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第2話「にらめっこ」

 春の風がふわっとカーテンを揺らした。


 かおりん――いや、これからは「しおりん」と呼ばれる私の隣で、妹は何か考え込むように口を尖らせている。


「……ねえ、しおry……しおりん」


 また嚙んだ。そんないいい辛くないよね。


「ん? なに、かおりん(仮)」


「(仮)ってつけるのやめて」


「えー、それ外したら私ほんとにしおりん(正)になっちゃうじゃん」


「もうなってるんだよ、しおりん」


 にやっと笑う妹の顔を見て、私はちょっとだけ照れた。けど、それを見せるのもしゃくだから、すかさず話題を変える。


「そういえばさ、かおりんの制服ってもう届いた?」


「うん、さっき部屋で広げてたんだ。ちょっとブカブカだけど、袖を通したら急に実感わいちゃった」


「いよいよ高校生かあ……。いいなあ、青春って感じ」


「え、しおりんはまだ高校生じゃん」


「もう卒業式追わったら、高校生じゃないでしょ?」


「3月中は高校生でいいんじゃない?」


「うーーん」


 高校生のままでもいっか。でも……


「いやいや、入学したての頃が一番キラキラしてるんだよ。知らなかった?」


「なにそれ、先輩風吹かせちゃって」


 くすくす笑い合うこの空気が、私は好きだ。


 昔はもっと喧嘩ばっかりしてた気がするのに、不思議と今は、こうして何でもない会話が心地いい。


「……でもさ」


「ん?」


「高校って、楽しいだけじゃないよね?」


 急に真面目な顔になった妹の横顔に、私は少し驚く。


「友達100人できるかな?」


「小学校か!」


「中学の時、ちょっと怖かったの。友だちのことで悩んだり、なんか浮いてる気がしたり」


 ポツリとこぼれる言葉に、私は少し胸がぎゅっとなった。


「そっか。……じゃあさ」


 私は立ち上がり、妹の前に座った。


「にらめっこしよっか」


「は?」


「負けた方が悩みを聞く。どう?」


「なにそれ、しおりんルールすぎる……」


「いいからいいから。せーの、にーらめっこ、しましょ……」


 二人して顔を寄せ合う。うわ……まつげ長い……。


………………………………


 変な顔の妹って可愛い。こんなの笑えないって。


………………………………


 どうしよう、なかなか勝負つかないな……


………………………………


 よし、とっておきの鼻の穴を膨らませる技で……


 私が思いきり変な顔をした瞬間、かおりん(仮)は――笑った。


「ぶっ……!」


「はい、勝ちー!」


「ずるい、今のはずるすぎる!」


「ということで、悩みはもう全部聞いた。高校生活、怖くなっても大丈夫。何かあったら、しおりんがまたにらめっこで笑わせてやるよ」


 妹はちょっと涙ぐんだ目で笑った。


「……しおりん、ほんとにお姉ちゃん?」


「しおりんはしおりん。もう、お姉ちゃんなんて呼ばせてあげないもんねー」


「もう、調子乗ってる!」


 二人でソファの上でごろごろと転がりながら、私は思う。


 こうして、私たち姉妹の新しい関係が、少しずつ育っていくんだろう。


 春は、もうすぐそこだ。

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