ゲームとリアルと、ギルドとソロ
久々にログインし、カプリチオから遊びのお誘い。
パーティーを組み、日常的な会話を繰り返す。
ゲームのこと、リアルのちょっとした食べ物の事や話題のもの、小さな出来事。見聞きしたことの共有。
「ねぇ、アジュール。リアルで会ってみたい。」
そうこれはゲーム。操作している画面の向こう側には、私と同じく人がいる。
聞いてはいけない。触れてはいけない。線引きをして無難に、それでも恋心は芽生えて。
顔も名前も知らない人を。
「……そうね、いつか。」
そう言ったけれど。いつか会えることなどない。
期待させてしまうのはいけない。
「私を見たら幻滅するよ。さ、これはゲーム。一緒に遊んでくれるよね?」
「あぁ、ギルドから要請がない限り。」
優先はギルド。リアルで会いたいと言うくせに。私を優先してくれない。
そう、これはゲームだから。
「今日の狩りはどこ?」
「そうだな、最近の装備強化アイテム優先でいい?」
「アイテム買うには所持金ないから、それで。」
共に転送で、狩りの場所に移動する。
少し離れた場所で、ドロップを拾える範囲内。
自動操作に切り替えて、ゲームの話をしたり。
私だって知りたい。
普通の恋愛なら顔を見て、名前を知っていて当然。
だけど、これはオンラインゲーム。声が聞こえて、実際に存在するのだと自覚はする。
分かるのは中身。会話の仕方、知識、行動パターン。一緒に行動して、違和感などない。
リアルで会って、顔や体形を知ってこの好きな気持ちが変わるだろうか。
好きになったのは中身。
リアルだと、こんな人だと思わなかったと後悔するけれど。それはない。
「アジュール、ギルドから呼ばれたから。今日はここまで。じゃーね。」
言い終わったと同時でパーティーを抜けて。カプリチオは即、転送アイテムを使用して消えた。
いつものように呆気なく去っていく。
「バイバイ」
私の声など届かない。
私はアジュールじゃない。
じゃーねって、何?そーいうところが嫌いなのよ。無神経。
さみしさなんて、あなたにはない。
リアルで会ってどうするの?
私は女。怖い。中身を知っていても。
ゲームで出会って1年。ゲームをしながら会話を毎日のように続けた何か月間。
これはゲーム。リアルじゃない。まして。
「こんにちは」
個人あてのチャット。
相手の名前は、ぽこぽんさん。アバターは男。中身も男。
前に発言した時、パーティーに居た人だ。
「どうも、どうしましたか?」
「近くで狩りをしているのですが、見かけたので。もしよければ、一緒に狩りをしませんか?」
普段なら断るのだけど。
今日はのんびり、カプリチオと遊ぶ予定だった。
その予定も彼はギルド優先で、私のことなど気にもしない。
「よろしくお願いします」
パーティーを組み、ボイスをオフにする。
「さっきまで一緒だったのはカプリチオですよね。彼のギルドには入らないの?」
彼からはボイス。
文字打ちは面倒だけど、リアル設定の嘘がバレるのは嫌だから。仕方ない。
「フレンドは同じギルドでなければいけない?」
「メリットを考えると、なぜ入らないのかと疑問。だって大手ギルドのファンタジアだろ。しかもサブマスのカプリチオ。もしかして主婦って。カプリチオのリアル妻?ん?それなら入ってるのか。いや、ギルド方針的にはあれなのか?」
後半、考えが独り言で流れてきてますね。
ギルド方針か。
姫と呼ばれる存在が、現実でもサークルクラッシャーと呼ばれるように。
オンラインゲームでは、中身の分からない女性アバターがギルドを崩壊させるのだとか。
それより。
「サブマスって何?」
「マジか。ギルドのリーダーがマスター。ギルマス。その補助がサブマス。カプリチオは、ファンタジア創設メンバーで有名だろ。」
「知らない。」
「マジか。」
「まじっす」
「あんた、面白いね。ギルド誘われただろ?何故、入らない?大手だからか?」
質問攻め。何が気になるのかよくわからないけれど。
「ゲーム初心者だから迷惑かけたくない。ソロで十分。」
「へー。一緒に遊んでるんだろ?楽しいからだよね。……好きなの?浮気?」
そう、このゲームに限らずオンラインゲームで耳にする噂。
主婦だけでなく既婚者が、ゲーム内の結婚シルテムを使って疑似的恋愛を楽しみ、リアルで会うなど。
「これはゲーム。二人とも割り切って遊んでいる。だからカプリチオはギルド優先。」
打ち込みは文字数の制限がある。
言葉足らず、真意が時には伝わらない。それでも。最低限。この人なら、誤解されてもいいや。
「なぁ、俺のギルドも大手なんだけどさ。ギルド名はファクト。俺がギルマスなんだ。来ないか?」
私は何故か、すんなりとギルドに加入した。ギルド、ファクトに。
事実そのもの。見えなかったものが見え、すべてを覆して後悔する。
それでも、たとえ入らなかった過去に修正したとしても未来は変わらない。