11話 校舎の死闘と屋上の罠
校舎への逃亡
「柏木さん、こっちに学校があります。一旦校舎に入りましょう!」島木が息を切らせながら叫んだ。
「島木、校舎に逃げ込んでもゾンビに囲まれたら出られなくなるぞ!」柏木が鋭い声で警告する。
「分かってます。でも今は命を守るのが先です!」
「……仕方ねえか」柏木は渋々頷き、二人は学校の正門へと急いだ。しかし、正門は頑丈に閉ざされており、高すぎて登るのは不可能だった。
「島木、そっちの塀なら登れそうだ!」柏木が指差すと、二人は素早く塀をよじ登り、校庭に飛び降りた。足音を殺しながら校舎へと向かう。
「この学校、周りが塀で囲まれてるからゾンビは簡単に入ってこれないっすね」島木が安堵の息をつく。
「ああ、だが油断するな。あのビルからゾロゾロ出てきたゾンビは100匹以上いた。あれだけの数が正門に殺到したら、門がぶち壊されるかもしれねえ。まずは校舎に隠れて、次の一手を考えよう」柏木の声は冷静だが、緊張が滲んでいた。
校舎の入り口から中へ滑り込むと、二人は慎重に足を進めた。「島木、気をつけろ」と柏木が囁く。「はい」と島木が小さく返事をする。
「柏木さん、あそこ見て下さい。ゾンビが……奥にも何匹かいますね」島木が指差した先、廊下にジャージ姿のゾンビがうつむいてじっと立っていた。さらに奥の暗がりには、野球ユニフォームを着たゾンビが二匹、同じく動かずに佇んでいる。
「教師だろうな。奥のは生徒か……島木、始末できそうか?」柏木が低い声で尋ねる。
「手前の奴なら何とかなります。でも銃で撃てば倒れる音で奥のゾンビに気づかれますね。気づかれたら一気に襲ってきますよ」
「確かにな。奥のゾンビは遠すぎて銃じゃ当たるか分からねえ。もう少し近づけば確実に仕留められるんだが……」
「どうします? 厄介っすね」
「よし、俺に任せろ」柏木が決断すると、しゃがんで気配を消し、ゆっくりゾンビに近づき始めた。ジャージ姿のゾンビの背後に忍び寄ると、腰から軍用ナイフを静かに抜き、一気に立ち上がって喉を切り裂いた。ゾンビが振り向いて襲いかかろうとした瞬間、柏木はナイフをこめかみに突き刺す。ゾンビは動きを止め、ぐったりと崩れ落ちた。柏木は体を支え、音を立てずに仰向けに倒す。
島木に手招きすると、島木がそっと近づいてきた。「柏木さん、さすがっすね。喉を切って唸り声を上げさせないようにしてから仕留めるなんて」
「ああ、この方法なら奥のゾンビに気づかれねえ」柏木はナイフを腰に戻し、今度はハンドガンを取り出した。「島木、この距離なら奥のゾンビを撃てるか?」
「はい」二人は暗視スコープとサイレンサーを装着したハンドガンを構え、奥のゾンビを狙う。静かな銃声とともに、ゾンビが次々と倒れた。
「ここにいるゾンビはこれだけか?」柏木が銃をしまい、周囲を見回す。
「みたいっすね」と島木が応える。
「外はどうだ?」
「ゾンビはまだ中には入ってきてないっす。俺らのこと見失ったみたいっすよ」
「そうか、危なかったな。よし、裏門から出るぞ」
「了解っす。でもワゴン車に武器置いてきちゃいました。今持ってるだけっすよ。どうします?」
「ああ、残念だが取りに戻れねえ。このまま病院に行くぞ」
「そうっすか……なんかヤバいっすね」
「ああ、俺らの車に銃撃ってきた奴らも気になるしな。とりあえず行くぞ」
「はい」二人は校舎の裏へと向かった。
高校の思い出と危機の再来
「柏木さん、ここ高校みたいっすね。駅近くに高校なんて、登校楽だったろうなぁ。あ〜高校時代に戻りてえっす」島木が緊張を紛らわすように軽口を叩く。
「お前、高校時代楽しかったのか?」柏木が軽く笑いながら聞く。
「ええ、毎日勉強もしないで遊びまくってましたから」
「どうせナンパとかしてたんだろ」
「いや、『どうせ』って……まあ確かにしてましたけど」
「なんだ、お前、今流行りのリア充ってやつか。なんか許せねえなぁ」
「え〜、柏木さんは違ったんですか? イケメンで高身長なんだから、俺以上にリア充だったんじゃねえすか?」
「俺は親が厳しかったから勉強ばっかだった。お前みたいにチャラチャラしてねえよ。まあ、女にはモテたけどな」
「うわ、ひでえ言い方。しかもさりげなく自慢してやがる」島木が笑うと、柏木もフッと笑った。
校舎の裏にたどり着くと、裏門が見えた。「おしゃべりは終わりだ。行くぞ」と柏木が締める。「へ〜い」と島木が応じ、二人は警戒しながら進む。
「こっちにはゾンビいねえみたいっす」と島木が確認する。「よし」と柏木が頷いた瞬間、銃声が響き、柏木の足元で土煙が上がった。
「島木、校舎に戻れ!」二人は急いで校舎へ駆け戻った。
「柏木さん、上階から撃ってきてましたよ!」島木が息を切らす。
