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18話 超人化の覚醒と地下の決戦

 柏木と島木は、地下研究施設の冷たく湿った空気の中を駆け下りると、迷うことなく武器庫へと急いだ。薄暗い通路を抜け、重厚な鉄扉を押し開けた瞬間、二人は息を切らせながらも素早く動き、棚に並ぶ銃器に手を伸ばした。金属の冷たい感触が掌に伝わり、緊張が一層高まる。

「島木、準備はいいか?」

 柏木の声は低く、鋭い刃のように静寂を切り裂いた。

「はい、行きましょう!」

 島木は短く答え、銃を握りしめたその手が微かに震えているのを隠そうともしなかった。

 二人が武器庫を出ようとしたその刹那、扉が軋む音を立てて開いた。反射的に銃を構え、柏木が叫ぶ。


「誰だ!」

 暗がりから現れたのは、一人の男だった。白髪交じりの髪と疲れ切った表情が特徴的なその人物を見て、二人は一瞬硬直した。


「二人とも落ち着け、私だ。」

 声の主は、この病院の院長である古谷敏夫だった。柏木が安堵の息をつきながら口を開く。

「古谷さん! 無事だったんですね。」

「ああ、お前らこそ無事で何よりだ。院長室の監視カメラで見ていたが、よくあの混乱からここまで逃げてきたな。さすがだ。」

 古谷の声には、どこか誇らしげな響きがあった。

「ええ、なんとか。他の研究員たちは無事ですか?」

 柏木の問いに、古谷は頷いた。

「無事だ。もうこの町から脱出している。」

「良かった……。それにしても、奴らは何者なんですか?」

 島木が眉を寄せ、不安を隠しきれずに尋ねると、古谷の表情が一瞬曇った。

「わからん。だが、これから奴らを捕まえて聞き出そう。院長室の扉は開けておいたから、すぐここに来るはずだ。」

「古谷さん! マジですか? この施設で奴らと戦う気ですか? 奴らの目的はここですよ!」

 島木の声が裏返り、信じられないといった目で古谷を見つめた。

「島木、安心しろ。ゾンビに関する資料はデータ化して本部に送った。この施設のパソコンは全て破壊済みだ。奴らがここでゾンビの資料を見つけ出すことは不可能だ。」

 古谷の言葉は冷静で、まるで全てを計算し尽くしたかのようだった。


「いや、でも、資料だけじゃなく研究機材だって……」

 島木が反論しかけたが、古谷はそれを遮った。

「奴らを捕まえてしまえば関係ない。それじゃあ、柏木、島木、行くぞ。」

「え! 古谷さんも行くんですか?」

 柏木が驚きの声を上げると、古谷はにやりと笑った。

「ああ、私も戦闘に参加させてもらうよ。」

「い、いや、古谷さん、危険ですよ!」

 柏木が慌てて止めようとしたが、古谷は意に介さず武器庫を後にした。

「柏木さん、古谷さんって戦闘とか……できるんですか?」

 島木が呆然と呟くと、柏木は苦笑いを浮かべた。

「無理に決まってるだろ。古谷さん、もう70歳過ぎだぞ。ただの研究者で、戦闘経験なんてないはずだ……。とにかく追うぞ。」

「はい!」

 二人は急いで古谷の背中を追いかけた。


 一方、吉井とその部下たちは、院長室からエレベーターで地下へと降り立った。薄暗い研究施設の広々とした空間を見渡し、吉井は感嘆の声を漏らす。

「ほう……なかなか素晴らしい施設だ。」

「隊長、あそこに扉が。」

 部下の一人が指差すと、吉井は軽く頷き、静かに命じた。

「行きましょう。」

 コンクリートの壁に囲まれた無機質な廊下を進む一行は、やがて一つの扉にたどり着いた。部下が慎重に扉を開けると、そこは巨大な倉庫だった。無造作に置かれたコンテナが影を落とし、不気味な静寂が漂う。吉井と部下たちは、警戒しながらコンテナの間を進んだ。

 その時、どこからともなく声が響いた。

「そこで止まれ。」

 部下たちが一斉にアサルトライフルを構え、周囲を見回す。しかし、声の方向は定まらない。吉井が冷静に呼びかけた。


「お前は古谷か? 観念して投降しろ。無駄な抵抗をしなければ、無傷でこの町から出してやるぞ。」

「ふん、観念して投降しろだと? 悪いがそれはこっちのセリフだ。ただし、私はお前を無傷でここから出さないがな。」

 古谷の声が冷たく反響し、吉井の目が細まった。

「なるほど、あくまで抵抗するつもりか……。では、戦闘開始だ。」

 吉井が部下たちに目配せすると、彼らは左右に分かれて動き始めた。吉井はそばに立つ恭子に視線を移し、静かに告げた。

「あなたは私と一緒に来なさい。」

 恭子を連れ、吉井は後方へと下がっていった。


「柏木、島木、奴らは左右に分かれたぞ。私たちも分かれる。お前らは右へ行け、私は左から行く。」

 古谷の指示に、島木が慌てて叫んだ。

「ちょっと、古谷さん! どうしてそんなこと分かるんですか? ってか、古谷さんが戦えるわけないでしょ! 俺らに任せてください!」

「島木、大丈夫だ。私は戦える。行くぞ。」

 古谷はそう言い残し、さっさと左へと消えた。

「古谷さん!」

 島木が呼びかけた時には、すでにその姿は見えなくなっていた。

「島木、今は敵を倒すことに集中しよう。古谷さんのことだ、きっと何か策があるはずだ。」

 柏木の言葉に、島木は不安げに頷いた。

「そ、そうですね。分かりました。行きましょう。でも、古谷さん、丸腰だったんじゃないですか?」

「向かった先に武器があるのかもしれん。とにかく急ごう、状況が悪くなる前に敵を片付けないと。」

「了解です!」


 二人はコンテナの間を慎重に進んだ。やがて、前方から吉井の部下が近づいてくる気配を捉え、柏木が島木に目で合図を送る。島木が頷いた瞬間、銃口を敵に向け、引き金を引いた。

