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第61話「暑い」

 7月の初旬。梅雨が明けたのか真っ只中なのかわからないけど、ただひたすら暑い、暑い、暑い。今日の街は、まるでオーブンの中に放り込まれたみたいに暑い。


 リビングの扇風機が首を振って弱々しい風を送る中、わたし――しおりんと妹――かおりんはソファにぐでーっと溶け込むように寝転がっていた。エアコンはママりんが「節電!」と厳命したせいでオフ。窓は全開だけど、熱風しか入ってこない。


 わたしはタンクトップにショートパンツ、汗で少し張り付いた髪を無造作にまとめている。かおりんはゆるいTシャツにハーフパンツ、膝を抱えてソファの端で丸まってるけど、時折「うう、暑い……」と呻く。扇風機の風がTシャツの裾を揺らし、ちらっと白いお腹が覗いている。


「しおりん、動きたくない……座道部も夏休みでいいよね?」


 かおりんが、ソファに顔を埋めながらぼそぼそ言う。声はいつもより元気がないけど、どこか甘えた響きがある。


「んー、座道の心は『暑さにも負けず姿勢を正す』……とか言いたいけど、無理。今日はもう、だらけ部でいいよ」


 わたしはそう言いながら、ソファの上でゴロリと寝返りを打つ。かおりんがチラッと見て、すぐに目を逸らして頬を膨らませる。タンクトップが少しずり上がって、汗で光る腰のラインが露わになっていたらしい。


「しおりん、だらしないよ! 座道の創始者なのに!」


 かおりんが抗議するけど、自分もソファに沈み込んで、膝の裏に汗がたまるのを感じながらうーっと唸る。Tシャツの首元が緩んで、鎖骨のあたりが汗でしっとり光ってる。わたしはそれを見て、なぜか喉がカラカラになる。


「かおりんこそ、部長なのにそんなぐでぐででいいの? 奈々りんやゆはりんが見たら泣くよ?」


 わたしがからかうように言うと、かおりんはムッとして身を起こす。動きでTシャツがさらにずれて、肩がぽろっと見える。白い肌に汗が一筋、鎖骨から胸元へ流れていく。思わずゴクンと唾を飲み込んで、扇風機の風に顔を向ける。


「うう、だって暑いんだもん……。ねえ、しおりん、なんか涼しくなることしようよ」


 かおりんがソファからずり落ちそうになりながら、甘えるように言う。彼女の髪が汗で首に張り付いて、いつもよりちょっと大人っぽく見える。心臓がドクンと鳴るのを感じながら、冷蔵庫を指差す。


「アイス食べよっか。ママりんが買いだめしてたやつあるよ」


 かおりんがパッと目を輝かせる。


「しおりん、天才!」


 でも、立ち上がろうとしてすぐに「うー、動きたくない……」とまたソファに沈む。仕方なく自分も重い腰を上げる。冷蔵庫から棒アイスを二本持ってきて、かおりんに一本渡す。


 棒アイスを咥えたかおりんは、ソファに寝そべったまま舌でちろちろ舐める。溶けたアイスが唇の端から顎に垂れて、彼女は無意識に指で拭うけど、その仕草がやけに色っぽい。自分のアイスを噛みながら、視線をテレビの天気予報に固定しようとするけど、かおりんの唇が動くたびに目が勝手にそっちに行く。


「しおりん、なにボーッとしてるの? アイス溶けるよ?」


 かおりんが笑いながら言う。彼女はアイスを口から離し、溶けた滴を指で掬って舐める。心臓がまたドクン。扇風機の風が、かおりんのTシャツをふわっと持ち上げて、ほんの一瞬、下着の縁が見える。わたしは慌てて目を逸らし、アイスをガリッと噛む。


「か、かおりん、食べ方エロいよ! 気をつけなよ、ゆはりんとかに見られたら誤解されるって!」


 ちょっと焦った声で言うと、かおりんはキョトンとして、すぐにニヤッと笑う。


「えー、しおりん、なにエロいって! 変な目で見てるの、しおりんじゃん!」


 かおりんがソファの上で身を起こし、わざとアイスをゆっくり舐めながら近づく。彼女の膝がわたしの太ももに軽く触れて、汗ばんだ肌同士がくっつく感触に、思わずビクッとする。


