演技マスター
夜の空気はクモの巣みたいにベタついて、コンビニのネオンがクソみたいにギラついてて、まるで全部を小馬鹿にしてるみたいだった。
息が詰まりそうで、胸が爆発しそうで、上着ひっかけてとにかく外に飛び出した。
どこに向かうとかどうでもいい。
ただ逃げたかった。
「世界中の誰もがもうとっくに見抜いてんのに、
痛がってるのは自分だけ」
そのクソみたいな感覚から。
歩いてたら目に入った。
兄貴と、そのクソ頭の切れる仲間たち。
論文でも吐いてんのかってくらいのセリフを並べる連中が、
まるで神様みたいに笑ってた。
コンビニの前で、
安っぽい缶ビール片手に、
人間の愚かさだの社会の腐り具合だの、
虚無がどうだの語り合ってやがる。
人が溺れてんのを、
水しぶきの形で採点してるようなツラ。
あの薄ら笑いに、マジで反吐が出そうだった。
その缶ビールだって、
どう見ても喉を潤すだけじゃねえ、
冷静なフリを続けるために流し込んでんだろってしか見えなかった。
もう限界だった。
腹の底からぶちまけた。
「お前ら、何笑ってんだよ!」
一瞬全員が固まった。
一人が眉をひそめ、
一人が呆れたみたいに白目を向ける。
兄貴はゆっくり顔を上げて、
少しだけ驚いた後に、
「またか」って目で冷たい笑いを浮かべた。
まるで、野良犬の遠吠えでも聞いてるみたいに。
「今度は何だよ?」
空気みたいに軽い声。
喉が裂けそうだった。
「何が面白ぇんだよ!
必死で諦めない奴を?
まだもがこうとしてる奴を?
お前ら、自分が全部見抜いたってだけでイキってんのか?
見抜いたらそれで終わりかよ?
死んだフリして、
その頭で金と立場と安心だけ拾って、
そんで他人を見下して?
クソ、自分がどれだけ胸クソ悪いか気付かねーのか!」
一人が、ニュース読むみたいに無表情で言う。
「起きようとしない奴なんか救うだけ無駄だろ。
この世界はゴミ捨て場だ。
何度見ても変わらないさ。」
もう一人がさらっと刺す。
「だよな。
バカに合わせて死ぬとかゴメンだわ。
頭あるなら、自分守んなきゃ。
感情なんか残してどーすんの。
犬に食われるだけだろ。」
冷たすぎて、
墓石より冷たい声だった。
マジで吐きそうになった。
「お前ら分かってんだろ!」
声が震えるの止められなかった。
「一足す一は二だ。
少しでも仲間が増えりゃ、世界だって変わるかもしれねぇ。
お前らほどの頭と分析力があって、
どうしてそんなに簡単に死んだフリできんだよ!
笑いながら人踏み潰すとか、
魂売り飛ばしてまで生き延びるとか、
クソ、なんも感じねえのか?
結局お前ら、麻痺してんだろ。
麻痺して、自分が誰かすらわかんなくなって、
ビールで誤魔化して、
空っぽの理屈にしがみついて、
そんなの生きてるって言えるのか、クソ!」
兄貴は缶を軽く振って、
ゴミでも捨てるみたいに吐き捨てた。
「痛みなんか、何の役にも立たねぇよ。
痛い奴から死ぬ。
生きたきゃ演じろ。
演じなきゃ、潰されるだけだ。」
歯が砕けそうだった。
「お前ら前に言ったよな。
人間は一つの流れだって、
意識は全部繋がってるって。
じゃあどうして笑って人を踏み潰せんだよ。
それ、自分踏み潰してるのと変わんねーだろ、クソ!」
一人が肩をすくめて鼻で笑った。
「それはただの概念だろ。
本気でやりゃ、
最初に死ぬのはお前だ。」
別のやつが付け足す。
「お前はまだ疲れてねぇだけだ。
限界まで痛くなりゃ、
どうせ分かる。」
その声が、
まるで墓標みたいに重かった。
立ちすくんだ。
言いかけた。
「じゃあ俺は、お前らにとって何なんだよ?」
バカでも構わない、
笑われたっていい、
せめて、
まだ誰かの目に映ってるって、
それだけで良かったのに。
でも飲み込んだ。
どうせ答える気なんかないのを、
わかってたから。
兄貴が肩を軽く叩く。
まるでゴミを片付けるみたいに。
「そのうち分かる。
疲れりゃ気付く。
演じてる方が楽なんだってな。」
クソ、
マジで膝が崩れそうだった。
でも脳みそは何度でも叫んでた。
「嫌だ。
痛くて死んでも、
お前らみたいに生きるのは絶対嫌だ。」
誰も振り返らない。
缶ビールを持ち上げて乾杯みたいに笑って、
まるで
誰かの葬式に付き合ってるみたいだった。
俺は歩き出した。
足がバラバラになりそうだったけど、
一歩一歩が本物だった。
息を吸うたびに本物だった。
あんな連中みたいに、
死んだフリで
綺麗に生きるくらいなら、
汚くてもいい。