11話
「あら、驚かせた? ごめんなさいね」
そこには金色の髪と青色の瞳。雪のように透き通った肌の可憐なご令嬢がいた。
「ごきげんよう。私は第一王女のメアリーよ」
王女殿下!?
突然の登場に驚いていると、メアリー様はくすくすと楽しそうに笑いながら言った。
「エトワールの婚約者探しの見学にこっそり来たのよ」
「そう、らのでしゅか」
「まぁ! 貴方ってお喋りのしかたが可愛らしいのね!」
眩しい笑顔でそう告げられ、私は目が潰れるかと思った。
「うまく喋れなくて、もうちわけありません……」
そう告げると、メアリー様は首を横に振って言った。
「だって三歳でしょう? 仕方ないわよ」
優しいし、なんだか良い香りがする。
素敵な方だなぁと思いつつ、あぁそうだと、せっかくなので質問をした。
「エトワール殿下は、ねこちゃん飼ってまちたか?」
ふわふわのあの魅力的な猫ちゃんのお名前が知りたい。
「え? あぁ、プリシラのこと? えぇ。エトワールの大切な子よ。でも二ヶ月ほど前に亡くなったの」
「そうなんれしゅか」
プリシラという猫ちゃんなのか。
きっとエトワール殿下のことが心配で側にいるのだろうな。
ただ、あの悪霊の数に猫ちゃん一匹で太刀打ちするのは難しい。
それに、下手をすれば悪霊に取り込れてしまうかもしれない。
魅力的でプリチーなプリシラちゃんが悪霊に取り込まれてしまうなんて、見逃せない。
「ねぇ貴方はなんでここに隠れているの?」
メアリー様にそう訪ねられ、私はどう答えるべきなのだろうかと、苦笑いを浮かべた。
「えっと、ふへへへ」
「挨拶はしたの?」
「それが……まだれしゅ」
「まぁ……ちゃんと挨拶はしなくてはね。さぁ、隠れてないで頑張っていってらっしゃい!」
「うぇぇ……ひゃい」
隠れていたのがバレている。
キラキラの、眩しい笑顔を向けられてそう言われてしまうと、行かないわけにはいかない。
さっと、挨拶だけして、すぐにまた隅っこに行こう。
頑張るのよと言わんばかりにメアリー様が私に手を振る。
それに手を振り返しながら、パッと終わろうと意気込む。
すると、ちょうどこちらにエトワール殿下が他のご令嬢を伴って歩いてきた。
令嬢の一人にミーナの姿も見られた。
ミーナの前で殿下に挨拶をする?
いや、お父様に言いつけられて、また厄介なことになりかねない。
ちらりと草影に隠れるメアリー様へと視線を向けると、“ファイト!”というように、ジェスチャーをしてくれている。
応援はありがたいが……間が悪い。
ただ、王族の方の応援に答えないわけにもいかない。
私は覚悟を決めると、女は度胸だと、歩いてくるエトワール殿下の前へとそっと出た。
そしてこの三日間でどうにか身に付けた、付け焼刃のカーテシーを行う。
裾を持ち、片足を後ろに引き礼をする。
脚も手もプルプルだ! 頑張れ! 筋肉のない私の手足よ! 耐えるのだ!
「あれ、君は?」
「お初にお目にかかりましゅ。ゴードン公爵家が娘、トトレットと申しましゅ」
エトワール殿下の瞳が一瞬驚きと戸惑いに揺れる。
けれど、すぐにそれを笑顔で隠す。
「あぁ、初めまして。今日はお会いできて嬉しいです」
「あい……で、ではお話のところ失礼しまちた」
そう言って私はすぐに下がろうと思ったのだけれど、エトワール殿下が私の手を取った。
「待って」
「ふぇ?」
引き留められるとは思っておらず、顔が引きつってしまう。
「よろしければ一緒に 庭の散策へ行きませんか?」
「ぇ?」
「皆さん、少ししましたら、戻ってきますので、それまであちらで軽食を食べながら待っていただけますか?」
まさかそのように言われるとは思っていなかったのだろう。
ご令嬢達の顔が歪む。
「え?」
「は、はい……」
「わかり、ましたわ」
しぶしぶというのがその視線から伝わってくる。
ミーナはというと、不快さを隠そうともせずに、ギロりと私を睨み付けた。
怒っている。
あぁ、お父様にいいつけられるだろうな……面倒くさいぜ。
エトワール殿下は私の手を引いて歩きはじめた。
何故だろう。
どうして、わざわざ私の手を引いて二人で進んで行くのだろうか。
ちらりとメアリー様を見ると、キラキラと輝く瞳でイケイケゴーゴー! とばかりにテンションがあがっている。
そんなにテンションをあげていただいても、特に何もないし、ご期待には応えられない。
そもそも何を期待しているのか、いや、していないのか。
少し歩いた先に、小さな噴水がありその近くにガゼボが備え付けられていた。
私はガゼボのベンチへと座るように促され、ちょこんと座って足をゆらゆらとさせる。
エトワール殿下は私の横に座った。
しばらくの間、何故かぼーっと池を見続ける。
この時間は。休憩タイムか?
なんだ、この間は。
ちょっと、いやすごく、すごーく居心地が悪い。
そこで私は、あぁ、エトワール殿下も疲れてしまって休憩のために私を伴わせたのかな? と思った。
それならば、理解できる。
たくさんの人に囲まれるのはきっと大変だろうから……しかも。たくさんの悪霊を引き連れて。
ちらりと悪霊の方をみると、ケタケタと笑っている。
『くるしめぇ、苦しめぇ』
『あははははは』
どうやら、威嚇してくる猫のプリシラで遊んでいるようだ。
プリシラは良い猫ちゃんだ。
白いふわふわの毛並みが大変素敵である。出来ることならば撫でまわして、猫吸いしたい。
……いや、霊なので吸っても、空気をただ吸っているだけなのだが。
「ココレット嬢。今日はお会いできて嬉しいです。ゴードン公爵家の双子の姉君はなかなか姿をみることができないと噂されているんですよ」
そう告げられて、閉じ込められているので出れませんとは言えなかった。




