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第11話「フォー〇ナイト」

 高校を卒業してから、急に時間がゆっくり流れるようになった。


 大学の入学式まではまだ少し先。バイトも始めてない。友達とも少し距離ができて、昼間の空白がぽっかりと空いていた。


 だから、夜はちょっとだけ――妹の時間。


「ねえ、しおりん、フォー〇ナイトやろ?」


 リビングでゴロゴロしていたら、かおりんがゲームパッドを持ってきて言った。制服じゃない、部屋着のかおりん。ちょっとだけ大人びた髪型。でも言うことは昔と変わらない。


「なにそれ?」


「え?マジで?」


「スマホでやるゲームだよ。遅れてるなあ、しおりんは」


 かおりんは少しあきれたような顔をしてから、笑った。


……スマホかぁ……あまり使いこなせてないなあ……


「……もしかしてスマホすらちゃんと使えない?……」


「はは……まさか……」


「ほーんとう?」


……まずい……バレる……


「ゴホンっ!高校時代"でじたる奇術部"だった私がスマホごときで」


「また聞いたことのない部活が……"でじたる奇術部"って何するの?」


「"でじたる奇術部"……それは何も触れずにデジタル製品の動きを止めることが出来る人たちが集まるのだよ」


「……それって……」


「まさに奇術!いや魔法と呼んでもいい!」


……よしよし、ごまかせそう……


「ただの機械音痴なんじゃ」


ギャフン


「……仕方ない…じゃあ、教えてあげるよ。わたしが!」


「おお、珍しくマウント取りに来たね?」


「ふふ、教え方には定評があるんです~!」


 言いながら、テレビにスイッチを入れて、コントローラーを私の手に押し付けてきた。


「テレビ?スマホじゃないの?」


「ゲーム機でもやれるのよ」


……うーーん、むずかしい……



 初めてのフォー〇ナイト。バトルロイヤル。ルールも何もわからない。

 おまけに、操作が独特すぎる。


「え、ジャンプと建築と狙い撃ちと……むずかしっ」


「最初はみんなそうだよ。感覚で覚えるの!」


「そんな曖昧な……」


 とか言いつつ、2戦目からは少しずつ、動けるようになってきた。え、わたしって天才か?


 最初のマッチでは、かおりんの後ろをついて歩いていただけだったけど、今は一緒に崖を登って、後ろから援護射撃できるくらいには成長した。


「ねえ、しおりん!左から敵来てる!」


「わかった、うおっ、やばい、撃たれてる……!」


「落ち着いて、建築して! ほら、壁、壁!」


「壁って、どのボタン!? これ!? ああああ落ちたあああ!」


「もう~~!ほんとに初心者か!?」


 隣で大声を出しながら、かおりんが笑ってる。

 私も思わず吹き出して、ゲームを一時停止した。


「……いや、これ、面白いね」


「でしょ?」


「っていうか、かおりん、こんなにゲームうまかったんだ」


「ふふ、最近、部活帰ってから毎日ちょっとずつやってたの。しおりんがいない間、家の中が静かだったから……」


 かおりんが、少しだけさびしそうに言った。

 私は言葉に詰まって思わず抱きしめてしまった。


「ひゃっ!」


「……ごめんね。あんまり家にいなかったから」


「ううん、しおりん、頑張ってたもんね。わたし、ちょっと()ねてただけ」


()ねてたの?」


「うん。だって……前は一緒に遊んでくれたのに、最近はいつも“あとでね”って言われてたから」


 ふふん、と冗談めかして言うけど、きっと本当なんだろうなって、思った。


「……そっか」


「でも、今日は一緒に遊べたから、もういいや」


 そう言って、かおりんは私の方にコントローラーを差し出す。


「ほら、あと一戦だけ。ビクロイ狙お?」


「ビクロイ……って、なんだっけ」


「Victory Royale!1位!いちばん!」


「よし、やってやる!」


 またゲームが始まる。画面の中では武器を集めて、資材を集めて、崖を登って、戦って。


「建築して!」


「撃ってる!今めっちゃ撃ってる!」


「もうちょい右!そっち、そっち!」


「わかったってば!」


 部屋の中には、笑い声とゲームの効果音が混ざっていた。


 姉妹って、なんなんだろうなって思う。

 友達みたいで、親みたいで、でもちょっとだけ特別な関係。


 かおりんが今、私の隣にいてくれるのが、ただうれしかった。



 その夜。

 ゲームを終えて、ふたりで寝転がりながら、かおりんがぽつりとつぶやいた。


「大学行っても、たまにはこうやって遊んでくれる?」


「うん、もちろん」


「ほんと?」


「うそだったら、しおちんってまた呼ばれていい」


「よっしゃ、しおちん復活!」


「まって、今のナシ!」


「もう遅い!」


 かおりんは勝ち誇った顔でクッションを抱きしめた。

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