 乾いた銃声が倉庫内に響き渡り、敵の二人が倒れ込む。気付いた他の部下が反撃し、島木は咄嗟にコンテナの陰に身を隠した。敵の銃弾が雨のように降り注ぎ、コンクリートに跳ね返る音が耳を劈く。島木が反撃できないでいると、横から新たな銃声が轟いた。柏木が敵の側面から攻撃を仕掛け、数人を仕留めたのだ。

 敵の注意が柏木に集中した隙に、島木はコンテナの上に登り、アサルトライフルを乱射。柏木も同様に高所へ移動し、二人の連携が敵を圧倒し始めた。

 その時、古谷が向かった方向から連続する銃声が聞こえてきた。柏木と島木は一瞬顔を見合わせたが、目の前の敵に集中するしかなかった。やがて、吉井の部下たちは二人の猛攻に耐えきれず、次々と倒れていった。


「柏木さん、これで終わりみたいですね。」

 島木が息を整えながら言うと、柏木は鋭い目で前方を睨んだ。

「島木、あいつを捉えるぞ。」

「了解です。……古谷さんの方はダメだったでしょうね。」

「ああ、銃声も止まった。残念だが、やられたか捕まったかだ。諦めるしかない。」

 二人が進むと、倉庫の奥に二人の男と一人の若い女性が立っていた。一人は吉井、もう一人は背を向けているため誰か分からない。柏木と島木は銃を構えながら近づく。吉井が恐怖に歪んだ顔で背を向けた男を見ているのが分かった。

「おい! 動くな! ゆっくりこっちを向け!」

 柏木の鋭い声に、男が振り返る。その瞬間、二人は息を呑んだ。二十代前半に見える若者の目が、赤く光っていたのだ。

「ゾンビか!」

 島木が銃を向け、引き金に指をかけたその時、男が口を開いた。

「待て、島木。私だ。」

 聞き覚えのある声に、島木が目を丸くした。

「その声は……まさか、古谷さん!?」

「そうだ、私だ。」

 古谷のはずなのに、そこに立つのは若々しい肉体を持つ男だった。柏木と島木は言葉を失い、ただ彼を見つめた。


「驚くのも無理はない。二時間前、私は自分にゾンビウイルスを注射した。だが、ただのウイルスではない。長年改良を重ねた特殊なウイルスだ。意識を保ち、肉体を若返らせ、強化する……これはゾンビウイルスではなく、超人化ウイルスだ。」

「超人化ウイルス……古谷さん、そんなもの打って大丈夫なんですか?」

 島木が信じられないといった表情で尋ねると、古谷は小さく笑った。

「正直、わからん。実験段階だったからな。だが、上層部の命令だ。打つしかなかった。」

「上層部の命令?」

 柏木が聞き返すと、古谷は頷き、吉井を指差した。

「一つはこの男の正体を調べることだ。吉井、お前の部下は全員殺した。誰も助けてくれんぞ。私の質問に答えろ。お前はどこの組織の人間だ?」


 吉井は無言を貫いた。古谷は冷たく笑い、柏木と島木に命じた。

「離れていろ。この超人化ウイルスの実験も兼ねて、こいつと勝負してみる。」

 二人が下がると、古谷は吉井に近づいた。吉井がハンドガンを抜き、発砲するが、古谷の動きは超人的な速さで、残像を残しながら銃弾をかわした。次の瞬間、古谷は吉井の背後に立ち、掌底を胸に叩き込む。吉井は吹き飛び、苦しげに咳き込んだ。

「さあ、言え。お前はどこの組織の人間だ。」

 古谷が胸ぐらを掴んで持ち上げると、吉井は苦しげに吐き捨てた。

「誰が言うか、クソ野郎。さっさと殺せ。」

「ふん、言う気はないか。なら死ね。」

 古谷が両手で吉井の頭を挟み、力を込めると、悲鳴と共に頭が破裂した。血が古谷を染め、吉井は絶命した。

 柏木と島木が駆け寄る中、古谷は冷静に命じた。

「島木、あの娘を連れてこい。」

 恭子を指差すと、島木が連れ戻した。

「こいつ殺して良かったんですか?」

 柏木の問いに、古谷は淡々と答えた。

「ああ、どうせ喋らん。こいつは私の能力の実験台だ。上層部が本当に期待してるのは、もう一つの命令だ。」

「もう一つの命令?」

 柏木が尋ねると、古谷は静かに言った。

「須藤を捕らえることだ。」

 一同が驚愕する中、古谷はニヤリと笑い、島木を見た。

「もちろん、私だけじゃ無理だ。お前らの協力が必要だ。」

「やっぱり俺らもやるんですね……。」

 島木が肩を落とすと、古谷は続けた。

「安心しろ、もう一人協力者がいる。伊達文太郎だ。」

「伊達!?」

 驚く二人に、古谷は大声で叫んだ。

「伊達! 出てこい。さっきからここにいるのは分かってるぞ!」

 コンテナの陰から伊達と純一が現れ、古谷は恭子を引き寄せながら笑った。

「初めまして、伊達文太郎くん。」



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