37話
慌てふためく私のおでこに、リヤンが鋭いデコピンをしてきた。
「いっちぇぇぇぇぇぇ」
「しっかりしろ。トト。お前が指示出さなきゃわかんねぇぞ」
たしかにその通りなのだけれど、デコピンしなくてもよくないか?
私は涙目でうなずくと、ロード神父様に言った。
「ちょっとでもいいので! また集められましゅか!?」
「もちろんです」
「私も協力します。ロード神父様」
エトワール殿下がロード神父様の手伝いに名乗りを上げてくれた。
「ココレット嬢。後はロード神父に尋ねながら行ってきますね」
「ありがとうございましゅ!」
一分一秒も惜しい。
二人はうなずくと、建物の方向へと走っていく。
「リヤン! 炎を炊くから手伝って!」
「わかった」
「ルディウス殿下! しゅみませんが、魔物をお願いしましゅ!」
「もちろんだ!」
ロード神父様が集めてくださっていた準備物の中から、私達は炎を炊く場に必要な木々を取り出す。
供物類は使えないが、木々は使えそうなものがある。
それで炎を炊く場を組み立ていけばいい。。
私は四つの杭に、印を結び、結界の役割の印を付けていく。
「リヤン! これを、地面に打ち込めりゅ?」
「あぁ」
リヤンは支柱を地面に挿してもらい、支柱に中に縄をかけていく。
その中央に、炎を炊く場を作っていった。
だが、どうやって炎を付けようか。
そう思っていると、リヤンの瞳が赤く輝き、息を木に向けて吹いたその瞬間。
炎が燃え上った。
「リヤン……今の……」
ニッと笑うリヤンの姿は、ぞっとするほど美しい。
彼は一体何者なのだろう。いつか、それを知る時は来るのだろうか。
「呆けているなよ」
リヤンがこちらに向かってきた魔物を蹴り倒した。
私はハッとすると、自分の両頬を叩いた。
「あい! ここからあたちは集中しましゅ。リヤン、背中、頼みましゅ」
「りょーかい」
「多少、あたちに対して悪霊からの攻撃があると思いましゅが、それらは命にかかわることじゃないのれ気にしないで結構でしゅ」
「わかった」
炎がが囂々と燃え盛る。
私はそれをじっと見つめながら、前世以来の大仕事だなと思い、気を引き締める。
精神を研ぎ澄まし、心を研ぎ澄まし、言霊を紡ぐ。
手では印をむすびつづけ、ここからは、私の霊力が尽きるのが先か、祓うのが先か、その勝負となってくる。
ココレットが印を結び続け、何か呪文のようなものを呟きながら炎に向かい始めた。
ルディウスはそれを見て、次々に現れる謎の魔物を退けながらリヤンに尋ねた。
「ココレット嬢は、あれは何をしているのだ」
「祓おうとしているようです」
「祓う? それは一体、なんだ」
「なんなのでしょうね。私にもよくは分からないのです。摩訶不思議なことばかり、ココレット様は起こします」
次々に魔物をいともたやすく退けるリヤンに、ルディウスは鋭い視線を向ける。
「では、そなたは? 何者だ」
「私は、ココレット様の眷属です」
「け? なんだ。それは……わからない言葉ばかり出てくるな」
「私もよくはわかりません。が……」
魔物を蹴り飛ばしたリヤンは、赤い瞳を真っすぐにルディウスに向けて微笑んだ。
「とても、楽しいです。おっと、弟君が帰ってきましたよ」
リヤンの言葉にルディウスが視線を向けると、荷物をたくさん抱えたロード神父とエトワールが帰って来た。
二人は、持ってきた物をココレットの前に置いていく。
「これはどうしたらいいのです!?」
エトワールがそう尋ねるが、ココレットは集中して答えない。
その様はただの三歳児の雰囲気ではなく、異質さが際立っていた。
何をしているのかも、分からない状況。
それなのに、なぜか皆がココレットを信じて動いている。
「そこに並べておけば問題ないかと」
リヤンの言葉に、エトワールとロード神父はうなずき、並べていく。
ココレットは何かを呟き印を結びながら、置かれた供物を炎の中に投げ入れる。
その瞬間、炎の中で何かが動いたような気がした。
「なんだ……?」
炎がさらに高く高く上がり、ココレットの額には汗がにじんでいく。
エトワールはそれを見つめた時、御神体から突風が吹き、ココレットの体に、傷が次々に出来ていく。
「ココレット嬢!?」
何が起こっているのか、エトワールには分からなかった。
ただ、次の瞬間、全身を突然何かが覆っていくかのような、重さを感じ、体が思うように動かなくなっていく。
謎の疲労。謎の重さ。謎のだるさ。
「くそっ……なんで、今……」
その時だった。
「お父様! 放して!」
「逃げるのだ! こら! ミーナ!」
ミーナは走り出し、ココレットの方へと向かってきた。
公爵が止めに入ろうとするが、魔物に追い回され、彼は一人で逃げ出した。
ミーナはココレットの目の前まで来ると、声を荒げた。
「あんた何やってんのよ! 黙りなさいよ!」
「ミーナ嬢。静かに、落ち着いてください!」
体が上手く動かない中、エトワールがそう言うが、ミーナの声は収まらない。
「嫌ですわ! この子! 本当にバカげている! 炎に向かって何言ってんのよ! バカじゃないの! 御神体を清めるのは私なの! 私が御神体に祝福をするんだから! 前の祝福だって上手くいっていた! 私の祝福は素晴らしいのよ!」
そう叫んだ瞬間、母竜の瞳がぎろりと動いた。
『今……なんと。あの子を、あの状態のあの子を、祝福したと言うのか』
ゴゴゴゴゴゴと、どこからから、音が聞こえ始め、竜の瞳が見開かれる。
『苦しむ我が子を祝福したと? なんという非道……生かしてはおけぬ!』
竜が地面を踏み鳴らし、魔物と対峙していた皆が、竜と魔物とを交互に見る。
その場で助けに入れる手の空いた者など、誰一人いなかった。




