第7話「大食い競争」
「ピンポーン」
玄関チャイムが鳴ったのは、夜9時を過ぎた頃だった。
「誰だろ……こんな時間に?」
「宅配じゃないっぽいね。ママりん出た?」
「いまお風呂。パパry……は寝落ち中……」
ふたりで顔を見合わせ、私が仕方なく玄関へ向かう。
ドアを開けると、そこに立っていたのは――
「やあ、久しぶり!」
「……タカシ!?」
そこには、どこか懐かしい顔があった。いとこ――タカシだ。
小さい頃は一緒によく遊んだけど、ここ数年は会ってなかった。なんか身長がめっちゃ伸びてて、髪もちょっとだけサラっとしてて……なんか、少年Aから青年Bくらいには進化してる。たしか今年から高校2年生だっけ。
「こっちに来てたから、ちょっと顔出してみた! 突然だけど、お邪魔してもいい?」
「え、あ……うん。まあ、いいけど……」
軽く戸惑いながらも家に招き入れると、居間でお菓子の空き皿を囲んでいたかおりんが、ぱっと顔を上げた。
「あ、タカちゃん!」
――あ、笑った。
――しかも、可愛く笑った。
「久しぶりだな、かおり。相変わらずだな~!」
「うふふ~」
……な、なんだそのやり取りは。
なんか男子の前で可愛いモードになってるんですけど!?!
「……それで? 突然なにしに来たの?」
少しだけトゲを含んだ声で聞くと、タカシはにやっと笑った。
「んー、今日はおばさんがご馳走してくるっていうからさ。それに、しおりが最近食べるの早いって聞いて……で、挑戦しに来た!」
「挑戦?」
「そう、大食い勝負! 俺の高校、食堂の大食い大会で優勝したばっかなんだ。」
「なにその自称チャンピオンみたいな理由……」
「ってことで、勝負だ! 大食い対決、今から開催!」
「ま、まじで!? 夜だよ!?」
「お腹空いてるし、むしろちょうどいいよ~」
ちゃっかりかおりんも乗ってきてる……。
*
そして、台所にはママりん。冷蔵庫を開け、次々とストック食材を取り出す。
「オムライス、からあげ、焼きそば、冷凍パスタ、冷凍チャーハン、全部使っちゃおうかしら」
「ちょ、ママりん!? 夜食のテンションじゃない!」
「いいじゃない、楽しそうだし。女子と男子で勝負なんて、青春って感じでしょ♪」
「色気ないなーー」
*
30分後。
リビングのテーブルの上には、夜とは思えない豪華な炭水化物フェスティバルが展開されていた。
ルールは簡単。3人で同時にスタートして、10分間で食べた量を競う。
ママりんがストップウォッチ係で、優勝者には「ママりん特製パフェ」が贈られるとのこと。
「準備はいい~?」
「オッケー!」
「バッチリ!」
「……一応、頑張る」
ママりんの「よーい、スタート!」の声とともに、一斉に食べ始める。
タカシくんは勢いで押すタイプ。まるで掃除機のように焼きそばを吸い込んでいる。
私は速度よりもペース重視。戦略的に、食べやすいものから崩していく。
……が、一番驚いたのは。
「……んぐっ、もぐもぐ、ん~これ美味しい♪」
かおりんだった。
「……え、かおりん、そんなに食べれる子だったっけ?」
「ふふふ、最近、お腹すぐ減っちゃうの!」
「にしても、そのスピードおかしいだろ!」
「私ね、たぶん“ふわもち食感”系の食べ物は無限にいけるの!」
「なにその限定スキル!」
残り3分、私は焼きそばに苦しみながら、タカシを見る。
顔が若干青くなってる。チャーハンの米粒をつまんで止まってる。
――これは勝ったか……!
しかし、その横でかおりんは。
「パスタ、ゲットー♪ しおりん、がんばれ~」
ニコニコしながら励ましつつ、自分はどんどん食べ進めている。
いや、絶対手加減してない。
そして、時間切れ。
「ストーップ!」
ママりんが拍手とともに終了を宣言。みんな、ぜえぜえと肩で息をする。
「では……結果発表!」
パパりんが持ってきた体重計と皿の重さを駆使して、ママりんが計測する。
――1位、かおりん(明らかに1.2キロ以上消費)
――2位、しおりん(1キロくらい)
――3位、タカシ(850gくらいでギブ)
「か、かおりん……おそろしい子……!」
「ふふふ、だてにスイーツバイキング行ってないもん♪」
「くそっ……こんな……しおりの前でこんな……」
……ん?何か聞いちゃいけないことを聞いたような……
タカシは、完敗という顔でクッションに倒れ込んだ。
その様子を見ながら、私は静かにほほ笑む。
――やっぱり、うちのかおりんが最強だ。
「しおりん、あとでパフェ半分こしよ?」
「うん、もちろん」
かおりんが一番可愛い。それだけは、絶対に揺るがない事実だ。