第57話「買い物デート」
六月の土曜、梅雨前のカラッとした陽気が気持ちいい昼下がり。
大学の座道部は今日はお休みで、ひかりんと二人で街に買い物に出かけた。なんか、ひかりんと二人きりで出かけるの、初めてかもって思うと、胸がちょっとドキドキする。
駅前のショッピングモールは人で賑わってて、ガラス張りのお店やカラフルなディスプレイがキラキラしてる。風がそよそよ吹いて気持ちいい!
「しおりん、買い物デートいいね!」
ひかりんが、イケイケな笑顔で言う。彼女のショートデニムの裾から伸びる足がめっちゃ健康的で、ドキッとする。
「うん、なんか新鮮! ひかりんと二人、どんな感じになるかな?」
わたしが、ポニーテールを揺らしながらニコッと笑う。白いシャツの袖をまくって、今日はちょっと軽やかな気分。
「ふふ、きっと楽しいよ!最後までいっちゃう?」
ひかりんが拳を握って気合入れ、太陽みたいに眩しく笑ってる。
「最後?世界が滅亡しちゃうってこと?」
「違う違う、あはは」
*
最初に雑貨屋に突撃。カラフルな文房具やキラキラしたアクセサリーが並んでて、なんか目移りしちゃう。ひかりんが、棚からキラキラのヘアピンを手に取る。
「しおりん、これ似合いそう! ポニーテールにつけたら、めっちゃ映えるぜ!」
ひかりんが、わたしの髪にヘアピンをそっと当ててみる。彼女の指が髪に触れる瞬間、ちょっと顔が熱くなった。
「ひ、ひかりん、似合うかな?」
わたしが、照れながら言うと、ひかりんが
「めっちゃカワイイ! しおりん、モデルみたい!」
ってニヤッと笑う。なんか、褒められると胸がくすぐったい。
次は服屋へ。ひかりんが、派手な色のTシャツを手に取って、鏡の前で合わせてみる。タンクトップの肩がチラリとずれて、彼女の鎖骨がキラッと光る。
「しおりん、ここの服は落ち着いたのもあるよ! これ、どう?」
ひかりんが、シンプルな白いブラウスを手に持って、わたしに差し出す。
「うわ、いい感じ! ひかりん、センスいいね!」
わたしが、ブラウスを受け取って試着室のカーテンを引く。
「しおりん、めっちゃ大人っぽい! 座道の極意その九:服も心も、シンプルに美しく!」
着替えて出てくると、ひかりんが大げさに言うから、二人でケラケラ笑ってしまった。
*
買い物の後は、フードコートでタピオカミルクティーを買って、ベンチに座って一休み。モールのガラス屋根から差し込む陽光が、テーブルの上にキラキラした模様を描いてる。
「しおりん、タピオカ美味しいね! 座道式で飲むなら、正座でストロー?」
ひかりんがストローをくわえる姿、なんかカッコいい。
「ハハ、正座でタピオカはキツいって! でも、ひかりんとこうやって飲むの、楽しいよ!」
わたしが、ミルクティーをちびちび飲みながら言う。
「ちょっと味見いい?」
っと言って、わたしのタピオカにストローを差し込む。
「あっ!」
「こっちも美味しいね。2人で飲も」
「う、うん……」
――2人で同じの飲むなんて、恋人みたいじゃん……やばい。
2人で同じタピオカを飲みながら目が合う。ひかりんの目は、いたずらっぽく笑ってる。
「ねえ、ひかりん、次どこ行く? アクセサリー見る? それとも、本屋?」
わたしが、ドキドキを隠して言う。
――最後どうなっちゃうの?
ひかりんがタピオカのストローを離し、ちょっと企むような笑顔でわたしの顔を覗き込む。
「本屋、いいね! しおりん、読書好きだし、なんか面白い本見つけようよ! 座道部流の極意その十:知識は心の筋肉!」
「ハハ、ひかりん、座道の極意、どんどん増えてくね! よし、じゃあ本屋行っちゃおう!」
わたしはミルクティーのカップを手に、ひかりんと一緒にフードコートを後にする。モールのエスカレーターを登りながら、ひかりんが急にわたしの肩をポンと叩く。
「しおりん、今日さ、なんかいつもよりキラキラしてるよ。デート効果?」
「え、ひかりん、急に何!? キラキラって…ただの汗じゃない?」
わたしは照れ隠しに笑いながら、頬を軽く手で押さえる。ひかりんは「ふふ、汗でもキラキラだよ!」とウインクしてくる。――もう、ひかりんのペースに完全に巻き込まれてる!
