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金曜日


「なあ、『幸せ磁石』って知っとる?」


 金曜日の17時、荒川の川沿いにある階段で、那須が荒川に石を投げている。

その後ろでサトテルが頭を抱えて座っている。


「なんかな、幸せは、自分が望んだ分だけ引き寄せるねんて」


 サトテルは頭を抱えたまま動かない。


「おかしいやん。そんなん。ワシ彼女ほしーって毎晩お星様に願ってんねんで。

 せやのに何で引き寄せるのがお前なんや」


 サトテルは頭を抱えたまま、反応もしない。


「なあ、なんか言えやサトテルー。

 何か?わしゃお地蔵さんに喋っとるんか?」


 サトテルは、足元のペットボトルの蓋を開けたり閉めたりしながら、やはり喋らない。

那須が、石を一つ荒川に向かって投げると……


「痛っ!!」


 そこで初めてサトテルは那須を見た。

那須は脇腹を抑えている。多分位置的に、蹴られた痣のある位置だ。

心配してほしい時、那須は時々そこを痛がるのをサトテルは知っていた。

その仕草が、サトテルは大嫌いだ。


「ははは……脇腹つったわ……。いててて」


 那須は、欠けた前歯をサトテルに見せて笑った。

サトテルは、虚な目でしばらく那須を見ると、再び下を向いてしまった。


「なんや。悩み事かサトテル。せっかく今日もはるばる東京に来たんや。聞くで」


 那須はサトテルの隣に座ると、サトテルは立って那須から離れた場所に座った。


「何やねん」


「……」


「……つまらんの。ええで。サトテルに面白さを期待すんのは諦めたのワシ。

 帰るわ。……風邪でもひいたらええ。こじらせて死ね」


 那須は、最後に小石を荒川に放り投げたら、階段を登って歩道に出た」

そして、思い出したように再びサトテルをみて……


「せや。ワシ卒業したら…… ……ガ!?」


 那須の頭を、サトテルが大きな石で強打した。

那須が頭を抑えてうずくまると、サトテルは那須を蹴り倒して階段から突き落とす。


 那須の体が、深い茂みに転がり込む。

階段には、赤い血が点々と付着している。


 サトテルは、さらに、那須の頭に大きい石を二発。三発、自身の体重をかけて打ちつける。

憎しみなんてものじゃとても追いつけない、重たい感情を乗せて打ちつける。

返り血と夕日が、サトテルの顔面を染める。

那須が動かなくなってからも、入念に、入念に、何度も、何度も頭を石で殴った。

狩人が罠にかかった鹿にとどめをさすように。何度も、何度も。


 息を荒げながら、ペットボトルの中の液体を那須にかけた。

そして……マッチに火をつけた。


「……あーあ」


 顔の上から半分が変形して潰れたマッシュポテトのようになってしまった那須が、サトテルに喋りかける。


「……勘弁してえな」


 その言葉を聞き届けると、息を切らせて、目を血走らせた真っ赤なサトテルは、


「じゃあな」


 と言って、火のついたマッチを、那須の体に放り投げた。


 大袈裟なくらい大きな火柱が、夕日に向けて上がった。

強い風が何度も吹きつけ、生き物の焦げた匂いをサトテルの鼻腔まで運んだ。

煙に思わず咳き込む。


 肩を上下させて、サトテルは呼吸をしていた。

そして、よろよろと炎から離れて、その場に座り込む。


「ふぅ……ふぅぅ……うううう……」


サトテルの泣き声も、炎の音がかき消す。

うずくまるサトテルを、夕日だけが見ていた。


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