24話
私は戸惑っていた。
お城の人達が皆、優しい。
こんなに人から優しくされるのは初めてで、その優しさが少しだけ怖い。
「かわちい……私、今まで史上最高にかわちいわ」
鏡に映った自分は可愛らしいドレスに身を包み、頭には大きなリボンを乗せている。
「お嬢様、とてもお似合いです」
おすまし顔の執事役になり切っているリヤンはそう言った後、小声で言った。
「馬子にも衣装だな」
「たちかに」
足元を見れば赤い靴が、とても可愛い。
ステップを踏んでみると、それだけで、楽しい。
「お嬢様、さぁ、参りましょう」
「あい」
侍女さん達いわく、このドレスなどは国王陛下からのプレゼントの品らしい。
嬉しすぎる。こんな一張羅頂いていいのだろうか。
案内されたのは先程の部屋の隣であり、扉が開いて私は驚いた。
たくさんの花が飾られ、テーブルにはクロスが敷かれ、アーチが取り付けられ、リボンが飾られている。
仰天としていると、エトワール殿下と、メアリー様が私の元へと来て、手を引いた。
「お誕生日だったのでしょう? 父上が、その祝いをしようと会場を用意してくださったのです」
「ふふふ! たくさんお祝いしましょう!」
私は戸惑いながら会場へと足を踏み入れると、システィリーナ様や国王陛下の前に大きなケーキが用意されている。
「「「「お誕生日おめでとう」」」」
「え……」
私は、その光景を見つめ、呆然としてしまった。
皆、生まれた日は特別だと言う。
前世生きていた私の学校では、誕生日が掲示されていた。
先生が言うのだ。今日は○○さんの誕生日です。おめでとうございます。って。
けれど、私の誕生日の日だけは、誰も何の反応もしなかった。
「化け物が生まれた日なんか祝えるかよ」
「先生も、あいつの誕生日は何も言わないもんな」
「嫌われているんだよ」
私は嫌われていたから。だから、誰にも祝われる資格なんてなかった。
今世もまた、祝われることなんて、ないと思っていた。
そう、思っていたのに。
綺麗に飾られたケーキと、おめでとうの言葉に、私は、あぁ、私は誰かに祝ってほしかったのだと、過去の自分と今の自分との、諦めた願いを思い出した。
「……ふぇ……」
涙が、涙が溢れてきて、私は、我慢しなきゃと思うけれど、溢れてきてしまう。
誕生日なんて、私が生まれてきて良かっただなんて……誰も、誰もそんなこと……。
涙が止まらない。せっかく可愛らしいお姫様みたいな恰好をさせてもらえたのに。
顔は今まで史上一番不細工になっていると思う。
「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。ぶへえぇぇぇぇっぇ」
「不細工すぎるだろ」
小声でリヤンがそう呟いたのが聞こえた。
こいつ、酷い男だ。
そう思ったけれど、リヤンが私のことをひょいと抱き上げると、背中をトントンと撫でた。
「申し訳ございません。お嬢様は、感極まってしまったようです」
王族の方々を前に、ちゃんとする余裕がなかったから、リヤンがそう言ってくれて良かった。
「えっぐ、えっぐ……ぶぅぅぅぅ」
涙と鼻水が垂れ流される中、リヤンが私の背中を優しく撫で続ける。
「さっさと出し尽くせ。ほら、ハンカチ」
「ふぁい……うぅぅぅ」
渡されたハンカチで顔をぐしぐしと拭くと、私は溢れ出る目をハンカチで押さえた。
エトワール殿下が、私を見上げて尋ねた。
「何か、気を悪くさせてしまいましたか?」
私は、首を横に振った。
「違うんれしゅ……あたち、あたち……うれちくて。人からお祝いしてもらえるのって、こんなに、心が、温かくなることなんれしゅね」
涙がまだ零れ落ちるけれど、嬉しくて笑顔でそう伝える。
すると、座っていたシスティリーナ様が立ちあがり言った。
「なんていうことなの。あぁぁぁ。もう! ココレット様、大丈夫ですわ。これから、これから毎年、お祝いして差し上げます!」
それに、メアリー様も賛同するようにうなずいた。
「そうよそうよ! 家族が祝ってくれないなら、私達がお祝いしてあげるわ!」
システィリーナ様の肩に優しく国王陛下は手を乗せると言った。
「我が家族は、来年もその先も、ココレット嬢を祝いたくて仕方がないらしい。だがまぁ、まずは今、たくさんお祝いをさせてくれるかな」
その言葉に、私は首を大きく振ってうなずいた。
「ありがとうございましゅ! うれしいれしゅ!」
リヤンが私が落ち着いたのを確認すると下におろしてくれた。
皆さんに向き直ると、私は一礼する。
「ありがとうございましゅ。本当に……心からの感謝をおちゅたえしましゅ」
いい人達だ。
こんないい人達の背中には、悪霊なんて似合わない。
背中に背負った悪霊どもを、丸っとすべて祓ってやると、私はそう決めた。