「ああ、島木、上へ上がるぞ。撃ってきた奴を捕まえる!」二人は階段を駆け上がった。二階に着くと、島木がそっと廊下を覗く。また銃声が鳴り、手すりに弾が当たる音が響いた。島木は慌てて顔を引っ込めた。
「島木、援護しろ。お前が撃ったら俺が教室に入る。今度は俺が援護するからお前が入ってこい」
「了解っす」島木が手すりから顔を出し、銃声が鳴ると一旦引っ込め、すぐ撃ち返した。その隙に柏木が教室へ走り、扉を開けて中へ飛び込む。ハンドガンを撃ち、島木を援護する。島木はスライディングで教室に滑り込んだ。
「よし、そこで援護しろ。俺は窓の外のひさしを通って様子を見てくる。上手くいけば挟み撃ちだ」
「頼んます!」島木が応じ、柏木は窓を開けてひさしへ出た。急いで三つの教室を過ぎ、四つ目の教室を覗くと、迷彩服の武装した三人がいた。狙いを定め、引き金を引こうとした瞬間、一人が柏木に気づく。
柏木が撃つと同時に敵も撃ち返し、残り二人もアサルトライフルで応戦した。激しい銃撃戦が始まる。「くそ、弾切れだ!」柏木のハンドガンの弾が尽きると、アサルトライフルに切り替えた。一人の敵の足に命中し、倒れた隙に眉間に撃ち込む。敵が絶命する。背後から銃声が響き、島木が残り二人を仕留めた。
柏木が窓から戻り、「よくやった、島木」と言う。「柏木さん、やべえっす。俺、弾切れです」「俺もだ。こいつらの武器を奪え」「はい」二人は敵の武器を奪い、倒れた一人を仰向けにすると、防弾チョッキを確認した。
「さっさと逃げるぞ」「はい」教室を出ると、階段からゾンビ五匹が降りてきた。二人は慌てて撃ち殺す。「島木、降りるぞ」階段を降りるとさらにゾンビが現れ、また撃ち殺した。
「くそ、結構いるな!」柏木が奥から迫るゾンビを撃つ。「こっちっす、柏木さん!」島木が窓を開け、飛び出す。柏木も続く。「裏門から逃げるぞ!」裏門へ向かうと、ゾンビが大量に押し寄せていた。先ほどの銃声に引き寄せられたようだ。
弾を撃ち尽くし、「だめだ島木、ゾンビが多すぎる。一旦校舎に戻るぞ」「了解っす」二人は再び校舎へ戻った。
「やべえ、絶体絶命っす」島木が呟く。「正門はどうだ?」柏木が聞くと、島木が入り口へ行き、正門を確認する。「柏木さん、ダメっす。中には入ってきてませんが、正門や塀の周りにゾンビがウヨウヨいます。銃声で気づかれましたね」
「仕方ねえ、上に上がるぞ!」二人は三階へ駆け上がると、教室からゾンビ二匹が現れた。「クソッタレ!」島木がナイフを手に突進し、柏木も加勢しようとするが、後ろからさらに二匹が階段を登ってきた。
「そっちの二匹は任せる。俺は後ろを倒す!」柏木が叫び、島木は二匹に立ち向かう。左のゾンビが殴りかかってきたのをしゃがんで避け、体当たりで右のゾンビにぶつける。二匹が倒れると、左のゾンビの頭にナイフを突き刺した。もう一匹にも刺そうとした瞬間、教室から別のゾンビが現れ、顔面にパンチを食らわせる。
島木が吹っ飛び、一瞬意識を失うが、すぐに立ち上がる。殴ったゾンビが首を絞めてきた。「島木!」柏木が叫び、後ろのゾンビをかわしながらナイフを投げる。ナイフが頭に刺さり、ゾンビが崩れ落ちる。島木は咳き込みながらナイフを抜き、柏木を襲うゾンビに投げつけた。柏木がそのナイフを抜き、もう一匹のこめかみに刺す。
残ったゾンビが立ち上がり襲いかかると、島木はパンチをかわし足を引っ掛けて倒し、頭にナイフを突き刺した。「島木、大丈夫か?」「ええ……助かりました」下の階からゾンビの唸り声が響く。「くそ、仕方ねえ。屋上に行くぞ!」
屋上の罠
屋上へ駆け上がると、島木が呟く。「柏木さん、万策尽きたっすかね? 俺ら終わりですか?」「万策は尽きたが、諦めるな。こんな所で死なねえよ!」柏木が扉を開けると、二人は驚愕した。
屋上には迷彩服の男たちが銃を構え、柏木と島木に狙いを定めていた。先頭の男が冷たく告げる。「終わりだ。柏木、島木」
二人は両手を上げる。「お前ら、何者だ?」島木が問うが、男は無言で無線に連絡する。「予定通り柏木と島木を捕まえた。こっちに来て拾ってくれ」了解の声が返る。
「柏木さん……」島木が正体を知りたそうな目で柏木を見ると、柏木は首を振る。1分もしないうちに軍用ヘリが飛来し、縄梯子が降ろされた。「登れ」と男が命令し、二人は梯子を登る。男たちも続き、全員が席に着くと、島木が再び問う。「俺たちをどこに連れて行く気だ?」
男は不敵な笑みを浮かべ、「安心しろ。元々行くはずだった所だ」と答える。「何? どこだ?」島木が睨むと、男は再び笑い、「そんな怖い顔で見るな。おい、出発しろ!」と操縦者に指示。ヘリが動き出す。
柏木と島木は顔を見合わせ、柏木が軽く頷いて制止する。島木は下を見ると、ゾンビが正門を壊し校庭に侵入していた。「まあ、ここから脱出できただけ良しとするか」と呑気に呟き、目を閉じた。柏木も軽く笑って目を閉じる。