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第51話「縄跳び」

 6月の別な日の放課後、座道部の部室は梅雨の湿気でちょっとじっとりしていた。窓の外では、雨上がりの校庭が薄い陽射しにキラキラ光ってる。今日は運動部の活動も雨で中断だったみたいで、学校全体が静か。


 私、奈々りん、ゆはりんの三人で部室に集まって、いつものお茶会をしてたんだけど、なんとなく体を動かしたい気分だった。


「ねえ、なんか今日は座りっぱなしだと、体がなまりそう」


 私がアイスティーを飲みながら呟くと、奈々りんがショートカットの髪をぱらっと揺らして振り返る。


「そうだね。雨のせいで外で遊べないし、なんか体がうずうずするよ」


「でも、部室は狭いですし……どうしましょう?」


 ゆはりんがロングヘアを指でくるくるしながら、ちょっと困ったような表情。彼女のちっちゃい体が、畳の上で正座してる姿は、いつ見ても可愛い。


 そのとき、ふと思いついた。


「ねえ、座道式で『縄跳び』やらない?」


「縄跳び!?」


 奈々りんとゆはりんが、同時に目を丸くする。


「うん! でも普通の縄跳びじゃないよ。座道式だから……正座したまま縄跳びするの!」


「か、かおりん、それどうやるの?」


 ゆはりんが、ちょっとドキドキした顔で聞いてくる。


「ルールは簡単! 正座の姿勢を保ったまま、縄が来たら上半身を少し浮かせて避けるの。立ち上がったり、姿勢を崩したりしたらアウト! 座道の心を保ちつつ、リズム感の勝負!」


