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第53話「紙飛行機」

 六月の昼下がり、高校の座道部の部室は、梅雨前の柔らかな陽光が窓から差し込み、畳に温かな光を投げかけていた。少し湿った風がカーテンを揺らし、遠くで運動部の掛け声が響く。奈々りん、ゆはりんと三人で、畳に座ってコンビニのアイスティーをちびちび飲んでた。ゆるっとした空気の中、なんだか心がそわそわする。


「ねえ、今日、なんか面白いことやろうよ!」


 私が、アイスティーのストローをくわえながら言う。奈々りんが、ショートカットをパタッと揺らして、目をキラッとさせる。


「面白いこと? かおりん、どんなアイデア?」


 奈々りんが身を乗り出す。相変わらずガードの甘い彼女は、Tシャツが少しずれたまま、肩のラインがチラリと見えている。キレイな肩に陽光が反射して妙にまぶしい。


「うーん、座道式紙飛行機はどう?」


 私がひらめいて、テーブルのメモ用紙を手に取る。


「紙飛行機!? 座道でどうやるの?」


 ゆはりんが、ちっちゃい体で正座しながら、目を丸くして言う。彼女のスカートは身体に比べて大きいので畳に広がり、夕陽に照らされた裾がふわっと揺れている。


「ルールは簡単! 正座したまま、紙飛行機を作って、姿勢を崩さずに飛ばすの。一番遠くまで飛んだ人が勝ち! 音を立てたり、姿勢が崩れたらアウトね!」


 私がニコッと笑うと、奈々りんとゆはりんが「面白そう!」って目を輝かせる。



「じゃ、まず紙飛行機作りから! 座道の心で、丁寧にね!」


 私がメモ用紙を配りながら言う。三人で正座して、畳の上で紙を折り始める。


 座道部の心得その一:どんな遊びでも、心を整えて、姿勢は美しく。


 奈々りんが紙を折るたびに、Tシャツの袖が少しずり上がってショートカットがパタパタ揺れる。


「かおりん、めっちゃ真剣! どんな飛行機作ってるの?」


 奈々りんが、ニヤッと笑いながら言う。


「ふふ、奈々りんこそ、めっちゃ器用じゃん! 絶対飛びそう!」


「でしょ? 座道の極意その七:紙も心も、折り目は正しく!」


奈々りんは、ちょっと大げさに言うから、クスクス笑っちゃう。


 ゆはりんは、ちっちゃい手で丁寧に紙を折ってる。あまりに夢中になりすぎて、スカートが少しまくれて、膝の柔らかなラインが見えてしまう。


 ──うーん、ガードが甘い。なんて愛らしいんだ。


「ゆはりん、めっちゃ丁寧! さすが元茶道部!」


「ひゃっ、かおりん、集中させてください!」


 私が褒めると、ゆはりんは頬を赤くして囁く。

 その恥ずかしそうな声ときたら……。



 紙飛行機が完成して、飛ばす時間。部室の窓を全開にして、畳の上で正座したまま、飛ばす準備をする。


「じゃ、最初は私から! せーの!」


 私が、姿勢を崩さないように、そっと紙飛行機を飛ばす。スーッと、飛行機が部室の奥まで飛んで、障子の近くに着地。


「うわ、かおりん、めっちゃ遠くまで飛んだ!」


 奈々りんが、拍手しながら言う。


「よーし、次、奈々りん!」


 私が言うと、奈々りんが正座のまま、軽く腰を揺らして飛行機を飛ばす。


 ──腰の動きがいやらしいんですけど……。


 飛行機は私のよりちょっと遠くまで飛んで、障子にそっと当たった。


「やった! かおりん、超えた!」


 奈々りんが、ピースサインでニヤリ。笑顔が夕陽を反射してキラキラ輝いてるよ。


「ゆはりん、行くよ!」


 ゆはりんが、ちっちゃい体で慎重に飛行機を飛ばす。飛行機は少し短めに飛んだけど、彼女の真剣な顔が本当に愛らしい。


「うう、ちょっと短かった……!」


「めっちゃ頑張ったよ!」


 ゆはりんが、恥ずかしそうに言うけど、奈々りんと私が拍手する。



 二回目はチーム戦にアレンジ。私と奈々りんがペア、ゆはりんが一人で挑戦。交互に飛ばして、合計距離で競うルール。


「かおりん、奈々りん、負けないよ……!」


 ゆはりんが、ちっちゃい拳を握って言う。その健気な姿に、可愛くても負けられないって気持ちが湧く。


「ふふ、ゆはりん、受けて立つよ! 行くよ、奈々りん!」


 私が飛行機を飛ばすと、奈々りんが続く。心臓がバクバク。


 ゆはりんも、負けじと飛行機を飛ばす。彼女のロングヘアがふわりと舞い、スカートが軽く揺れる。


 結果、私と奈々りんのペアが僅差で勝利! 畳の上で、二人でハイタッチして大盛り上がり。


「かおりん、最高のパートナー!」


 奈々りんが、私の肩をポンと叩く。その温もりに、胸がじんわり温かくなる。


「奈々りんもすごかったよ! さすが運動神経抜群!」


 私が笑いながら、奈々りんの頭をくしゃっと撫でる。


「ゆはりんも、めっちゃ頑張った! 次は絶対勝つよ!」


 ゆはりんが、ちっちゃい笑顔で言う。



「ねえ、奈々りん、ゆはりん」

 私が、ちょっと真剣な声で言う。


「ん? なに?」

 奈々りんが、目を向けてくる。


「こういう時間、ずっと続けたいね。座道部、最高じゃん!」


 ゆはりんが、ちっちゃい笑顔で頷く。「うん、ずっと……!」


 奈々りんも、ピースサインをしながら


「絶対! 次はもっとすごいゲーム考えるよ!」


 私は笑いながら、二人と目を合わせる。奈々りん、ゆはりん、しおりん、ひかりん。座道部のみんなと、これからもこんな笑顔の時間が、ずっと続きますように。


 窓の外では、六月の夜風がそっとカーテンを揺らしていた。私は、今日の楽しさを胸に、明日もまた座道部に来るんだって、ワクワクしながら思った。

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