第52話「フラフープ」
六月の夕暮れ、大学の和室は、梅雨前の柔らかな風が窓からそっと流れ込む、穏やかな空気に包まれていた。夕陽が畳にオレンジ色の光を投げかけ、部室に温かな雰囲気を漂わせる。映画研究会内座道部の活動日だったけど、今日は特に予定がなく、ひかりん、山野くん、安達さんと一緒に、いつものように畳に座ってゆるっとした時間を過ごしていた。
「ねえ、しおり、今日、何か面白いことやらない?」
ひかりんが、いつものイケイケな笑顔で言う。彼女は正座しながら、軽く肩を揺らしてリズムを取ってる。
「面白いこと? うーん、座道っぽいのがいいよね」
私はお茶をすすりながら、頭の中でアイデアをぐるぐる。ふと、部室の隅に転がってる古いフラフープが目に入った。あれ、たしか去年の学祭で使ったやつだ。
「ねえ、フラフープはどう?」
私が提案すると、みんなが一斉に「え!?」って顔でこっちを見る。
「フラフープ!? それ、座道でどうやるの?」
山野くんが、ちょっと戸惑いながら言う。
「ルールは簡単! 正座したまま、フラフープを腰で回すの。姿勢を崩さず、音を立てないように、10回連続で回せたら勝ち! 座道の集中力とバランスの勝負だよ」
私はニコッと笑って、フラフープを手に取る。
「しおりん、めっちゃ斬新! やるやる!」
ひかりんが目をキラキラさせて、さっそく畳の上で正座の位置を整える。
「うわ、なんか難しそう……でも、面白そう!」
安達さんが、ふわっとした笑顔で言う。彼女のロングヘアが畳に広がって、夕陽にキラキラ光ってる。
「よし、じゃあ、まずは私から!」
私はフラフープを手に、畳の真ん中で正座する。背筋をピンと伸ばして、座道の心で集中。
*
「せーの、スタート!」
ひかりんが元気よく合図を出す。私はフラフープを腰に当て、そっと回し始める。正座のまま腰を小さく動かすの、めっちゃ難しい! フラフープがカタカタと畳に当たらないよう、慎重にリズムを取る。
「しおり、めっちゃいい感じ! 姿勢バッチリ!」
ひかりんが、拍手しながら応援してくれる。
1回、2回、3回……5回まで回せた! けど、6回目でフラフープが傾いて、畳にカタンと落ちちゃった。
「うっ、アウト!」
私が悔しそうに言うと、山野くんが「5回でもすごいよ!」と笑う。
「よーし、次は私!」
ひかりんがフラフープを手に、正座で構える。彼女の動きはキビキビしてて、さすがイケイケ系。フラフープがスムーズに回り始める。
「うわ、ひかりん、めっちゃ上手い!」
安達さんが、目を丸くして言う。
ひかりんの大きな胸がささえになって、落ちない。これはスゴイ。
それでも7回まで回して、8回目でフラフープが落ちた。
「くっ、惜しい! しおりん、超えられなかった!」
ひかりんが、笑いながら畳にぺたんと座る。
「次、安達さん!」
私がフラフープを渡すと、安達さんがちょっと緊張した顔で正座。彼女の柔らかな動きで、フラフープがゆっくり回り始める。4回目で落ちちゃったけど、彼女の真剣な顔がかわいい。
「安達さん、めっちゃ頑張った! 姿勢、めっちゃ綺麗だったよ!」
私が言うと、安達さんは「うう、ありがとう……!」と頬を赤くして微笑む。
「よし、俺もやるぞ!」
山野くんが、気合を入れてフラフープを手に持つ。正座の姿勢で、ちょっとぎこちなく回し始めるけど、2回目でフラフープが盛大に畳に落ちて、みんなで大笑い。
「山野くん、集中力足りないよ~!」
ひかりんが、からかうように言うと、山野くんは「ぐっ、次は絶対10回行くから!」とムキになる。
*
二回目の挑戦。今度はチーム戦にしてみた。私とひかりん、対、安達さんと山野くん。交互に回して、合計20回で競うルール。
「しおりん、ひかりん、負けないよ!」
安達さんが、珍しく闘志を燃やして言う。そのキラキラした目に、なんだかドキッとする。
「ふふ、受けて立つよ! 行くよ、しおりん!」
ひかりんが、フラフープを手に気合を入れる。私は正座で構えて、最初の5回を回す。カチカチと軽い音が響き、なんとか成功!
ひかりんにパスすると、彼女もキビキビした動きで6回回す。
「うわ、しおりん、ひかりん、息ピッタリ!」
山野くんが、感心したように言う。
安達さんと山野くんのチームも頑張るけど、山野くんがまた3回目で落としちゃって、みんなで「またか!」と笑い合う。安達さんは5回回して、姿勢がめっちゃ綺麗。
「安達さん、めっちゃ座道っぽいよ!」
私が言うと、安達さんは「え、ほんと? 嬉しい!」とニコッと笑う。
*
結局、私とひかりんのチームが先に20回を達成して勝利! 畳の上で、二人でハイタッチして大盛り上がり。
「しおりん、最高のパートナーだよ!」
ひかりんが、私の肩を抱きながら言う。その明るい笑顔に、胸がじんわり温かくなる。
「ひかりんもすごかったよ!」
私は笑いながら、ひかりんの頭をくしゃっと撫でる。
「いやー、負けたけど、めっちゃ楽しかった!」
山野くんが、畳に寝転がりながら言う。
「次は絶対リベンジするからね!」
安達さんが、ちっちゃい拳を握って言う。その健気な姿に、みんなでクスクス笑う。
*
「ねえ、しおりん」
ひかりんが、急にちょっと真剣な声で言う。
「ん? なに?」
「次はもっとすごい座道式ゲーム、考えよう!」
私は笑いながら、ひかりんと目を合わせる。ひかりん、山野くん、安達さん、かおりん、奈々りん、ゆはりん。座道部のみんなと、これからもこんな笑顔の時間が、ずっと続きますように。
窓の外では、六月の夜風がそっと障子を揺らしていた。私は、今日の楽しさを胸に、明日もまた座道部に来るんだって、ワクワクしながら思った。