 私が説明すると、奈々りんが目をキラキラさせる。


「面白そう! でも縄跳びの縄なんて、ここにあるの?」


「ふふ、大丈夫! 体育の準備室から借りてくるよ!」



 縄跳びの縄を借りてきて、部室に戻ると、奈々りんとゆはりんが畳の上で待ってた。二人とも、何となくそわそわしてる感じ。


「よし、じゃあ最初は私が縄を回すから、二人で挑戦してみて!」


 私は縄の両端を持って、奈々りんとゆはりんに向かい合って立つ。二人は畳の上で、きちんと正座の姿勢を作ってる。


「準備いい? じゃあ、ゆっくりから始めるね」


 私は縄をゆっくり回し始める。縄が床に触れるくらいの低い位置で。


「せーの!」


 縄が二人の前を通り過ぎる。奈々りんとゆはりんは、正座したまま上半身をちょっと浮かせて縄を避ける。


「おお、上手い!」


 私が感心すると、奈々りんがニッコリ笑う。


「意外といけるじゃん!」


 でも、ゆはりんはちょっと緊張してる様子。縄を避けるとき、スカートの裾がひらっと揺れる。慌てて片手でスカートを押さえる彼女の仕草が、なんだか可愛いらしい。


「ゆはりん、大丈夫?」


「は、はい! ちょっと恥ずかしいですけど……」


 ゆはりんが頬を桜色に染めて、小さく答える。その表情がまた愛らしくて、思わず見とれてしまう。


「じゃあ、少しずつスピード上げてくよー!」


 私は縄を少し速く回し始める。二人とも、正座の姿勢を保ちながら、リズムよく上半身を浮かせる。


「なんか、これ意外と体幹使うね」


 奈々りんが、ちょっと息を弾ませながら言う。彼女のTシャツが動きに合わせて少し上がって、平たいお腹がちらっちらっと見えてしまう。


「そう! だから座道の修行になるんだよ!」


 私は縄を回しながら答えるけど、なんか今日は二人の動きに目が行っちゃって、集中するのが難しい。


 そのとき、縄のスピードがちょっと速くなりすぎて、ゆはりんが「きゃっ!」と小さく叫んだ。縄を避けきれずに、正座の姿勢が崩れて畳にぺたんと座り込む。


「ゆはりん、大丈夫?」


 私は慌てて縄を止めて、彼女に駆け寄る。


「はい、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけで……」


 ゆはりんが上目遣いで答える。ロングヘアが少し乱れて、頬がほんのり紅潮してる。その姿があまりにも綺麗で、思わず息を呑む。


「ゆはりん、めっちゃ頑張ってたよ! 次は私が挑戦するから、奈々りんが縄回して」


「了解! かおりん、私に任せて!」


 奈々りんが元気よく縄を受け取る。



 今度は私が正座して、奈々りんが縄を回す番。ゆはりんは畳の端で、アイスティーを飲みながら見守ってる。


「かおりん、準備いい?」


「うん、いつでも!」


 私は正座の姿勢を整えて、深呼吸する。奈々りんが縄を回し始める。


 最初はゆっくりとしたリズム。縄が床を這うように通り過ぎるたび、私は上半身を浮かせて避ける。座道の心を保ちながら、リズムに合わせる感覚が心地いい。


「かおりん、めっちゃ上手いじゃん!」


 奈々りんが感心したような声を上げる。彼女の笑顔を見てると、なんだか嬉しくて、もっと頑張ろうって気持ちになる。


「さすが部長!」


 ゆはりんも拍手してくれる。


 だんだんスピードが上がってくる。でも、私は座道の極意その五:心静かに、動乱を制す、を思い出して、落ち着いてリズムをキープ。


「うわ、かおりん、全然乱れない!」


 奈々りんがびっくりしたような声を出す。


「ふふ、座道部部長の実力を見せてあげる!」


 私は得意げに答えるけど、そのとき縄のスピードがさらに上がった。今度は結構本格的な速さ。


「うわっ!」


 私は必死に上半身を浮かせるけど、だんだんバランスを保つのが難しくなってくる。


「かおりん、頑張って!」


 ゆはりんが応援してくれる声が聞こえる。


 そのとき、奈々りんの回す縄が、ちょっと高めに来た。私は反射的に上半身を大きく浮かせようとしたんだけど――


「きゃっ!」


 バランスを崩して、畳に倒れ込んでしまった。しかも、奈々りんも縄に足を取られて、私の上に倒れかかってきた。


「あっ!」


 気がつくと、奈々りんが私の上に覆いかぶさるような格好になってた。彼女の顔が、すごく近い。ショートカットの髪が私の頬に触れて、温かい息が肌にかかる。


「ご、ごめん、かおりん!」


 奈々りんが慌てて体を起こそうとするけど、縄が足に絡まってて、うまく動けない。その拍子に、彼女の手が私の胸の辺りに触れてしまう。


「あっ…」


 私の顔が一気に熱くなる。奈々りんの手の温もりが、制服のブラウス越しに伝わって、心臓がドキドキと激しく鳴る。


「か、かおりん、大丈夫?」


 ゆはりんが慌てて駆け寄ってくる。その動きで、彼女のスカートがひらっと舞って、ピンクのレースがちらっと見えた。


「だ、大丈夫、大丈夫…」


 私は顔を真っ赤にしながら答える。奈々りんもようやく縄をほどいて、私から離れる。


「ごめん、かおりん。怪我してない?」


 奈々りんが心配そうに私の手を取る。その指先が温かくて、また胸がドキッとする。


「うん、大丈夫だよ。奈々りんこそ、怪我してない?」


「私も大丈夫。でも、びっくりした…」


 奈々りんも顔を赤らめて、ちょっと恥ずかしそう。


「お、お二人とも、お疲れ様でした…」


 ゆはりんが、ちょっと上気した顔で声をかけてくれる。



 その後は、みんなで座り込んで、お茶会タイム。さっきのドキドキがまだ胸に残ってて、なんとなく空気がほんわか温かい。


「座道式縄跳び、めっちゃ面白かったね」


 私がアイスティーを飲みながら言うと、奈々りんがクスッと笑う。


「最後はちょっとハプニングだったけど、楽しかった」


「私も楽しかったです。なんか、心がほぐれました」


 ゆはりんが、ふわっとした笑顔で答える。


「でも、やっぱり座道って、心だけじゃなくて体も鍛えるものなんだね」


 奈々りんが、抹茶マフィンをかじりながら言う。


「そうそう! 座道の極意その九:心技体、すべてを統一せよ!」


「またその場で作った極意でしょ」


 奈々りんが笑いながらツッコむ。


「ばれた」


 私はペロッと舌を出して、みんなで大笑い。


 部室の窓から見える空は、雨上がりの薄い陽射しで、キラキラ光ってる。今日もまた、座道部で素敵な時間を過ごせた。


「今度は、座道式フラフープとかやってみない?」


 私が提案すると、奈々りんとゆはりんが「それも面白そう!」と目をキラキラさせる。


 座道の可能性は無限大。これからも、みんなで楽しい修行を続けていこう。


「でも、次はもうちょっと気をつけてやろうね」


 奈々りんが、ちょっと照れながら言う。


「うん、でも今日のハプニングも、いい思い出だよ」


 私が笑って答えると、ゆはりんも「そうですね」とニコニコ笑う。


 座道部の仲間たちとの時間は、いつも心をポカポカにしてくれる。今日みたいにちょっとドキドキすることがあっても、それはそれで青春っぽくて、悪くないなって思う。


 放課後の部室で、私たちの座道修行は今日も続いていく。

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