「ちょ、かおりん、近いって! 暑いから離れてよ!」


 抗議するけど、声がちょっと上ずってしまう。かおりんは悪戯っぽい笑顔で、さらに少し身を寄せる。Tシャツの裾がめくれて、彼女の柔らかなお腹がまたチラリ。わたしは顔が熱くなるのを感じて、ソファの端に逃げる。


「ふふ、しおりん、顔赤いよ? 暑さのせい? それとも……?」


 かおりんがからかうように言うけど、彼女自身の頬もほんのりピンクに染まってる。扇風機の風が二人の髪を揺らし、汗とアイスの甘い匂いが混ざる。部屋の中は暑いのに、なんだか妙な緊張感が漂ってる。


「もう、かおりん、からかうのやめなよ! ほら、ゲームでもしよう! 座道式マリオカートとか!」


 話題を変えようと焦って言うけど、かおりんはクスクス笑いながらソファにまた寝そべる。Tシャツがずり上がって、腰のくびれがくっきり見える。わたしはコントローラーを手に持つけど、指がちょっと震える。


「んー、ゲームもいいけど、動くのめんどい……。ねえ、しおりん、背中流してよ。汗でベタベタなの」


 かおりんが甘えた声で言う。彼女はソファの上でうつ伏せになり、Tシャツを少したくし上げる。汗で光る背中が、扇風機の風に揺れるカーテンの影と一緒に、なんだか妙に艶めかしい。


「え、背中!? 自分で洗いなよ、シャワー浴びなって!」


 わたしが慌てて言うけど、かおりんは「えー、しおりんにお願いしたいなー」と唇を尖らせて、子犬みたいな目で見てくる。心の中で「座道の心、座道の心」と唱えながら、仕方なくタオルを取りに行く。


 タオルを濡らして戻ってきて、かおりんの背中にそっとタオルを当てる。冷たいタオルが汗ばんだ肌に触れると、かおりんが「ひゃっ、冷たい!」と小さく声を上げるけど、すぐに「ん……気持ちいい……」と目を閉じる。タオルを動かすたび、かおりんの背中の柔らかな曲線にドキドキする。汗とタオルの水滴が混ざって、彼女の肌がキラキラ光ってる。


「しおりん、もっと優しくやってよ……」


 かおりんが、ちょっと甘えた声で囁く。「はいはい」と言いながら、タオルをゆっくり滑らせるけど、指先がかおりんの腰に触れるたび、心臓がバクバクする。かおりんの呼吸が少し速くなって、わたしの手の下で小さく身じろぎする。


「か、かおりん、動かないでよ、ちゃんと拭けないじゃん!」


 わたしが顔を真っ赤にしながら声を少し大きくして言う。かおりんはクスクス笑いながら、振り返ってわたしを見る。その目は、暑さのせいか、なんだかいつもより潤んでる。


「しおりん、顔やばいよ。ほんと、暑さのせい?」


 かおりんがニヤニヤしながら言う。彼女は身を起こして、ぐっと近づいてくる。汗とアイスの匂いが、鼻をくすぐる。二人の距離が近すぎて、わたしは思わず後ずさるけど、ソファの端で逃げ場がない。


「もう、かおりん、からかうのやめなって! ほら、ゲーム! ゲームするよ!」


 コントローラーを振り上げるけど、かおりんは笑いながらわたしの腕をつかむ。汗ばんだ手がわたしの肌に触れて、二人とも一瞬、動きが止まる。


「しおりん、だいすきだよ」


 かおりんが、ぽそっと言う。声は小さくて、暑さでぼんやりした空気に溶けそう。わたしは胸がぎゅっと締め付けられるのを感じて、思わずかおりんの額にキスする。


「私も、かおりん、だいすき」


 わたしが囁くと、かおりんはニコッと笑って、ソファにまたぐでっと寝そべる。扇風機の風が二人の髪を揺らし、暑い部屋の中で、なんだか少しだけ涼しい気持ちになる。


「ねえ、しおりん、次は座道式アイス早食い勝負!」


 かおりんが急に元気になって言う。わたしは笑いながら、「正座で!?」と突っ込む。


窓の外では、蝉の声が遠くで響き始めていた。暑い夏の日、姉妹の笑い声がリビングに響いた。

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