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10話 病院への道と不穏な影


「今、鍵を開けるから横の扉から入ってくれ」文太郎がそう言うと、ワゴン車のドアスイッチを押した。カチリと解錠音が響き、池澤がスライドドアを開けて勢いよく乗り込んできた。文太郎はそれを確認すると、すぐに車を発進させた。


 池澤は座席に落ち着くなり、恭子に馴れ馴れしく話しかけた。「まさかこんな所でお前に会えるとは、びっくりだぜ。元気だったか?」


 文太郎はその態度に一瞬イラっとしたが、感情を抑え、努めて明るい声で割り込んだ。「ボクシング部の池澤だよね。俺たち、これから名戸ヶ谷病院に行くんだけど大丈夫かい?」

 池澤は文太郎の存在にようやく気づいたように目を向け、面倒くさそうに応えた。「ああ、大丈夫だ。俺も名戸ヶ谷病院に行く途中だった。両親が医者でそこで働いてる。あんた、俺と同じ高校の奴か? なんで恭子と一緒にいるんだ?」

「そうだよ。クラスは違うけどね。名前は伊達文太郎。両親とは連絡取れてる?」文太郎は恭子との関係を説明せず、逆に質問を投げかけた。


 池澤は早く恭子と話したいのか、適当に答えた。「ああ、二人とも無事だ。さっき連絡取ったばかり。病院の入り口はバリケードで塞いで化け物が入らないようにしてるらしい。表からは入れねえけど、裏口なら入れるって親父が言ってて、そこで匿ってもらうつもりだ」そう言うと、再び恭子に向き直った。「それにしても恭子、久しぶりだな」

「そうね」恭子は明らかに迷惑そうな顔でそっけなく返した。しかし、池澤はその態度に気づかず話し続けた。「お前、なんで名戸ヶ谷病院に行くんだ? 知り合いでもいるのか?」

「お父さんが入院してるのよ」恭子の声は冷たく短い。

「恭子の親父さんか……。まあ安心しろ。親父が言うには、病院内に化け物は入ってきてないってさ」その言葉に、恭子の表情がわずかに和らいだ。


 だが、池澤は調子に乗って続ける。「ところで恭子、病院に着いたら俺と一緒にいろよ。この町は化け物だらけだ。俺が守ってやるから」自信満々の笑みを浮かべると、恭子はうんざりした顔で即座に切り捨てた。「文太郎くんが守ってくれるから結構よ」

 池澤は文太郎をチラリと見やり、いかにも気弱そうな外見に鼻で笑った。「お前、何冗談言ってんだよ」恭子の言葉を本気にする気はゼロだった。恭子はもう話すのも無駄だと黙り込み、池澤は面白くなさそうに文太郎を睨んだ。


 気まずい空気を察した文太郎が慌てて話題を変える。「いやー、それにしてもよく無事だったな」

 池澤は面倒くさそうに答えた。「ああ、俺は部活引退したけど、近くのボクシングジムで練習続けててさ。そこの帰りに化け物に襲われた。ジムの連中と一緒に戦ったけど、全員やられちまって。俺は何匹かぶん殴ってその隙に逃げたんだ」

「そうか。この状況を一人で生き延びるなんてすごいよ」文太郎は素直に感心した。

 褒められたと思った池澤は気分を良くし、得意げに話し始めた。「まあな。あんな化け物なんてちょろいもんだ。見た目は恐ろしいけど、ただ闇雲に突っ込んでくるだけだからな。俺みたいに実戦経験豊富な奴には大したことねえよ」そして恭子に目をやり、再び口を開く。「恭子、とにかく俺と一緒にいろ。あの化け物どもからお前を守れるのは俺だけだ」

「だ・か・ら、文太郎くんに守ってもらうから結構よ!」恭子は池澤を睨みつけ、キツく言い放った。

 鈍感な池澤もその口調に腹を立てたのか、声が荒々しくなる。「ああ? お前、さっきから何馬鹿なこと言ってんだよ! こんな弱そうな奴にお前を守れるわけねえだろ!」


 その言葉に文太郎は内心カチンときたが、今は喧嘩している場合じゃないと黙って運転を続けた。しかし、恭子は我慢ならなかったようだ。「いい? あんたは化け物に襲われて逃げただけかもしれないけど、文太郎くんはもう3匹殺してるの! 文太郎くんの方があんたより何倍も頼りになるわよ!」