*
本屋に到着すると、紙とインクの匂いがふわっと鼻をくすぐる。広い店内には、色とりどりの本が棚にぎっしり。ひかりんは早速、漫画コーナーに突進。
「しおりん、こっちこっち! この漫画、めっちゃ熱いんだから!」
ひかりんが手に持ってるのは、ド派手な表紙のアクション漫画。わたしはちょっと笑いながら、隣の棚で文芸書の背表紙を眺める。
「ひかりん、漫画もいいけど、わたしこっちの小説気になってるんだよね…」
わたしが手に取ったのは、淡い水色の表紙の恋愛小説。タイトルが「君と過ごす六月の空」で、なんか今日の気分にぴったり。ひかりんがわたしの肩越しに覗き込んでくる。
「お、しおりん、ロマンチックな気分? ふふ、どんな話か読んでみなよ! 恋愛小説読むしおりん、想像するだけでカワイイ!」
「もう、ひかりん、からかわないでよ!」
わたしは顔を赤くしながら、そそくさと本を棚に戻す。でも、ひかりんが「いや、買っちゃえよ! 絶対面白いって!」と煽ってくるから、結局その小説をカゴに入れちゃった。
ひかりんも漫画を一冊選んで、二人でレジへ。店員さんが本を袋に入れてくれる間、ひかりんがわたしの耳元で囁く。
「しおりん、その小説読んだら、感想教えてね。もしかして、恋愛の極意も学べるかも?」
「ひかりん、極意って座道だけにして!」
二人でケラケラ笑いながら、本屋を後にする。
*
本屋を出た後、モールの屋上にある小さなガーデンスペースに移動。そこは人工芝が敷いてあって、木製のベンチが点在する、ちょっとしたオアシスみたいな場所。六月の風がそよそよ吹いて、遠くで子供たちの笑い声が聞こえる。
「しおりん、ここ気持ちいいね! ちょっと座ろっか!」
ひかりんがベンチにドカッと座り、買った漫画をバッグから取り出す。わたしは隣にちょこんと座って、さっき買った小説を手に持つ。
「ひかりん、漫画すぐ読むの?」
「そ! 熱いうちに読みたいじゃん! しおりんも小説読む? 二人で並んで読書デート、めっちゃいい感じじゃね?」
「読書デートか…なんか、ほんとデートっぽいね」
わたしがちょっとドキッとしながら言うと、ひかりんがわたしの肩に軽く頭を乗せてくる。
「だろ? しおりんとこうやってるの、なんか落ち着くんだよね」
――え、ひかりん、急にどうしたの!?
わたしの心臓がバクバクするけど、ひかりんは全然気にせず、漫画をパラパラめくり始める。
「ひかりん、さっきからデートデートって…ほんとにデートみたいじゃん」
わたしが小さな声で呟くと、ひかりんがパッと顔を上げて、ニヤッと笑う。
「ん? しおりん、照れてる? ふふ、じゃあさ、ほんとにデートっぽくしちゃう?」
「え、ど、どんな感じ!?」
わたしが慌てて聞くと、ひかりんがベンチから立ち上がって、急にわたしの手を引く。
「ほら、しおりん、手つなぐよ! デートっぽく街歩こう!」
「え、ひかりん、待って、急に!?」
わたしの手をギュッと握るひかりんの掌……温かい。彼女の笑顔が太陽みたいで、ついわたしも笑っちゃう。
「よし、じゃあ次はアクセサリーショップ行こう! しおりんに似合うピアス探すよ!」
ひかりんがわたしの手を引いて、モールの階段を駆け下りる。わたしはポニーテールを揺らしながら、必死でついていく。
――ひかりんと手つないで歩くなんて、ほんと恋人みたい…!
*
アクセサリーショップに着くと、キラキラしたピアスやネックレスがずらり。ひかりんは真剣な顔でショーケースを覗き込み、店員さんに「これ、試着できますか?」と聞く。
「しおりん、こっちのシルバーのピアス、めっちゃ似合いそう! つけてみなよ!」
ひかりんが小さな星型のピアスを手に持って、わたしの耳元に近づける。彼女の指が耳に触れる瞬間、また顔が熱くなる。
「ひかりん、ほんとにセンスいいね…これ、かわいい!」
わたしが鏡でピアスを確認すると、ひかりんが後ろから「ほら、めっちゃしおりんっぽい! 大人っぽくてさりげない感じ!」と褒めてくれる。
「じゃあ、これ買っちゃおうかな…ひかりん、ありがとう!」
わたしがレジでお会計してる間、ひかりんも自分の分で小さなブレスレットを購入。店を出ると、彼女がブレスレットをわたしの手首にそっとつけてくれる。
「お揃いっぽくしてみた! しおりんとリンク、いい感じじゃん?」
ひかりんのブレスレットとわたしのピアス、どことなく似たデザイン。
――リンクって、なんか特別な感じ!
「ひかりん、ほんと今日、楽しすぎ…!」
わたしが笑顔で言うと、ひかりんが急に真剣な顔でわたしの目を見る。
「しおりん、さ。今日、ほんとにデートだったら、どう思う?」
「え…!? ひかりん、急に何!?」
わたしの心臓がまたバクバク。ひかりんはちょっと照れたように笑って、髪をかき上げる。
「いや、なんかさ、しおりんとこうやってると、ほんとに楽しくて…。座道部以外でも、こうやって二人で過ごすの、いいなって」
――ひかりん、ストレートすぎだよ…!
わたしが言葉に詰まってると、ひかりんがまたいつもの明るい笑顔に戻る。
「ま、考えすぎは座道の敵! ほら、しおりん、次はアイス食べて帰ろうぜ!」
「う、うん! アイス、いいね!」
わたしはドキドキを隠しながら、ひかりんと並んでアイス屋さんに向かう。夕暮れのモールはオレンジ色に染まり始めて、二人を優しく包み込む。
*
アイス屋で、ひかりんはチョコミント、わたしはストロベリーを注文。ベンチに座ってアイスを食べながら、二人で今日の買い物を振り返る。
「しおりん、今日の戦利品、いい感じだよね! あのピアス、座道の練習でもつけてきなよ!」
「ハハ、座道でピアスって、なんか新鮮かも! ひかりんのブレスレットも、めっちゃ似合ってるよ!」
ひかりんがブレスレットをチラッと見て、ニコッと笑う。
「しおりん、今日、ほんと楽しかった。次はさ、座道部オフの日、また二人でどっか行こうよ!」
「うん、絶対! ひかりんとだったら、どこ行っても楽しいよ!」
わたしが笑顔で言うと、ひかりんがわたしの肩を軽くポンと叩く。
「よし、決まり! 座道部流デート、第二弾、乞うご期待!」
二人で大笑いしながら、アイスを食べ終える。夕陽がモールのガラスに反射して、キラキラと輝く。
――ひかりんと過ごす六月、ほんと、最高。




