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第47話「TOEIC」

 6月が始まり、最初の日の朝、大学のキャンパスは新緑の香りに満ちていた。講義棟の窓から差し込む陽光が、廊下のタイルをキラキラと照らし、どこか清々しい空気が漂っている。今日はTOEICの学内受験日。映画研究会内座道部の仲間、ひかりんと一緒に、朝から少し緊張しながら試験会場に向かっていた。


「しおりん、めっちゃ真剣な顔してるね。TOEIC、ガチで挑むつもり?」


 ひかりんが、イケイケ系の笑顔で私の肩をポンと叩く。彼女の明るい声に、ちょっとだけ心が軽くなる。


「うん、だって、将来の夢のためには英語も大事だし……。集中して挑むよ!」


 私はカバンから単語帳を取り出し、歩きながらパラパラめくる。座道部の創始者として、心を整える姿勢は試験でも活かせるはずだ。


「さすかしおりん! そういや、座道の心でTOEICやると、どんな感じになるかな? 正座しながらリスニングとか?」


 ひかりんがクスクス笑いながら、冗談っぽく言う。


「うーん、さすがに試験会場で正座は無理だけど……心を静めて、姿勢を正して、問題に集中する感じかな」


 私は笑いながら答えたけど、内心、ちょっとドキドキしてる。TOEICは初めてじゃないけど、今回は目標スコア800点。気合を入れないと。



 試験会場は、大学の講義室の一つ。机と椅子が整然と並び、受験者たちが静かに席に着いている。私とひかりんは隣同士の席。試験官の説明が始まる前、ひかりんが小声で囁いてきた。


「しおりん、緊張してる? なんか、めっちゃ姿勢いいよ。座道部魂、感じるね!」


「ひかりん、からかわないでよ……。でも、緊張してるのは本当。リスニング、苦手なんだよね」


 私は苦笑いしながら、シャーペンを握る手に少し力を入れる。


「大丈夫、しおりんならいけるよ! 座道の極意その一:どんな試練も心を整えて乗り越える、でしょ?」


 ひかりんの言葉に、私は思わず笑顔になる。彼女の明るさが、いつも私を励ましてくれる。


 試験官が「開始」の合図を出すと、会場は一気に静寂に包まれた。私は深呼吸して、背筋を伸ばし、座道の心で集中力を高める。まるで畳の上で正座しているような気持ちで、問題用紙に向き合った。



 リスニングパートが始まった。スピーカーから流れる英語の音声に、耳を澄ませる。最初の数問は順調だったけど、会話のスピードが速くなるにつれて、ちょっと焦りが生まれる。


「落ち着け、しおりん。座道の極意その二:慌てず、流れに身を任せる」


 心の中で自分に言い聞かせ、呼吸を整える。ひかりんの席の方をチラッと見ると、彼女も真剣な顔でヘッドセットを調整してる。なんか、ひかりんと一緒に受験してるってだけで、ちょっと安心する。


 リスニングが終わり、リーディングパートへ。長編の文章問題に頭を悩ませながらも、単語帳で覚えたフレーズがいくつか役に立った。時間は刻々と過ぎていくけど、座道の心で冷静さを保つ。机の上でシャーペンを握る手が少し汗ばむけど、姿勢を崩さないように意識する。


 試験の終盤、疲れがピークに達したとき、ふと、かおりんと過ごしたあの夜の「座道式だるまさんがころんだ」を思い出した。暗闇の中で、静かに集中して、かおりんの気配を感じながら進んだあの時間。あの集中力、今ここで活かせるはず。


 私はもう一度深呼吸して、最後の問題に挑んだ。



 試験が終わると、会場からぞろぞろと学生たちが流れ出す。ひかりんと私は、講義棟のロビーで合流して、ホッと一息する。


「しおりん、どうだった? 手応えは?」


 ひかりんが、ペットボトルの水を飲みながら聞いてくる。


「うーん、リスニングはちょっとミスったかも……けど、リーディングはまあまあかな。ひかりんは?」


「私はリスニングの方が得意だった! でも、しおりんのあの集中力、めっちゃカッコよかったよ。座道部魂、試験でもバッチリだったね!」


 ひかりんがニヤッと笑うと、私もつられて笑ってしまう。


「ひかりんのおかげで、なんか落ち着いて受けられたよ。ありがと」


 私は素直にそう言って、ひかりんと軽くハイタッチ。



 その日の夕方、映画研究会内座道部の部室で、いつものように畳に座って映画鑑賞の準備をしていた。今日の映画は、ひかりんチョイスの洋画。英語字幕で、座道の姿勢を保ちながら見るのがルールだ。


