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第95話「人狼ゲーム②」

「……かおりんは、怪しいね」


 奈々りんの声が落ち着いていた。

 笑ってるけど、目は真剣だ。

 ゆはりんがこっちを見た。

「え、かおりん、うそついてるんですか?」

「ち、ちがうよ!」

「でも、なんかいつもより静かです」

「……集中してるの」


 心臓がうるさい。

 嘘をつくたびに、ゆはりんのまっすぐな瞳が痛い。

 そして、奈々りんの沈黙がもっと痛い。

 彼女は、何も言わずにわたしの顔を見ている。

 まるで――

 “本当の嘘は、そっちでしょ?”

 って言いたげに。


 (やめてよ……そんな目、しないで)



「じゃ、投票しよっか」

 奈々りんの声が低く響く。

「一斉に指差して。せーの!」


 三本の指が同時に上がった。

 ……結果、2対1でわたしに。


「え、ちょっと!?」

「ごめん、かおりん。でも……顔が嘘でした」

 ゆはりんが小さく言う。

「顔が嘘ってなに……!」


 奈々りんは静かにカードをめくる。

「やっぱり、“人狼”だったんだ」

「……正解」


 笑って言ったつもりだったのに、声が震えた。

「かおりん、上手でしたね」とゆはりんが嬉しそうに言う。

 その“嬉しそう”が、まっすぐで、だからこそ胸が締めつけられる。


 (わたしは、ほんとのことを隠してる)

 (この子の“好き”に、まだ返事をしてない)

 (奈々りんの“好き”にも、触れられないまま)


 ……ゲームの中だけじゃない。

 わたしは現実でも“人狼”のままだ。



「ねぇ、次のゲームは、正直にいこうか」


 奈々りんが突然言った。

「正直に?」

「そう。質問に“ほんとのこと”で答える。嘘ついたら負け」


「それ人狼関係ない……」

「関係あるよ。ね、かおりん?」


 視線が絡む。

 怖い。

 でも、逃げられない。


「じゃ、質問。“いま、一番ドキドキしてる相手はだれ?”」


 一瞬、教室の空気が止まった。

 ゆはりんが驚いた顔でわたしを見る。

 奈々りんは、微笑みながら待っている。


「……わたしは」


 言葉が喉の奥でつかえた。

 でも、出さなきゃ。

 誰かを傷つけるとしても、ずっと嘘のままよりは――


「いま、ドキドキしてるのは……」


 ……チャイムが鳴った。

 終業の鐘。

 全員がびくっとした。

 わたしは笑うしかなくて、「また今度ね」とごまかした。


「ずるい」奈々りんが低く言った。

「続き、次の村で聞かせてもらう」

「……うん」


 ゆはりんは何も言わなかった。

 でも、ほんの少しだけ悲しそうに笑っていた。



 窓の外は、もうすっかり暮れていた。

 三人で教室を出るとき、風がひゅうと吹き抜ける。

 ゆはりんのマフラーが少しほどけて、わたしが手を伸ばして直す。


「ありがとう、かおりん」

「ううん」


 その笑顔が近すぎて、また心臓が跳ねた。

 前を歩く奈々りんの背中が、夕闇に溶けていく。


 (このままじゃ、誰も嘘をつかなくなる日は来ないのかも)


 そう思いながら、わたしは教室のドアを閉めた。

 風がカーテンを揺らして、最後の光が床を滑る。

 机の上には、裏返したままのカードが三枚。

 「人狼」「村人」「占い師」。


 どれも、今のわたしたちみたいに――

 “誰が本当か分からない”まま、そこに残っていた。

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