20話
「……自分よりも、お腹の子どもが……大切なんれすか?」
純粋な疑問だった。すると、システィリーナ様が驚いたような顔を浮かべる。
「もちろんよ」
至極当たり前という様子。
「だって、子どもは私の全てですもの」
愛おしそうにお腹をさする姿を見つめていると、脳裏に、前世の記憶がよみがえる。
『あんたなんて、産まなきゃよかった』
吐き捨てるように告げられた言葉。
ゴミだらけの部屋に、捨て置かれ、扉から出ていき帰ってくることのなかった母。
『お前、気持ち悪い……なんなんだよ』
『化け物』
『こいつ、捨て子なんだぜ! 不気味だから捨てられたんだ!』
子どもの頃から、何度も何度も何度も……気味悪がられた。
見えてしまうから。
見えないことが普通だなんて、知らなかったから。
普通のふりをどうやってすればいいのかも、分からなかったから。
だから、普通になりたかった。
だから今世こそは普通になりたいと思った。
だから……。
「いいなぁ……」
「ココレット様?」
「あ……」
気が付けば、涙が一滴零れおち、私は慌てて涙をぬぐう。
私は前世の記憶を振り払うように口を開いた。
「しゅみません。……あたちには、よく分からなくて……」
いいなぁと素直に思う。
「システィリーナ様の、赤ちゃんは……幸せれしゅね」
きっと先ほどの光は、システィリーナ様の能力だったのだろう。
そう考えると納得がいく。
すると、システィリーナ様が私の手を取り、そしてぎゅっと握った。
「それなら、貴方も私の子になる?」
「ふぇ?」
「ふふふ。エトワールの婚約者になり、いずれお嫁さんになったら、貴方は私の娘よ?」
「……ふぇぇぇ……」
いやいやいや。
第二王子殿下の結婚相手とか荷が重すぎるので遠慮する。
ただ、システィリーナ様がお母様だったら……いいなぁと素直に思う。
しかし、お母様がいいなぁと思うからと結婚相手というのはエトワール殿下に失礼過ぎるので、ダメダメ。
「恐れ多いでしゅ」
……この優しい人に、気味悪がられて拒絶されるのは、悲しいから。
それに、両親の様子からしてこの世界では呪い子は受け入れられる存在ではないのだろう。
システィリーナ様も私が呪い子だと知ったら、手も握ってくれなくなるのではないだろうか。
手のぬくもりを知った今、システィリーナ様に突き放されたら泣いてしまう自信があった。
だから、私はそっと自分から手を離して言った。
「エトワール殿下には、素晴らしい方がきっと、ご婚約者になると思いましゅ」
呪い子というものは何なのだろう。
ちゃんと知らないといけない。
普通になりたいから、普通と偽るために、私はちゃんと知らなければ。
すると、システィリーナ様が小さく息をついてから言った。
「突然すぎたわね。ごめんなさい。でも、これだけは言わせて。ありがとう。本当に、ありがとう」
「……あたちは、なにもしてましぇんから」
「そう」
真っすぐな瞳のシスティリーナ様。
この優しい人には、幸せでいてほしいなと思う。
本当は、何も言わない方がいい。
私が普通でないことを知られていいことなんて、ないから。
けれど……やっぱり、たとえいつか気味悪がられて嫌われるとしても、優しい人には幸せでいてほしいから、ゆっくりと息をついてから、私は口を開いた。
「……お子様が生まれるまで、システィリーナ様のご実家で、療養しては、どうでしゅか」
「え?」
「……新鮮な空気の場所で」
おそらくではあるが、この城に原因になる何かがある。
だからこそ、ここからは離れれば、悪霊に憑りつかれる可能性が低くなるだろう。
元気な赤ちゃんを産みたいならば、ここにいない方がいい。
「それは……ここ……城にいない方がいいということ?」
聡い人だ。
私の言葉の意図を一瞬でつかむ。
「……すぐにでも」
そう告げると、システィリーナ様が立ちあがり、私の手をもう一度取ると、言った。
「ありがとう」
感謝の言葉。その言葉に、胸がぎゅっとなる。
システィリーナ様は侍女を呼ぶと、私にまたねというように手を振りその場を去って行った。
直接馬車の所へ向かうようで、私はそれを遠くから見守った。
「……私の言葉、信じてくれりゅんだ」
そんな人、初めて出会った。
皆、最初は私の言葉を疑い、疑問の中で確信にかわることはあっても彼女のようにすぐに信じて行動に移すという人はいなかった。
「……エトワール殿下が、本当に、うらやまちいな」
愛してくれるお母さんがいることが、どれだけ幸運なことか……きっと知らないんだろうな。
私はそう思った。
その後は、エトワール殿下とのお茶会の時間も終わりとなり、私はミーナと共に馬車に乗って帰った。
馬車の中でミーナがエトワール殿下がいかに素敵であるかを語っていたけれど、私の耳には入って来なかった。
「おい。トト。どうしたんだよ」
屋敷に帰りリヤンにそう尋ねられたけれど、私は答える元気がなかったので、瞼を閉じたのであった




