始まりの町ゼファー
そのゲームをしようと思ったきっかけは、タイトルが『ラピスラズリ』だったから。
好きな石。
ふと目に入ったオンラインゲーム。
顔の見えない相手が、どこかに存在し。同じゲームをしている不思議な感覚。初めてのオンゲ。
話の通じない人や暴言などが存在するとニュースなどで聞いて、怖くて。
ソロで無言のひっそり楽しむエンジョイ勢。
ゲームの運営が一般と違うのか、よくわからないけれど。課金システムが見当たらない。
初心者だから無料で楽しめればいい。
そう思っていた……死ぬまでは
アバターを選んで名前を付ける。銀髪の男。名はアジュール。
職は戦士か補助の二択で、戦士を選び。
魔法の属性を選ぶ。属性によって始まりの町が異なるのだ。
選んだのは風。小さな国の城下町。風属性の始まりの町、ゼファー。
さっそく町の探索をする。
風の属性を表現した町。優しい風が吹いているような草木の揺れと音。広場には小さな旋風。
そして風車に似た物が点在し、大きさが異なり色鮮やか。
個々に音が異なり。不思議なメロディーを奏でるようだ。
風量も場所によって変わり、雑音にも感じないほど統制が取れている。
きっと店など基本的な構成は他の属性と同じだろう。
初心者にも優しい誘導があり簡単で、夢中になった。
表示される誘導に従いクエストを消化し、最低限のレベルと所持金を得る。
そして招待状を受け取り教会に向かった。
そこで正式に戦士と認められ、違う属性の町にも行けるようになった。けれど。
ゲームの世界で呟かれる情報。時に暴言。
自分だけではないゲームの世界を見つめ。誰ともかかわらずにゲームを進めた。
「はじめまして」
個人あてに届いたメッセージ。
相手の名前はカプリチオ。アバターは男。中身は分からない。
「はじめまして?」
無視することも出来ず、挨拶のできる人なら大丈夫かと返事をしてみた。すると。
「ギルド招待をしたいのですが、いかかですか?」
ギルド。それはゲーム内の仲間にならないかってお誘い。
「すみません、初心者なので。ギルドは考えていませんでした。」
「週課などは、どうしてますか?」
質問攻め。優しさなんだろうけど。
「世界の募集に参加したりしています。お誘いも幾つかあるので迷ってはいます。」
正直に伝えてみる。するとフレンド申請が来た。
「ギルド関係なく、ゲームの困ったことなどあれば聞いてください。」
「ありがとうございます。」
引き際は良いような気もする。
そのフレンド申請を受け入れ、会話を終えた。
そう、最近の課題。アップデートを重ね、属性の町とは別の共通の町も増え。
個人で毎日するデイリークエスト。日課。一週間で報酬回数が更新される週課。定期コンテンツ。
新しくゲームを始めた人を援助するギルドの募集も見かける。
そうこれはオンラインゲーム。ソロでは限界があるのは確か。
実際、他の属性の町はフレンド登録者からの招待がないと入れない。
そして最終目標が【難攻不落の城を攻略すること】だから。
何度か挑戦する者が現れ、その度に空に映し出される対戦の映像。
ことごとく失敗に終わり、難攻不落を目に焼き付ける。圧倒的な強さ。
最終ボスにしか許されていない色。ラピスラズリ。
『聖なる石』。それとはかけ離れた噂話。
挑戦に失敗すると、アバターは消えて、データが戻ることはない。
挑戦者を敗北後に見た人がいないから。
そして身内からの情報だと拡散され。
ゲームに飽きた卒業者がそれを実証した。
【難攻不落】
運営はその噂を否定もせず、挑戦者の条件を厳しくした。
挑戦権として『レベルや攻撃力など基準をクリアした者に特典として、選択できるモフモフのマスコットを進呈する』と。
そしてクリアできなかった者には、属性を引き継いだ二週目、別属性との併用権利を与えると。
ただし、それには確率が存在する。
つまり噂は本当。
【難攻不落】を続けるための運営の意図。
そしてその第一歩が目の前に。
『もふもふの旅仲間』
お使いクエストが出現し、強制誘導。
幾つかある候補から、タヌキを選んだ。
モフモフのダルマのような形のタヌキ。それはAIで会話を学び、ソロにとって楽しみの一つになった。
しかし何故かギルドの推奨・別属性の町へ行くことを促してくる。
ゲームとしては正しいのだろうけど。
風属性の始まりの町ゼファー。ここを拠点にしてソロで遊ぶには何の不便もなかった。
属性の関係ない共通の町には、クエストで行けたから。
違う町を楽しみ、他の人に煩わされることなく。
世界募集では、違う属性の人と協力して一期一会。
火力に当たり外れがあったけれど。
回復職は不遇で、いなくてもアイテムで解決してしまう世界。
サブアカウントは禁止。見つかると垢BANアカウント停止。違反・権利はく奪。
そう考えると。
運営にとって、ゲームクリアしようと【難攻不落の城】の攻略をする事。
それも同じ扱いなのかもしれない。攻略に失敗した者が消えるのだから。
私は、このゲームを楽しんでいる。
それはどこまでのことだろうか。