21話
エトワール殿下のお茶会から一週間ほどたったある日。
王国にシスティリーナ様のご出産の知らせが轟いた。
生まれたのは姫君であり、王国中がお祭り騒ぎになった。
私は無事に生まれてよかったとそう思った。
今度、もしシスティリーナ様にお会いできる機会があったら、何かプレゼントを渡したいな。
そう思ってはみるものの、人にプレゼントなんて渡した経験はなく、どんなものが喜ばれるのだろうかと、悩み、あっという間にひと月が過ぎ去っていった。
エトワール殿下との一週間に一度の会う約束は、姫君が生まれたことで延期となっている。
ひと月も経てばお祭りムードだった王国も落ち着き始め、私とリヤンにも普通の日常が続いていく。
私は図書室で本を漁り、呪い子について調べようとしたものの、何の手がかりもない。
「ふわぁぁ。わかんにゃい」
「頑張れ頑張れ。勉強も進めるぞー」
「ふええぇ。勉強……勉強……文字……数字……う、頭が痛い」
「逃げれねぇぞ」
「ふえぇぇ……」
「お前が、エトワールとかに会うから、勉強とかマナーとか教えてくれって言ったんだろ。頑張れよ」
「あい……」
そう。私はエトワール殿下と週に一度会うならば、ちゃんとマナーや勉強はしておいたほうがいいなと思い、リヤンに先生を改めて頼んだのである。
気軽な気持ちだった。
ちょっと、最低限教えてくれたらいいなぁくらいの軽い気持ち。
ただ……リヤンはスパルタだった。
もう少し優しい先生が良かったとは、教えてもらっている分際で言えない。
「そういえば、王城の中見学した時、王家の人間はこぞって背中にたくさんしょってたぞ。よく生きてられるものだ」
リヤンがふと思い出したようにそう言い、私は確かにとうなずく。
「重たそうらよねぇ。子どもの頃から肩こり腰痛疲労困憊かわいちょうすぎる」
「ははは。可哀そうだなぁ」
システィリーナ様が無事にご出産出来て良かった。
私は心からそう思っていた時、入り口のチャイムが鳴る音が響いた。
「誰だ?」
「わかんない」
「姿消すからな」
「あい!」
私は、一体誰だろうかと、入口へと向かう。
そして扉の前に立つと尋ねた。
「どちら様でしゅか?」
「エトワールです。突然の訪問すみません」
「ふへぇ? エトワール殿下? どうじょ!」
ひと月ぶりのエトワール殿下である。
突然どうしたのだろうかと思っていると、入って来たエトワール殿下は、私の前でしゃがむと言った。
「お久しぶりです。お元気でしたか?」
「おっふ。王子しゃまスマイル! ま、まぶちい」
「え?」
「な、なんでもありましぇん」
私は姿勢を正してコホンと息をつくと、エトワール殿下が言った。
「今日は、お母様の使い出来ました。一緒に来ていただけませんか?」
「えっと、どこに?」
「お母様が、ご実家の別邸にいらっしゃいます。そちらにです」
ちらりとリヤンを見ると、頑張れーというようなポーズを取っている。
他人事だ。私はリヤンを巻き込むために、声を上げた。
「リヤン。お出かけするから、支度のてちゅだいをして」
執事としてついてこい。
私の視線に、リヤンがげんなりした顔を浮かべた。
「うえぇ。この姿でついていくよ」
そしたら、好き勝手飛んでいくじゃない。
リヤンは私の心の声を理解したのか、大きくため息をつくと、一度姿を消し、執事姿で再登場した。
「かしこまりました。お嬢様」
「うむ! エトワール殿下、少々おまちくらさい」
「えぇ。もちろん」
私はリヤンと共に着替えをし、それから急ぎ髪型など準備を整えるとエトワール殿下の元へと戻った。
「おまたちぇいたしました」
「では。行きましょうか」
エトワール殿下に手を差し出され、私はその手を取る。
外へ出ると、慌てた様子の両親とミーナの姿があった。
エトワール殿下は、少し嫌そうな顔を浮かべた。
「エトワール殿下、よろしければ、お茶などいかがですか? そう焦らずとも」
「エトワール殿下! 貴方のミーナはここですわ!」
二人の言葉に、エトワール殿下は笑顔を顔に張り付けて答えた。
「本日は、ココレット嬢を連れてくるようにとの命を受けてきました。ですので、急ぎ戻りたいと思います。お心遣い感謝いたします。では、ココレット嬢、行きましょうか?」
「ひゃ、ひゃい」
エトワール殿下はミーナのことには目もくれない。
それにミーナは憤慨したのか、むっと唇を尖らせると、私に向かって持っていた人形を投げつけた。
「きゃっ……」
「何を!?」
勢いよく頭に当たったけれど、そんなに痛くはない。
ただ、エトワール殿下は静かに、怒りを含んだ声で言った。
「どうして物を投げつけるのですか。三歳だからと言って、それは許されることではありませんよ」
その言葉に、ミーナがびくっと肩を震わせると、瞳一杯に涙をためて泣き声をあげた。
「ずるいわ! ずるいわ! ミーナも連れて行って! ふえぇぇ」
その言葉に、エトワール殿下はため息をつくと、お父様の方へと向き直った。
「失礼、公爵。今日は連れていくことは叶いませんので、では、失礼」
「は、はい」
お父様もエトワール殿下が静かに苛立っているのを察知したのか、そこで引いた。
けれどミーナはエトワール殿下が自分に構ってくれないと分かると、更に声を荒げた。
「どうして! 意地悪! ミーナがこんなにお願いをしているのに! 可愛くないお姉様をどうして連れていくの! それにお姉様は呪いむがむがむが」
お父様が慌てた様子でミーナの口をふさいだ。
私も、心の中がざわめいた。
今、ミーナは私が呪い子だと叫ぼうとしたのだろう。
呪い子についての記述は屋敷の本棚では見つからず、リヤンも私には教えてくれない。
呪い子とはいったい何なのだろうか。
知られてしまったら……エトワール殿下は私の友達をやめるだろうか。




