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第78話「心理戦」

 山から帰ってきた夜。

 シャワーも浴びて、夕飯も済ませて、ようやく布団にごろんと転がったとき――。


「しおりん」


 隣からかおりんの低い声。やけに真剣。


「昨日の夜のドタバタ……結局、勝負つかなかったよね」

「勝負っていうか、ただの大混乱でしょ」

「ちがう! “我慢比べ”の続きだよ! だから、今夜こそ決着!」


 やっぱり来たか……。

 かおりんはニヤリと笑って、机の上に置いてあったトランプを手に取った。


「今日やるのは――“心理戦ジレンマゲーム”!」



 机の上にトランプを5枚ずつ並べる。表は見えない。

 毎ターン、一枚ずつめくる。

 数字が大きい方が勝ち。

 ただし――“ハートのカード”を引いたら、特別ルール発動。


「ハートを引いたら、“相手に質問タイム”。どんな質問でも答えなきゃダメ!」

「質問……?」

「うん。恋バナでも秘密でも。これで相手の動揺を引き出すの!」


 ……めんどくさい。けど、かおりんが目をキラキラさせてるから断れない。


「よし、やろう」



「せーのっ!」


 二人同時に一枚めくる。

 わたし:クラブの7。

 かおりん:スペードの4。


「しおりんの勝ち!」


 にやっとした瞬間――


「はい、ハートじゃなかったからセーフ! 次!」


 気楽な調子で進めていく。


 二枚目、三枚目……勝ったり負けたりを繰り返す。

 ふたりで「やった!」「くぅー!」って声をあげながら、机の上のカードが減っていった。



 そして四枚目。

 わたし:ハートの3。

 かおりん:クラブの10。


「やった! わたしの勝ち! しかも――ハート出たから質問ターイム!」


 にやにや笑うかおりん。嫌な予感しかしない。


「じゃあ……しおりん。昨日の夜――ひかりんに絡まれたとき、ほんとはどう思ってた?」


「なっ……!」

 核心を突いてきた。わたしは顔が熱くなる。


「べ、別に……ただ、困っただけ」

「ふーん、“困った”ねぇ?」


 かおりんはじっと見つめてくる。

 ……やばい、完全に疑ってる目。



 最後のカードをめくる。

 わたし:ダイヤのキング!

 かおりん:ハートのジャック!


「数字ではしおりんの勝ちだけど……ハートだから、また質問!」


 かおりんが椅子をぐいっと近づける。


「じゃあ……わたしとゆはりん、どっちに抱きつかれるのが嬉しい?」


「そ、それは――」

 言葉が詰まる。頭の中に昨夜の映像がフラッシュバック。


 その瞬間。


「ドッキリ大成功~~!」


 かおりんが机の下からスマホを取り出した。

 録音アプリが光ってる。


「はぁ!? 録ってたの!?」

「もちろん! これは証拠として永久保存!」


 わたしは真っ赤になって、必死にスマホを奪おうとする。

 かおりんは逃げ回りながら、子どものみたいに大笑い。



 結局、スマホは奪えなかった。

 でも、かおりんは最後に「これは公開しないであげる。……わたしが勝った証だから」とウィンクした。


「ずるい……」

「でも楽しかったでしょ?」


 たしかに、笑いすぎてお腹が痛い。

 山の夜のドタバタよりも疲れたかもしれない。


(……次は絶対、逆に仕掛けてやる)


 枕に顔をうずめながら、そう心に誓った。

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