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第94話「人狼ゲーム①」

 十一月。

 木々はすっかり色づいて、校庭の銀杏が夕陽を反射している。

 放課後の教室には、乾いたチョークの匂いと、微かに冷たい風。

 わたし――かおりんは、机の上でカードを並べながら深呼吸をした。


「……人狼、やろっか」


 声がちょっとだけ震えたのを、自分でもわかった。

 ゆはりんが顔を上げて、「え、また心理戦!?」と笑う。

 その笑顔がまぶしい。

 けれど、胸の奥のどこかが、静かに痛い。


 奈々りんは椅子をくるりと回して、足を組み、わざと軽い調子で言った。


「いいね。最近ストレス溜まってたし。暴ける嘘は暴いとこ」


(…… “嘘”って。タイムリーすぎるよ、奈々りん)


 彼女の視線が一瞬わたしをかすめた。

 その目の奥の熱を、わたしはまだ忘れられない。

 “ゆはりんにも、しおりんにも負けたくない”

 あの夏の日、部屋で聞いた奈々りんの告白が、まだ体の奥で生きている。


 それを知らずに笑っているゆはりんが、いちばん無防備で――

 いちばんまぶしい。



「じゃあ配るね!」


 ゆはりんがノートの切れ端を三つに折って、机の上に並べる。

 「人狼」「占い師」「村人」。

 役職はいつも通り。けれど今日のわたしたちは、それぞれがすでに“何か”を隠している。


「じゃ、配るね。……はい、どうぞ!」


 三人で同時に手を伸ばし、カードを取る。

 裏返して、そっと見る。


 ――わたしのカードには、“人狼”と書かれていた。


 (また、わたしが“嘘をつく役”なんだ)


 思わず笑ってしまいそうになった。

 まるでこの状況そのままじゃないか。

 ゆはりんにも奈々りんにも、本音を言えない。

 心のどこかで、どちらにも嘘をついてる。


「じゃあ、議論ターイム!」


 奈々りんの声が軽く響く。

 けれどその笑顔は、どこか挑発的。

 まるで――

 “わたしの中の狼を見抜いてみろ”

 とでも言いたげだった。



「えっと……ゆはりんは、村人っぽいかも」

「え、なんでですか?」

「表情が自然。嘘つけないタイプ」

「そ、そんな! わたしだって演技くらいできます!」


「じゃ、試しにやってみて」

「え?」

「 “わたし、人狼です”って言ってみて」


 ゆはりんは両手を胸の前でぎゅっと握り、

「……わ、わたし、人狼です……」

 と絞り出すように言った。

 その声が震えてて、どう見ても本気で罪悪感に包まれてる。


 奈々りんは吹き出した。

「無理すぎる。かわいすぎて処刑できない」

「ひどいです!」


 わたしは、そんなやり取りを見ながら、心の奥がぎゅっと締めつけられた。

 かわいい。

 でも、その“かわいい”を口に出すと、奈々りんの視線が刺さりそうで怖い。


 彼女はまだ、あの夏の告白の続きを待ってる。

 だから、わたしも嘘をつく。

 人狼のカードを握りしめながら、もう一つの嘘を。


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