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底辺からの異世界転生、その幼女無自覚に世界の理を覆す  作者: かのん


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3話

 部屋の中に片づけの為に使用人達が入ってくる。

 私の目の前に一人の侍女が来ると言った。


「お嬢様、部屋へ戻りますよ」

「あ……はい」


 私の前を歩きだす侍女についていく。

 歩きながら屋敷の中を私はまじまじと見つめた。


 ヨーロピアンな世界だなと思いつつも、ここが私が以前住んでいた場所とは違う世界なのだということが分かる。


 何故ならば、壁には竜や魔獣などの絵が飾られており、この世界には魔道具なるものが溢れているからだ。


 廊下の灯などは私達が進むと自動的につく魔道具であり、絵画の絵も時間が経過すると別のものへと変わる。


 扉も自動的に開く。

 もはや電気じゃないのか? 電気だろ。配線どこかに隠しているんだろ。

 まぁ……あれだ。現代社会に似ているなという感想であり、さほど驚きはなかった。


 ただ魔道具というものが何を動力にして動いているのか、そこだけはよく分からない。


 電気に変わる何かがあるのだろうか。


「……さっさと歩いてください」

「さんちゃいじ、なので、むーーーーり」


 そう呟くと、侍女が奇妙な生き物を見るかのような視線でこちらを見た。

 今までの私は侍女に言われるがまま、いい子だった。

 けれど、いい子でいてもこの人達は私に優しくなんてしてくれない。

 なので、三歳児らしくわがままになることにした。


 わがままなのは、三歳児の普通だと思う。


 侍女は私の様子に仕方ないとばかりに歩く速さを落としてくれた。


 やれば出来るなら最初からしてくれ。


 連れていかれたのは、私の住まい。


 良く言えば歴史のある、悪く言えばただデカいだけのおんぼろ屋敷が私の家だ。


 一階には、調理場と図書室と音楽室。二階には寝室が一つと空き部屋が二部屋。


 大きさ的には立派な建物だけれど、今はそのほとんどが埃と蜘蛛の巣に覆われている。


「お嬢様、では、また食事は届けに参りますから、失礼いたします」


 そう言うと、侍女はこの屋敷にいるのが嫌だというように、足早に帰って行ってしまった。


 侍女が出ると同時に扉の鍵が魔道具でガチャンガチャンと大きな音を立てて閉まる。


 この扉が次開くのは一体いつのことになるやら。


 ちなみに食事は横に備え付けられた小さな小窓から差し入れられる。運が良くて日に二回。悪い日はゼロ。


 身の回りの世話をしてくれる人間は、いない。


 私は息をつき、屋敷の中を歩き始めた。

 床は軋み、天井には蜘蛛の巣が張っていた。

 空気は埃っぽくて、咳が一度出ると止まらなくなる。


 昔はもう少しまともに面倒を見てもらっていた。けれど、ミーナが歩き始め喋り始めたあたりから、差が生まれ始めた。


 二歳ではっきりと差別が始まり、私は発語が一切なかったため、この屋敷に入れられた。


 最初の頃は排せつや掃除の面倒も見てもらっていたが、トイレが出来るようになり、食べることが一人である程度出来るようになってからは、そうしたことすら、放置されるようになった。


 出来が悪い。これが恐らく放置の原因。

 そして主に愛されない私の面倒を見たがる使用人はいなかった。


 部屋に置かれた姿見の前へと行くと、私は鏡に映る自分を見つめた。


 私は自分をじっと見つめながら、色々な表情を浮かべてみる。


「かあいい……」


 鏡に映る自分は、どこからどうみても美少女である。


 確かに、未だに舌足らずでうまくしゃべることが出来ない面もある。

 けれど、だからと言ってこれほどのまでの仕打ちをされるほどなのだろうか。


「……普通て、本当にむじゅかちぃ」


 この世界の“普通”が私にはまだ分からない。


 けれどまぁ、私の中の普通とはかけ離れているようだ。


「……あたち、ずーと、ここに一人なのかちら」


 大時計の鐘の音が、ゴーンゴーンと大きな音を立て、外でカラスの鳴き声が聞こえた。


 薄暗い部屋は、一人でいるにはおどろおどろしい。


「幽霊がでちょう」


 別に幽霊が怖いとかそういうわけではない。


 はっきりと言ってしまえば、人間の方が怖いくらいである。


 ただ、前世同様、今世も一人で生きていくというのは、あまりにも心が重たい。

 鼻水が出てきて、私はそれをすする。

 埃っぽすぎるのである。

 ティッシュがほしい。ハンカチでも可。


「……汚ねぇなぁ」


 突然の聞こえてきた声に、私はビクリと肩を震わせる。


 振り返ると黒髪に赤い瞳の青年が立っており、私を見下ろしていた。


 この世界に生まれ変わってから、見る人の中で最も美しいその青年に、私は目を見開く。


「だぁれ?」


 この屋敷には誰もいないはずなのに、どこから入ってきたのだろう。


 その時になって私はハッと気づいた。


 違う。この人は、人間ではない。幽霊である。


「……なんだ。昨日までと様子が違うな」


 青年と視線が重なり合い、私はじっと見返す。


「ふーん……」


 昨日まで? 私は記憶を総動員して思い出そうとするけれど、この幽霊を見るのは初めてのはずだ。


 ということは、こっそり、見られていた?


「……なんで、突然、はなちかけてきたの?」

「……能力鑑定がお前の中の何かを目覚めさせたのか……」


 私の言葉を無視して青年はそう呟く。


「あなたは、だぁれ」

「名前はリヤンだ」

「リヤン……」

「なぁ、お前」


 リヤンがしゃがむと私と視線を合わせて、ぞっとするような微笑みを浮かべて言った。


「俺がお前を喰ってやろうか? そしたら、寂しくも辛くもなくなるぞ」


 三歳児になんて恐ろしい提案してくるんだこの幽霊は。


 今まで散々様々な幽霊や悪霊や魑魅魍魎と出会ってきたが、彼ほど得体のしれない雰囲気の幽霊にであったことはなかった。


 背中を嫌な汗が伝っていく。


 緊張しているのだ。


「いじわるなこと、言わないで」

「いじわる? ははは。いや、優しさだよ」


 赤い瞳が私を捕らえ、半透明の彼の指が私の頬を撫でる。

 触れられた感触はないものの、ぞわりとした冷たい気配。


「優しさじゃ、ないと思う」


 はっきりとそう告げると、リヤンは面白いと言うように笑みを浮かべた。


「ふーん。あっそう。別に俺はいいぜ。孤独で毎日泣いて過ごすのを眺めるのも楽しそうだ」


 また嫌なことを言う。


 ただ私はずっとこの屋敷に閉じ込められているつもりはないので、孤独で泣いて過ごすなんてことはない。


「あたちのこと、なめないほうがいいわよ」

「ん?」

「あたち、幽霊も悪霊もこわくないんらから!」

「ふーん」


 リヤンはそう呟いた後、近くに置いてあったソファの上へと座り直す。


「じゃあ、お手並み拝見。お客様だ」


 その瞬間、私の吐く息が白くなり始め、私は身構えた。


 人ならざる者が現れる時、こちらに向ける悪意があるほどに、空気は冷たくなっていく。


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