表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エターナル  作者: 邑 紫貴
ある勇者の鎮魂歌
5/15

ゲームとリアルの死


宴会が終わり、画面に『宿に泊まりますか』の選択が出現。

「はい」を選び。

宿の部屋。簡易なベッドに横になるアジュール。

リアルの私は病院のベッドで身を起こしてパソコンに向かい。見つめる。

不思議な感覚。

まるでアジュールが死んだようにも見える。


画面が歪み。夢にでも入るように暗闇に変わっていく。

自分の望んだのはゲーム内の占い。簡易な未来を見たいと望み。

画面には一つの封筒。それが開いて。中から真っ黒な一枚の紙。

火属性の町だからか、火が紙面に広がって読めない文字を構成していく。

そして画面にはモフモフのタヌキ。

ソロの時には雄弁に語って、私の話し相手になってくれた存在。それが。

「くく。我は【難攻不落の城】に導くもの。時は来た。」

モフモフの淡い毛が赤黒い炎を纏い。属性はアジュールと同じ風属性のはずなのに。

何かの演出にしても恐怖しか感じない。


寝ていた宿とは違う場所。白い画面。

そこに転送されたアジュールは目を開いて、画面の中央に立ち。

盾を片手に身を守るようにして、走る。

角度が変わり、私の横を走り去るような映像。

そして後ろ姿。

向かう方向に見えるのは大きな城。

橋を渡って扉をくぐり。中は闘技場のような情景。


そして上空から巨大なドラゴンが舞い降りる。

強力な羽で風が舞い。風の音。

ラピスラズリの色。それはこの世界で許された唯一の存在。ラスボス。

ここは【難攻不落の城】。まさか。


「さぁ、アジュール。その身を捧げよ。くく……あはは。俺の世界で、純愛など許されない。今まで楽しかった君の時間。君の残された時間も俺が食い尽くす。もうカプリチオとも会えない。二度と。」


何を言っているんだ。

心音が激しくなる。

胸元の服を握りしめ。画面を睨んだまま。私は思考が混乱して息が荒くなる。

駄目だ、これはゲーム。ゲームなのに。


このゲームに課金は存在しない。

ゲームのクリアができずアカウントを奪われた人たち。

これは個人所有の精巧なゲーム。無料で提供されたもの。データが破損しても文句は言えない規約。

けれどゲーム内の会話は。運営の管理下にあるとはいえ、個人的なもの。それを。

文字を打とうとしたけれど、どこにも表示されず。

おかしな点は、もう一つ。

ボスに挑んだ場合、この闘技場は世界の空に実況中継がなされ。

この観覧席を埋め尽くすほどの観覧希望者がいるはず。


「姿はアジュール。どうせなら女性のアバターで会って欲しかったよ。まぁ。もう命の尽きるかわいそうなヒロイン。だから君に教えてあげよう。君はこれから私に吸収されるのだ。二度とこの世界に戻れない。いつか、カプリチオも吸収される。それがこのゲーム。【難攻不落の城エターナル】。このゲームを楽しみ時間を費やして。強くなって、この無敵のラピスラズリに挑み。それがすべて糧となるのだ。無敵無敵無敵。このゲームを終わらせない。それを楽しむのが俺だ。さて、私も情けがないわけじゃない。占いの結果を教えてあげよう。心配しなくていい。これは統計に基づくその筋で有名な人の予言。今から表示される文章は俺も知らない。読み終わった頃に、すべてが終わる。リアルの君の寿命は知らないけれど。」


画面には中央から水が沸いて波紋が拡がり。

黒い文字が浮かんで単語ごとに音読されていく。

『未来 に 繋ぐ』


すると次の瞬間には画面がグシャっと握りつぶされたようになり。

茫然と見つめる画面に映し出されるのは、間近に迫ったラピスラズリ色のドラゴンの顔。

口がゆっくり開いて。

一気に近づいたと思ったら画面は暗闇。

装備された鎧が歪む音。骨が砕かれる音と共に、呻くような叫び声。

画面には血しぶきが拡がり。


それは。ゲームのアバター。アジュールの死。


「……っ。はぁ……誰か、助けて……お願い、アジュールを。カプリチオ…………」


意識が遠退き。

それはリアルの私の死。







一人の女性が死に。残ったのは、その病室に置かれていたパソコン。

後日、家族が開いて気づく。

「兄さん、これは。」

「まさか【ラピスラズリ】……」



『新しい属性を引き継ぎ、ゲームを再開しますか?』






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