26話
「しゅごい数。り、リヤン? りやーん! いるぅ!?」
そう声をかけると、リヤンが私が起きたことに気が付き、姿を現した。
「起きたのか。今、真夜中だぞ」
「ふぇ? あたち、もしかして馬車で寝ちゃった?」
「あぁ。国王陛下が膝枕してくれていたぞ」
「ふえぇぇぇぇ!? ふ、不敬罪で処刑しゃれりゅ!?」
「いやいや……それくらいで処刑されるわけないだろ」
「じゃあ、ここは?」
「客間だ。国王陛下がここでひと晩ゆっくりするようにって。エトワール殿下も、おやすみって言っていたぞ。お前はぐぅぐぅ大いびきかいてた」
「ふえぇぇぇ。はずかちい。ハッ! この寝巻は!?」
すごく着心地のいい寝巻を着ているではないか。
「侍女が着替えさせた」
「ふぇぇぇ。手間かけさせてしまっらぁぁぁ」
「今更感あるな」
部屋に置かれていた時計へと視線を向けると、時刻は深夜の2時。最高の丑三つ時だ。
この時間に起きれたのはとてもタイミングがいい。
私は、馬車で眠ってしまったことはむしろ良かったと自分に言い聞かせると、リヤンに尋ねた。
「リヤン。壁の中にさぁ、通路とかなぁい? こういうお城ってあるんでしょ?」
「あー……まぁ、城の中は案外ある。ちょっと待ってろ」
リヤンは壁の中を見に行き、しばらくすると帰って来た。
「あったぞ。仕掛け扉みつけた」
「おおお。しゃすがはお城。あるよねぇ。どこが入り口?」
「中の仕掛けを見る限り、繋がっているのはあそこの飾りだな。あれを引いてみろ。中の仕掛けが動いて、多分扉が開く仕組みだと思う」
リヤンがいてよかったぁ。
とても有能な相棒である。
「しゃすがリヤン。てんちゃい!」
「おだてるな。それで、どうするんだ?」
「お城の中、おしゃんぽしよー」
「お前、この悪霊の中、よくそんな風に明るくなれるよな。俺ですら気味悪いぜ?」
私は笑顔で親指を立ててグッとポーズをすると言った。
「大丈夫。てんちゃいの私が守ってあげりゅから!」
「……そうですか。りょーかいでーす」
「あ! 何しょの、当てにしてませーんみたいなの! ひどい!」
「はいはい。行くぞ」
話を流され、私はほっぺたをむくれさせる。
この男、オカンの技の一つ、秘儀“聞き流す”を習得したな!
そう思いつつも、促されるままに私はリヤンの言った飾りを手前に引き、隠し扉を見つけるとその中へと足を踏み入れたのであった。
隠し通路の中は、風が吹き抜けていた。おそらく通気口があるのだろう。
「お前、見えるのか? この真っ暗で?」
リヤンにそう言われ、私はそう言えば言っていなかったなと思い説明をする。
「あたち、昔から夜目が利くの。暗くても、結構見えるんだよね。しょれに悪霊が点在しているから、なんか、灯みたい」
「……悪霊を灯がわりにすんな」
「あはは」
笑ってごまかしつつ、私は隠し通路を見ていくと、至る所に、古いお札のようなものが張られていることに気が付く。
ヴィクトリア王国の文字であり、言葉の意味合い的には守護や祝福。
ただし、それらは大抵、半分に破れている。
最初は力を込められていたのだろうが、悪霊達に割かれてしまったのだろう。
つまり……異変をどうにかしようとした者がいたということだ。
そしてここまで見て来た悪霊達は、時代が恐らく違う。そして生きて来た場所も違いそうだと気が付いた。
貴族のように煌びやかな者もいれば、平民のような者もいる。
つまり、ここで死んだ者だけがここにいるわけではないということだ。
「……ちゅまり……ここに悪霊が集められているってことよね。そんなの普通じゃない」
そう呟いた時だった。
私は通路奥の方で灯が揺れるのが見えて、驚いた。
誰かが、歩いてくる。
「うぇぇぇ。どうちよう。り、リヤン! 生きてる人間だ! ダッシュで戻ろう!」
ここで誰かに捕まっては、怪しまれてしまうに違いない。
私は急いできた道を戻ったのだけれど、灯の主が私の足音に気が付いて走って来た。
「待て! 何者だ!」
「おおおおおおおお」
私は雄たけびを上げながら全力で走るけれど、足が短い。
そう、私は三歳児。足は短く、それでいて未だに頭が重い。
必死で動かしていると、人には姿が見えない状態になったリヤンが笑い声をあげている。
「あはははっ。足、足! ひーひひひ。足短ッ!」
笑うな! こちとらこれが全力だぞ!
「うおぉっふ!」
次の瞬間私は躓いて転びそうになったのだけれど、がっしりとした腕が、私の体を支え、そして驚いた顔で灯を向けた。
「……嘘だろ。子ども?」
そこにいたのは、エトワール殿下の兄であるルディウス殿下であった。
驚いた顔で私の顔を見つめており、私はどうしたらいいかと戸惑いつつ、呟いた。
「み……道に迷って、ちまって……」
「……道……」
ルディウス殿下の表情が困惑へと変わり、首をひねる。
「……生きているよな? 幽霊じゃ……ないよな?」
「あい……いきてましゅ。ゴードン公爵が娘、トトレットれしゅ」
正直に名前を告げると、ルディウス殿下が、あぁと言うようにうなずくと、私を抱き上げた。
「……今日、城に泊まっていると父上が言っていたな。……どうやってここに忍び込んだんだ」
「えっと、間違えて……」
「間違えて王家の秘密通路に……?」
疑うような視線を向けられ、私はどうしようかと思っているとルディウス殿下が言った。
「こんな真っ暗闇でよく泣かなかったもんだ。俺が走ってきて怖かっただろ」
「あい」
「素直だな。ほら、部屋に連れて行ってやるからいくぞ」
「……あい」
優しい。
このまま何事もなかったかのように部屋に戻って、おしまいかとそう思った。
だが、部屋に送り届けられた私に、ルディウス殿下が言った。
「また明日。詳しく教えてくれよな」
「……あい」
なんと言い訳をするか、ちゃんと考えた方がよさそうだ。
そう思いつつ、私は猫のプリシラちゃんを通してみたルディウス殿下の様子とは大きく異なっていたことに少しだけ驚いた。
もっと厳しい人だと思っていたのだ。
「……怖い人じゃ、ないのね」
「……それで、言い訳どうすんだよ」
「どうじよぉぉぉぉぉぉ」
私は、ベッドにダイブすると、こんなことならば大人しく眠っていればよかったとそう思った。
だが、ふと思う。
「……ルディウス殿下、なんれ丑三つ時に……隠し通路にいたんだろ……」
私は、首を傾げたのであった。




