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17話 須藤の影と地下の銃声

 文太郎は病院裏の林で、突如現れた10匹ほどのゾンビと対峙していた。


 ヘリコプターの着陸音に引き寄せられたらしいゾンビたちは素早く動くが、文太郎は冷静そのもの。アサルトライフルの消音器付きの銃口を眉間に合わせ、一匹ずつ確実に仕留めていく。かつて怯えながら戦っていた彼だが、先の女ゾンビとの戦いを経て、何かが変わっていた。恐怖は消え、戦士としての感覚が目覚めつつある。


 あっという間にゾンビを全滅させると、文太郎は周囲を見回した。もうゾンビの気配はない。消音器のおかげで新たな敵が音に反応して集まる心配もないだろう。彼は病院の表側へ向かって歩き出した。

(裏口から入ると、さっきの武装した連中に見つかるかもしれない。でも、どうにかして病院内に戻らないと……とりあえず正面の入り口に行ってみるか)


 姿勢を低くし、表側に近づいた瞬間、文太郎は驚きのあまり声を上げそうになった。病院の正面には数百ものゾンビが群がり、ただじっと佇んでいる。そしてその先頭に立つのは――須藤だった。異様な光景に困惑した文太郎は、ゾンビに見つからないよう裏側へ戻る。


(なんてことだ。須藤は俺たちを追ってきたのか……やばい、須藤とゾンビの群れが病院に入ったら全員死ぬ。その前に脱出しなきゃ……こうなったら強引にでも裏口から入るしかない)

 裏口へ走り出すと、突然扉が開いた。咄嗟に近くの大木の陰に身を隠す。すると、白人の武装男が、先ほど文太郎が倒した女ゾンビを担いで出てきた。男はゾンビを地面に下ろし、ハンドガンで眉間を撃ち抜く。死を確認すると病院に戻ろうとするが、その時トランシーバーから声が響く。男は応答し、会話が進むにつれ顔が恐怖で歪み始める。近くの見張りらしき男たちと話すと、彼らも同様に顔を歪め、裏口の扉を開けたまま急いで立ち去った。


 文太郎はその隙に裏口から病院内へ滑り込む。

(あいつら、須藤とゾンビの群れに気づいたな。それで逃げ出したんだ。でも、まずいことになった。早く恭子と純一さんを探さないと)

 ロビーへ向かおうとした時、息を切らせた純一が走ってきた。

「純一さん、無事ですか! 恭子はどこです?」

「伊達くん、無事だったか。大変だ、病院の前にゾンビの群が……」

「ええ、僕も見ました。早く逃げなきゃ。恭子はどこです?」

「恭子は君を探しにここに来たはずだが、君こそ見てないか?」

「いえ、見てません。どこにいるんだろう……」

 二人が困惑していると、池澤が駆け寄ってきた。

「大変だ! 伊達、恭子が変な連中にさらわれちまった!」

「なんだって!?」

「恭子をさらった連中は院長室の扉から中に入っていった。伊達、恭子を助けてくれ!」

「院長室の扉? どういうことだ?」

 池澤から事情を聞き、文太郎の顔が険しくなる。「すぐ追わなきゃ。純一さん、行きましょう!」

「ああ」

「池澤、ゾンビの群れは病院の前だけだ。裏口のゾンビは俺が片付けた。病院の人を集めて裏口から逃げろ」

「分かった。気をつけろよ」

 文太郎と純一は院長室へ急ぐ。

「伊達くん、娘は無事だろうか?」

 純一が心配そうに尋ねる。

「ええ、きっと大丈夫です。彼女は強い人ですから」


 文太郎は自信に満ちた表情で答え、純一を少し安心させた。二人は院長室に到着し、中へ入ると開いた鋼鉄の扉に気づく。

「この中に恭子が……純一さん、行きましょう」

「ああ」

 扉をくぐると真っ暗だったが、すぐに自動で明かりが点いた。

「伊達くん、どうやらエレベーターのようだ。このボタンを押せば移動するかも。押してみよう」

 純一がボタンを押すと扉が閉まり、エレベーターが下降を始める。

「どうやら病院の地下に行くようですね」

「ああ、そのようだ」

 エレベーターが止まり、扉が開く。外へ出ると純一が驚きの声を上げた。

「なんだ、ここは……」

「何かの研究所のようですね」

 病院地下に研究所があることに二人は驚きを隠せない。

「恭子はどこだ……」

「こっちに扉があります。行きましょう」

「ああ」


 扉を開けると、コンクリートの壁に囲まれた廊下に出た。二人が進むと、突然銃声が響く。顔を見合わせる。

「伊達くん!」

「行きましょう!」

 銃声の方向へ、音を立てないよう急ぐ。


 池澤はロビーへ走った。すると、大きな衝撃音が響く。

(なんだ? 今の音は)

 ロビーに近づくと、人々の悲鳴が聞こえてきた。到着した瞬間、病院内でゾンビが暴れ回っている光景が目に入る。

「間に合わなかったか……」

 絶望感に打ちひしがれるが、最後の気力を振り絞り両親を探す。せめて二人だけでも連れて脱出しようと決意する。やっと見つけると、両親はゾンビに襲われず、お互いを抱きしめて地面に座り込んでいた。

「お袋! 親父!」

 急いで駆け寄ろうとした時、一人の男が目の前を横切った。この状況で慌てず歩く姿に違和感を感じ、顔を確認すると――須藤だった。

「お前、須藤! 何やってんだこんな所で!」

 須藤はチラリと池澤を一瞥するが、無視して歩き続ける。赤い目を見た池澤は、その態度に怒りが湧き、肩を掴んだ。

「てめえ! 無視してんじゃねえ!」

 顔を真っ赤にして睨むが、須藤は気にも留めず、手の甲で池澤の頬を払う。次の瞬間、池澤の首がグルグルと回り、そのままねじ切れて地面に落ちた。目を見開いたまま、呆気なく絶命する。

 その光景に両親が悲鳴を上げると、ゾンビが反応し襲いかかる。抵抗も虚しく、二人は噛まれてしまった。


 須藤は池澤の死を確認せず、院長室へ向かう。扉を蹴破って中に入り、鋼鉄の扉を見つける。

(伊達の気配を感じて病院に入ったが……こいつが中に入ったな。恭子もこの部屋にいたはずだ。つまり一緒か……武装した奴らに邪魔されないよう化け物どもを連れてきたが、めんどくせえことにそいつらも中に入ったらしい。チッ、あいつらの相手もしなきゃならねえのか。仕方ねえ、化け物を何匹か連れてくか)

 須藤はゾンビ10匹を従え、鋼鉄の扉の中へ消えた。



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