっこされとけ」
私はリヤンの肩に頭をもたげてぎゅっと服を握った。
リヤンは、私が甘えても嫌がらない。
眷属だからといったらそうなのだけれど、元々優しい人だからだと思う。
長い長い廊下を歩み、そしてリヤンは大きな扉の前で足を止める。
扉の前には騎士が立っており、私はその仰々しい様子に、少しばかり緊張する。
「公爵令嬢ココレット様をお連れいたしました」
リヤンの言葉に、騎士が扉を開いた。
「お待ちしておりました。どうぞお入りください」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございましゅ」
なんだか、緊張してきた。
私はぎゅっとリヤンの服を掴む。するとリヤンが小さな声で言った。
「頑張れよ。トト」
「あい」
部屋の中には円卓があり、国王陛下、王妃殿下、ルディウス殿下、エトワール殿下、ロード神父様の姿があった。
皆からの視線に、私はゴクリと、つばを飲み込んだのだった。
「皆様、お待たせしてしまいしゅみません」
皆の視線が私に集まっている。
緊張していたのだけれど、誰からも声をかけられないことに、周囲を見回すと、皆が私をただじっとみつめていた。
「あ、あの、どこかおかしいれしゅか?」
国王陛下が、静かに口を開いた。
「いや、おかしくはない。ただ、体は大丈夫か?」
「ただの擦り傷でしゅから、大丈夫ですj」
「体調は? 昨日は熱が出たでしょう?」
王妃殿下の言葉に、私は笑顔で答えた。
「もう元気れしゅ。寝る子は育ちましゅから。赤ちゃんは?」
「実家の乳母に預けて来てあるわ」
ということは、わざわざ私の為に大切な我が子を預けて来てくれたのか。
ちょっと申し訳ないなと思いつつも、会えて嬉しい。
「わざわざすみましぇん。でも、お会いできてうれちいです」
よしっ。今の“す”は決まったな。私、成長してるぜ。
ほっとしたように皆が息をつき、私は促されて席へと座った。
リヤンは私の後ろに控えている。
さて、どうしようか。未だにそんなことを悩んでいる私に、国王陛下が、コホンと席をしてから、口を開いた。
「ココレット嬢。どうにも不可解な点が多くてな。詳しく、教えてもらえないだろうか」
その問いかけに、私の頭の中では、様々な文字が錯綜する。
私は呪い子で。
幽霊悪霊魑魅魍魎が見えて。
それが原因で処分されそうになって。
御神体は鬼門に位置したところに設置してある悪霊呼び込む瘴気を放つ、ファンタジーな竜の卵で。
それをミーナが祝福してしまったものだから魔物も溢れて。
それに怒った母竜も現れて。
どうにか卵を綺麗なつるつる卵に祓うことが出来て、竜の親子も合流して帰って行った。
って……言えるかぁぁあ!
情報量が多すぎて何から話せばいいかもわからないし、それによって、私が呪い子だって気づかれたら……気づかれたら。
私は王家の方々を見た。
この人達に……私は嫌われたくないのだ。
嘘を……つこう。
いいんだ。嘘つきでも。だって嘘つきだけだったらそこまで嫌われない。
幽霊なんてものが見えるなんて知られたら……きっと。
この優しい人達も、私を、嫌ってしまうから。