 池澤は驚いた顔で文太郎を見た。文太郎は慌てて弁解する。「い、いや、運が良かっただけだよ。俺が投げ飛ばした化け物がトラックに轢かれたり、偶然が重なっただけだって」


 池澤は納得したように頷きつつも、恭子の素っ気ない態度に苛立ちを募らせ、嫌味を言い始めた。「恭子、お前なんか変わったな。随分キツい性格になっちまったじゃねえか。髪も金髪にしてるし、なんかお前のキャラじゃねえよな。俺と付き合ってた時は大人しいお嬢様って感じだったのに」

 恭子は我慢の限界を超え、キレた。「うるさいな! さっきからあんたいつまで私の彼氏ヅラしてんのよ! とっくに別れたんだから馴れ馴れしくしないで!」

 突然怒鳴られ、池澤は顔を真っ赤にして反撃する。「ああん? 何キレてんだよ! そういやお前、俺と別れてから須藤と付き合ったって噂だよな。金髪にしたのも須藤みたいな不良の影響かよ!」

「別に誰の影響とか関係ない。ただ、高校卒業するし、一度くらいやってみようかなって思っただけよ」

「へぇ、須藤と付き合ってることは否定しないんだな! よりにもよって須藤と付き合うなんて、お前ちょっと無神経すぎねえ?」

「はぁ? 私が誰と付き合おうと私の勝手でしょ。それに圭一とは別れたし」恭子の「別れた」という言葉に、池澤が一瞬嬉しそうな顔をした。


 二人の言い争いをヒヤヒヤしながら聞いていた文太郎が、ついに仲裁に入る。「と、とりあえず二人とも、そろそろ病院だ。喧嘩はやめてくれ。今はそれどころじゃないよ」

 恭子は仕方なく黙ったが、ムスッとした顔で前を向いた。池澤も興奮が冷めたのか、気まずそうに下を向く。文太郎はホッとして運転に集中した。


 交差点を右に曲がると、広い車道に出た。「このまままっすぐ行けば病院だ。そろそろ着くよ」と文太郎が二人に告げる。恭子と池澤は安堵の息をついた。

 文太郎は早く病院に着きたくてアクセルを踏んだ。すると、横に大型トラックが並走してきた。文太郎は一瞬焦ったが、冷静にハンドルを切ってかわす。通り過ぎる際、運転席をチラリと見ると、不思議そうな顔をした。

「文太郎くん、どうしたの?」恭子が尋ねる。

「いや、今通り過ぎたトラック、荷台に幌が被せてあって、自衛隊か軍隊が使うみたいな感じがしてさ。運転席に誰かいるか確認しようとしたけど、横もフロントガラスも黒いフィルムで中が見えなかったんだ。不思議だなって」

「じゃあ、もうこの町に自衛隊が来てるのかな?」

「分からない……。まあ、とりあえず病院に着くよ」

「やっと着いたのね……」恭子はホッとした様子で呟いた。

 トラックの中の密談

 文太郎の車が追い越していった直後、停まっていた大型トラックのエンジンが唸りを上げた。どうやら中には人が乗っていたらしい。

「隊長、今通り過ぎた車がそうです。やはり名戸ヶ谷病院に向かってます」運転席の男が助手席の男に報告する。

「そうですか……。理由は分かりませんが、我々と目的地が同じようですね。ところで、柏木と島木はどうなりました?」

「はい、予定通り捕獲できそうです。あの二人の車はもう壊れて乗れません。Bチームが捕獲に向かってます」

「そうですか。二人を捕まえたら、予定通り名戸ヶ谷病院に連れてきてください。"レア"はどうですか?」

「"レア"は隊長がおっしゃる通り捕獲は無理なので、殺して遺体を回収する予定です。Cチームがそろそろ攻撃を開始します」

「分かりました。当初の予定より仕事が増えましたが、必ず任務を成功させましょう。まずは柏木と島木の捕獲が最優先です」

「了解しました。Bチームに伝えておきます」

「さて、我々はさっきの車を追います。おそらくあの車には伊達文太郎が乗ってるはずです。名戸ヶ谷病院で彼を捕獲しましょう」

「了解しました」

 運転席の男がダッシュボードのスイッチを押すと、真っ黒だったフロントガラスとサイドガラスが透明に変わった。助手席の隊長と呼ばれた男がヘッドセットのスイッチを押す。

「みなさん、仕事も終わりが近づいてきました。しかし油断せず、必ず任務を成功させましょう。それでは行きますよ」

 運転手の男は隊長に頷き、ギアをドライブに入れてアクセルを踏んだ。トラックが静かに動き出し、暗闇の中を進み始めた。

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