 部室には、ひかりんと私、それに法学部の山野くんと文学部の安達さんも一緒。山野くんは「TOEIC、どうだった?」と聞いてくるけど、私は「まあまあかな」と曖昧に笑ってごまかす。


「しおりん、絶対高スコアだよ。だって、試験中のあの姿勢、めっちゃ座道だったもん!」


 安達さんが、ニコニコしながら言う。彼女の柔らかい笑顔に、なんかホッとする。


 映画が始まる前、ひかりんがふいに言った。


「ねえ、しおりん。TOEICの後だし、なんか座道式でリフレッシュしない? たとえば……座道式ゲームとか!」


「またゲーム!? ひかりん、かおりんと一緒でゲーム好きだよね」

 私は笑いながら、でもちょっとワクワクする。


「じゃあ、座道式『だるまさんがころんだ』はどう? しおりん、かおりんとやったって言ってたよね?」


「うそ、ひかりん、覚えてたの!?」


 私はびっくりして、思わず声を上げる。


「そりゃ覚えてるよ! しおりんの話、全部大事だからさ」


 ひかりんが、ちょっと照れたように笑う。その言葉に、私の胸がじんわり温かくなる。


「じゃあ、映画の後でやろう! 山野くん、安達さんも参加ね!」


 私が言うと、二人も「面白そう!」とノリノリで賛成してくれた。



 映画鑑賞の後、部室の畳の上で、座道式だるまさんがころんだが始まった。私は鬼役で、正座して壁に向かう。背後では、ひかりん、山野くん、安達さんが、音を立てないように近づいてくる。


「だるまさんが……ころんだ!」


 振り返ると、ひかりんが胡座をかいたままピタッと止まってる。姿勢はバッチリ、さすがイケイケ系美人。山野くんはちょっとバランス崩しそうで、安達さんは小さく笑いを堪えてる。


「だるまさんが……ころんだ!」


 二回目。気配が近づいてくる。ひかりんの呼吸が、ほんの少しだけ聞こえる。かおりんとやったときのことを思い出しながら、私は集中力を高める。


「だるまさんが……ころんだ!」


 振り返った瞬間、ひかりんが私の背中にちょんと触れた。


「みっけー!」


「うわ、ひかりん、早い!」


 私は笑いながら、ひかりんとハイタッチ。山野くんと安達さんも「ひかりん、忍者すぎ!」と笑い合う。


 ゲームの後、部室でお茶を飲みながら、今日のことを振り返った。TOEICの緊張、ひかりんとの励まし合い、座道式ゲームの笑い声。全部が、なんだか心を軽くしてくれる。


「しおりん、今日、めっちゃ頑張ったね。座道部魂、最高!」


 ひかりんが、いつもの明るい笑顔で言う。


「うん、ひかりんのおかげだよ。やっぱり、仲間と一緒だと、どんな試練も乗り越えられるよね」

 私は素直にそう答えた。



 家に帰ると、かおりんがリビングでアイスティーを飲みながら待ってた。


「しおりん、TOEICどうだった?」


「まあまあかな。リスニングでちょっとミスったけど、座道の心で頑張ったよ!」


 私は笑いながら、かおりんの隣に座る。


「さすかしおりん! じゃあ、今度、座道式TOEIC対策やろうよ! 正座しながら単語暗記とか!」


 かおりんが目をキラキラさせて言う。


「それ、めっちゃ修行っぽいね!」


 私は大笑いして、かおりんとハイタッチ。


 窓の外では、6月の夜風がそっとカーテンを揺らしていた。かおりんやひかりんと過ごす時間は、いつも私の心を整えてくれる。これからも、こんな日々が、ずっと続きますように。


 私は、今日の笑顔を胸に、明日もまた座道の道を歩こうって、静かに思った。

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