ゲームとリアルの死
宴会が終わり、画面に『宿に泊まりますか』の選択が出現。
「はい」を選び。
宿の部屋。簡易なベッドに横になるアジュール。
リアルの私は病院のベッドで身を起こしてパソコンに向かい。見つめる。
不思議な感覚。
まるでアジュールが死んだようにも見える。
画面が歪み。夢にでも入るように暗闇に変わっていく。
自分の望んだのはゲーム内の占い。簡易な未来を見たいと望み。
画面には一つの封筒。それが開いて。中から真っ黒な一枚の紙。
火属性の町だからか、火が紙面に広がって読めない文字を構成していく。
そして画面にはモフモフのタヌキ。
ソロの時には雄弁に語って、私の話し相手になってくれた存在。それが。
「くく。我は【難攻不落の城】に導くもの。時は来た。」
モフモフの淡い毛が赤黒い炎を纏い。属性はアジュールと同じ風属性のはずなのに。
何かの演出にしても恐怖しか感じない。
寝ていた宿とは違う場所。白い画面。
そこに転送されたアジュールは目を開いて、画面の中央に立ち。
盾を片手に身を守るようにして、走る。
角度が変わり、私の横を走り去るような映像。
そして後ろ姿。
向かう方向に見えるのは大きな城。
橋を渡って扉をくぐり。中は闘技場のような情景。
そして上空から巨大なドラゴンが舞い降りる。
強力な羽で風が舞い。風の音。
ラピスラズリの色。それはこの世界で許された唯一の存在。ラスボス。
ここは【難攻不落の城】。まさか。
「さぁ、アジュール。その身を捧げよ。くく……あはは。俺の世界で、純愛など許されない。今まで楽しかった君の時間。君の残された時間も俺が食い尽くす。もうカプリチオとも会えない。二度と。」
何を言っているんだ。
心音が激しくなる。
胸元の服を握りしめ。画面を睨んだまま。私は思考が混乱して息が荒くなる。
駄目だ、これはゲーム。ゲームなのに。
このゲームに課金は存在しない。
ゲームのクリアができずアカウントを奪われた人たち。
これは個人所有の精巧なゲーム。無料で提供されたもの。データが破損しても文句は言えない規約。
けれどゲーム内の会話は。運営の管理下にあるとはいえ、個人的なもの。それを。
文字を打とうとしたけれど、どこにも表示されず。
おかしな点は、もう一つ。
ボスに挑んだ場合、この闘技場は世界の空に実況中継がなされ。
この観覧席を埋め尽くすほどの観覧希望者がいるはず。
「姿はアジュール。どうせなら女性のアバターで会って欲しかったよ。まぁ。もう命の尽きるかわいそうなヒロイン。だから君に教えてあげよう。君はこれから私に吸収されるのだ。二度とこの世界に戻れない。いつか、カプリチオも吸収される。それがこのゲーム。【難攻不落の城エターナル】。このゲームを楽しみ時間を費やして。強くなって、この無敵のラピスラズリに挑み。それがすべて糧となるのだ。無敵無敵無敵。このゲームを終わらせない。それを楽しむのが俺だ。さて、私も情けがないわけじゃない。占いの結果を教えてあげよう。心配しなくていい。これは統計に基づくその筋で有名な人の予言。今から表示される文章は俺も知らない。読み終わった頃に、すべてが終わる。リアルの君の寿命は知らないけれど。」
画面には中央から水が沸いて波紋が拡がり。
黒い文字が浮かんで単語ごとに音読されていく。
『未来 に 繋ぐ』
すると次の瞬間には画面がグシャっと握りつぶされたようになり。
茫然と見つめる画面に映し出されるのは、間近に迫ったラピスラズリ色のドラゴンの顔。
口がゆっくり開いて。
一気に近づいたと思ったら画面は暗闇。
装備された鎧が歪む音。骨が砕かれる音と共に、呻くような叫び声。
画面には血しぶきが拡がり。
それは。ゲームのアバター。アジュールの死。
「……っ。はぁ……誰か、助けて……お願い、アジュールを。カプリチオ…………」
意識が遠退き。
それはリアルの私の死。
一人の女性が死に。残ったのは、その病室に置かれていたパソコン。
後日、家族が開いて気づく。
「兄さん、これは。」
「まさか【ラピスラズリ】……」
『新しい属性を引き継ぎ、ゲームを再開しますか?』